J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2009年08月号

連載ラーニングイノベーションVol.6 ビジョンは現場で ビジョンになる

中原 淳(なかはら・じゅん)氏
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授。東京大学、大阪大学大学院、マサチューセッツ工科大学等を経て、現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・成長・コミュニケーションについて研究している。共編著・共著に「企業内人材育成入門」「ダイアローグ 対話する組織」など多数。ブログ:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。

ビジョンを求める人ほどビジョンを否定する

組織には、2種類の「ビジョン症候群」が蔓延しています。1つめは、組織のボトムラインに生じるもの、もう1つはトップ層に生じるものです。今日は、この2種類の「ビジョン症候群」についてお話ししましょう。

昨今、組織の活性化のため、あるいは、職場の一体感をつくり出すために、“ビジョンのマネジメント”が注目されています。人事部には、人の側面から組織の強みをつくり出すことが求められていますが、その仕事は、この問題と非常に関連が深いと思います。

まずは1つめの症候群、それは、ボトムラインで起こるビジョン症候群です。症状は、「うちの組織にはビジョンがない」「うちの社長は明確なビジョンを持ってない」と嘆いている方に典型的に見受けられます。しかし、これらの言葉をすべて真に受けてはいけません。

なぜか? 少なくとも僕はアカデミアという領域しか知りませんが、「ビジョンが欲しい」という人に限って、ビジョンができたら文句を言い、自分から何もアクションをとろうとはしない傾向があるからです。いざビジョンが明示されたら、「こんな不明瞭なビジョンじゃ、何から手をつけていいかわからない」と言うのです。もう「どっちやねん!」とツッコミを入れたくなりますね(笑)。

僕の短い人生で、「ビジョンを欲しつつ、それが与えられた時に、それに基づいてアクションをとった人」を、悲しいかな知りません。「上」が何かをやってくれるに違いない。ビジョンという名のプランやルールを作って、「上」が何をしたらいいか教えてくれるに違いない。そう思っている方が多いように思います。皆さんの会社はいかがですか?

急ごしらえのビジョンは浸透しない

もう1つのビジョン症候群は、現場とは真逆のトップ層で発生します。雇用条件の多様化、グローバル化が進む中で、ただでさえ多様性が増していく職場。噴出する諸問題。その中で、組織内をまとめあげて従業員のモチベーションを向上させる「即効薬(quick fix)」として、経営層がビジョンに着目する事例が増えています。

この場合、高いコンサルティング費用をかけて、きっちりとした自社のビジョンを策定します。そこには、経営者の熱意や思いが、これでもか、という具合に反映されています。短く、わかりやすい文章で、組織のあるべき方向性が熱っぽく語られています。

しかし、ここからが問題です。いくら経営者の想いがつまっていても、急ごしらえのビジョンは、なかなか組織には“浸透”しません。人は「何かを浸透させたい」と願うものですが、「浸透されたい」とは願わないからです。せっかくつくったビジョンも、職場の会議で数分紹介されるだけに終わることが少なくありません。

困った経営者は、キャラバンを組んで、自ら現場に出向き、ビジョンを熱っぽく語ります。あるいは、高額な費用をかけて、手帳やポスターなどを作成して社員に配付します。朝の始業前や、全社の会議などで、事あるごとに“唱和”することも求められます。

しかし、経営層が熱くなればなるほど、現場の目は冷ややかになっていきます。「上」に唱和せよと言われれば、職務命令ですから、大きな声を出します。しかし、誰1人として、その言葉が腹に落ちている人はいません。誰1人共感できないビジョンを、唱和する。こういう“お寒い状況”が生まれます。皆さんの会社でも、こういう状況が起こっていませんか。

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