J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2009年08月号

連載 HR Global Eyes 世界の人事ニッポンの人事 Vol.2 ナレッジマネジメントの要 「チューター」と「師匠」

棚田 幸紀(たなだ ・ ゆきのり)氏
日本能率協会コンサルティング(JMAC)グローバル・テクニカル・アドバイザー。横浜国立大学工学部建築学科・修士課程修了。1級建築士。1975~1978年、フランス国立科学研究センターCNRS主任研究員。1981年JMAC東京入社。1984年パリ支社設立、2009年副社長職を最後に日本に帰任。

今回は私的な話から始めることをお許し願いたい。

元々の専門は建築分野で、設計実務やフランスの研究所暮らしをした後、30年前、縁があって日系のコンサルティングファーム(JMAC)の東京本社に入った。無論「中途採用」である。業歴から研究開発マネジメント部門に所属したが、当時、具体化しつつあったフランスプロジェクトの要員でもあった。外国語で仕事をする面白さを覚えた頃だったので、フランスに戻るのはやぶさかではなかったが、工学系の仕事とは言え、経営的なコンサルティング実務では文字通り駆け出しだった。

今でも頭が下がるのは、その時の上司K氏の英断である。私の早期育成のために「チューター(個別指導員)」を複数人つけてくださったのだ。コストの専門家N氏、設計管理とプロジェクトマネジメントのベテランO氏、そして生涯の「師匠」になったS氏――今日の私があるのも、こうした先輩たちのお陰である。

こんな恩恵に浴したせいだろう。チューター制には個人的な思い入れがあって、機会を見つけては導入のお手伝いをしてきた。もちろん、人材の見取図が俯瞰できるような付き合いの長いクライアントに限られたが、グルノーブルにある重電メーカーのMG(現SE)社、ブルターニュにある農業機械のSB社、リヨンの高級婦人下着メーカーLC社など数々の機会に恵まれた。ただし私の場合、人事制度の観点からではなく、実務で困っている技術者を手助けする仕組みをつくってあげたい、という切実な思いが動機となっていた。

個別対応仕立ての新入社員研修

フランスではチューター制が好まれるが、これにはいくつかの理由がある。中途入社が一般的なことがまず大きい。元々、一斉採用という形のほうが稀で、日本の勢揃いした入社式の話をすると珍しがられるほどだ。学卒も、米英ほど派手な卒業式もないまま、個別採用でバラバラに入って来る。特に腕に自信のある専門技術者は、中途採用の転職組が多い。彼らにとって、業務的な社内の仕組みや部門間のつながりを理解するには、入社直後の「ウエルカムプログラム」などに頼るほかない。

このウエルカムプログラムは、法で定められた6カ月の試験雇用期間中に(会社も新入社員も自由に中断できる)多くの大企業で適用されているが、中身は日本の新人研修によく似ている。違うのは“一斉カリキュラム”ではなく“個別対応”仕立てである点だろう。

日本でも「メンター」という名で、20歳代後半から30歳代前半の先輩社員が新入社員の面倒を見る、という仕組みを採っている企業も少なくない。内部社員によるコーチングも同じ工夫だろう。ただ、増えつつある中途採用者への対応、特に個別型のウエルカムプログラムについては、あまり聞いたことがない。

ちなみに“メンター(Mentor)”は、「精神的な」という意味の“メンタル(Mental)”とは何の関係もないことを、私は最近知った。危うく心理カウンセラーと混同しそうだった。メンターは、ギリシャ神話でオデッセウスが息子の教育を託した親友の名、メントールから来たギリシャ語なのだ。フランス語はそもそもラテン語から派生しているし、誤解を防ぐためにも、フランスではラテン語由来の“チューター(Tuteur、英語のTutor)”のほうが使われている。

さて、チューターにしろメンターにしろ、日本の企業はニーズに合わせて必要なだけの“個別指導員”を用意するのに苦労している。これがネックでチューター制がうまく回らない、という現場の悩みも聞く。私のフランスでのクライアント先でも、同じような難しさがないわけでもなかったが、逆に、1人ひとり入社時期がずれた個別対応であるがゆえに、うまくチューターの配員ができて救われたことも何度かあった。

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