短期連載 マルチ・リーダー時代のリーダーシップ革新 前編 フォロワーシップ・リーダー育成のすすめ
ビジネス組織において、リーダーシップとは何かという追求や、効果的なリーダー育成のあり方が大きな関心事になっている。こうした中、注目され始めているのは、リーダーシップを支えるフォロワーシップである。従来のリーダーシップ研究はリーダーの資質や行動に着目されてきたが、1990 年代ごろから、優れたリーダーシップは優れたフォロワーシップによって支えられることと、リーダーシップとフォロワーシップは動的に移動しながらリーダー行動が展開されているという考え方が注目され始めている。こうした最新の理論を背景に、今号と次号の2回にわたって、企業におけるリーダーシップの発揮やリーダー育成の実践のヒントを考えていきたい。
組織構造の柔軟化に伴ってリーダー育成が重要な課題に

現在、ビジネス組織に求められる構造は、従来の階層型からマーケットニーズの変化に応じて柔軟な対応のできるものへと変わりつつある。それは、変革とそれがもたらす状況に応じて変化する組織構造であると言い換えてもよい。
「誰でもリーダー」をコンセプトとしたリーダーシップ育成プログラムを発表したバーグマンらは、こうした組織構造の変化を図表1のように描き、この変化に伴って、組織には、質量ともに多様なリーダーが必要になり始めていることを指摘している。
組織を取り巻く環境の変化は絶え間なく、しかも、現に展開している事業の多様な領域で輻輳して起こっている。この変化にいかに対応するかが、今日の組織の大きな課題だ。このため、変化に追随する組織構造への変化が促されていると同時に、多様なリーダーシップスキルを備えたスタッフすなわち、「リーダー技術者」の数が組織の競争力に、より大きな影響を与えるようになってきた。簡単に言えば、リーダー技術者の数が限られている組織の競争力は、リーダーとなり得る人材を多数抱えた組織の競争力に著しく劣るということである。
このため、多くの組織で、リーダー人材不足が指摘されるようになったり、リーダー技術者をどう育て、どう組織の中で増殖させるかが課題になったりしている。特に、競争環境下におかれた企業においては、リーダーの育成は競争に勝ち抜くための解決策として捉えられるようになっている。
本論は、このような認識を持っている読者諸氏に向けて、筆者が仲間たちと開発している「フォロワーシップ・リーダー」と名づけたリーダーシップ研修プログラムのフレームワークを提供しようとするものである。
リーダーシップ論の沿革と今日のリーダーシップ研究
リーダーシップについては、古くから多くの先人たちが自らの試行錯誤の経験に基づいて、あるいはアカデミックな研究を通じて、さまざまな知見を生み出し、私たちに貴重な知見を与えてくれている。
そこで、フォロワーシップ・リーダーについての考察を進めていく前提として、これまでのリーダーシップの知見について触れておきたいと思う。
ハーバード大学のバーバラ・ケラーマンは、過去500 年間に書かれたリーダーシップ論の古典的名著10選を「ハーバード・ビジネスレビュー」2002年5 月号でレビューしている。このレビューに登場するのは、マキャベリの「君主論」、カーライルの「英雄崇拝論」、バーナードの「経営者の役割」、マーチン・ルーサー・キングの「バーミンダム監獄からの手紙」などが含まれている。
このレビューを読むと、リーダーシップ論は、時代の流れに応じてさまざまに深化し、今日のリーダーシップ論につながっていることがわかる。
リーダーシップの初期の研究は、リーダーの特性で論じる考え方がとられていた。いってみれば、リーダーにはどのような資質や能力が要求されるかという研究で、今日こうした方向性を持った研究を「特性アプローチ」と呼んでいる。
その後、50年代頃から、リーダー行動に着目した研究が盛んになっていった。これは「行動アプローチ」と呼ばれるもので、「特性アプローチ」への批判から生まれ、行動科学者による数多くの成果が発表されている。
そして、その後登場したのがコンティンジェンシー・モデルとかパス=ゴール論である。
コンティンジェンシー理論(状況適合理論)は、リーダーの資質や行動・振る舞いは、常に通用するものではなく、望ましいリーダーシップは、状況に応じて変化するという考え方を前提にしている。
また、パス=ゴール理論は、リーダーの重要な役割は、有意義な目標(ゴール)を示し、その目標に至る経路(パス)を拡大させることによって、フォロワー(部下)の動機づけ水準を高めることであるということを前提にしたリーダーシップ研究のアプローチである。
最近関心を集めているモデルでいえばブランチャードとハーシーの状況対応リーダーシップは、こうした先行研究の成果をもとに展開されたもので、多くのリーダーシップに関心を持つ研究者だけでなく、実務家にも多くの示唆を与えてくれるモデルとして知られている。
そして、90年代に入って注目され始めたリーダーシップ論は、「サーバント・リーダーシップ」をはじめ、フォロワーをリーダーシップ行動の起点としたアプローチである。ことに、ロバート・ケリーが提起した「フォロワーシップの力」は、フォロワーシップという側面からのリーダーシップのあり方を示唆するもので、従来のリーダーシップ論が見過ごしてきた、部下の持つリーダーシップ育成力に燭光を与えるものとなった。
一方、リーダーシップでは従来、リーダーとフォロワーの相互作用を重視しながらチームをまとめ、目標達成に導いていくことが注目されてきた。これは、組織やチームをまとめる力を重視したリーダーシップであり、交流型リーダーシップなどと呼ばれている。

