J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2009年08月号

My Opinion ③ 360 度フィードバックによる 教育効果測定の繰り返しが 個々人の行動変容を起こす

教育効果を測り、経営に示すことは、教育の必要性を訴えるうえで重要である。
しかし、教育効果を測る利点はそれだけではない。繰り返し測定することで、個々人の教育に対する意識が高まり、行動変容につなげることが可能となるのだ。
そのためには、個々人に気づきを促す「360度フィードバック」が有効である。
360度フィードバックで得られたデータは、その組織や現場にフィットした人材の能力要件を定めたり、人材育成の柱を構築するために使うことができる。さらには、個々人が自身の能力開発における課題を認識するきっかけにもなり、「育てる風土」をも醸成するという。

南雲 道朋(なぐも・みちとも)氏
HRアドバンテージ取締役
東京大学法学部卒。富士通、外資系コンサルティング会社、マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング(現・マーサージャパン)、ベリングポイントを経て、2006年4月より現職。分野を横断するシステム思考の実践を基本とし、マネジメント改革、組織改革、人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を得意とする。著書に『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(日本経済新聞出版社)などがある。

人材教育の効果は示しにくいとの声がよく聞かれるが、実はそれを経営者に示すことは不可能ではない。教育によって変化をもたらしたい行動は何かをあらかじめ明確にし、その行動を測定して本人にフィードバックすることを繰り返せばよいのである。そのことによって目に見える改善が始まる。

「測定できないものは改善できない(If you can't measure it, you can'tmanage it.)」とは経営学者ピーター・ドラッカーの名言だが、これは人材教育の文脈でも当てはまる。教育研修を実施する場合も、「教育研修が主」で「効果測定が従」と考えるのではなく、むしろ発想を転換し、「効果測定が主」で「教育研修が従」とすべきなのだ。そしてそのためには、「360度フィードバック」による継続的な測定の仕組みづくりが有効であることを本稿では示したい。

360度フィードバックでの“気づき”が育成のスタート

360度フィードバックとはご存知の通り、日々の仕事における行動を、職場の上司・同僚・部下といったあらゆる方向(360度)からフィードバックしてもらうというものだ。仕事の仕方やコミュニケーションのとり方などについて、他の人から評価してもらうことで、さまざまな気づきを得ることができるのである。

自分の成長の必要性を痛感し、何を改善すべきかが腹に落ちれば、それは行動変容につながる。知識やヒントを得るためのあらゆるリソースは、Web等を通じて今は簡単に入手できる。あとは本人のやる気次第なのだ。

たとえば、管理職に対して、部下との面談力強化を狙ってコーチング研修を行う場合を考えてみよう。研修でコーチング理論を学んだだけでは、すぐ効果は出ない。もう少し進んで、研修でロールプレイングを行ってコーチングの“要領”を習得したとしても、結局、何も変わらないことが少なくない。職場に戻って2週間もすれば、長い時間をかけて培われた自身の習慣と、職場のメンバーとの“関係”を前に、元の木阿弥になってしまうのが実状だからだ。

しかしここで、コーチングスキルを活かす行動を、1つか2つでも指標として明確に定義し、自ら行動を変えることを職場のメンバーの前で宣言したらどうだろうか。たとえば、「君たち自身に、仕事の改善策を考えてもらい、それを積極的にほめる(認める)」と、部下に向かって宣言すれば、実際に行動変容が起きる可能性は高くなるだろう。

さらに、実際に行動変容が起きたかどうかを継続的に測定すれば、ほぼ確実に行動は変わる。すなわち、「過去1カ月の間に、メンバー自身に仕事の改善策を考えさせ、それをほめたか」ということについて、毎月1回半年間、上司・同僚・部下などから360度でチェックしてもらうのである。これによりその管理職は、どうにか宣言したような行動をとろうとする。その状態が半年も続けば、自分なりのやり方が確立されていくだろう。これが、360度フィードバックから起こる行動変容である。

コーチングのような行動系の教育だけではなく、知識系の教育についても同じである。たとえばIT技術者の場合、IT関連の企画能力を向上させるために「情報の構造化(モデリング)手法」を学ぶが、こうした知識習得でも現場での行動変容がポイントになる。つまり、すでに巷にあふれている知識を研修で教えることに注力するよりも、むしろ「この1カ月の間にその手法を実践したか」ということを問い続けることのほうが効果があるということだ。しつこく問い続けていくことによって初めて、日々の仕事の中に、習ったことを実践する機会がいくらでもあることに気づくのである。そうした自覚が生まれれば、不明点は自らWeb上のリソースを当たるなど、習得するための行動を自らとるようになる。

行動変容の数値化~管理職研修の実例から

ここまで、職場での行動を360度フィードバックで測定することが、個々人に気づきを与え、行動変容を起こすことを述べた。では、その有効性を製造業A社の事例で具体的に紹介したい。A社では、管理職への昇進に当たり、多くの企業と同様、管理職が身につけるべきスキルについての研修を行っている。ただし、同社でもやはり研修を行うだけでは、本当にそうしたスキルが身についているか、あるいは身につける過程で研修の内容を活かすことができているかどうかが把握できないという問題があった。

一般的に、研修の効果を把握するためには、研修受講後にレポートを提出させたり、人事・人材開発担当者が各部門に出向いてヒアリングをしたりといったことが行われる。しかしそれは、現場から見れば、言わば監査を受けるような受け身のものに過ぎず、組織を挙げて新しい管理職を育てていくような、価値のある動きにはならない。

そこでA社では、360度フィードバックを活用することにした。本人、上司、部下、同僚、そして人事・人材開発部門が同じ評価軸で管理職のあり方を振り返ることができるからだ。実施のポイントは以下の通りである。

・管理職研修のカリキュラムを基礎に、A社における管理職人材像を、15項目の行動指標として定義する

・管理職研修受講後の半年間、月に一度の頻度で、先の15項目の行動ができているかどうかを本人・上司・部下・同僚にチェックしてもらう。毎月1回、自動的にアンケートが配信され、各回の回答が終わるとすぐに本人が画面で結果を閲覧できるWebツールを使用。自己評価を行った直後に、他者からの自分への評価を見られることが、自己の振り返りにつながる

・行動は「まったく行っていない~申し分なく行っている」の5段階で評価する。前回までの評価を参照できないようにするなど、評価者が意図的な評価を行わず、素直に実感を入力できるように工夫する

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