J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2018年03月号

ATDの風 HR Global Wind from ATD <最終回> ATD2017 Japan Summitレポート

米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。



PROFILE
宇野聡美(うの さとみ)氏
インヴィニオ パートナー 人材開発・組織開発エクゼクティブ・プロデューサー/ATD-IMNJ 代表理事
15 年以上にわたり、大手企業の人材開発・組織変革コンサルティングに携わる。GALLUP認定ストレングス・コーチ、CTI認定プロフェッショナル・コーチ(CPCC)。

PROFILE
Kimo Kippen(キモ・キッペン)氏
カトリック大学アメリカ校助教授。ヒルトン・ワールドワイド元副社長、元CLO。2007 年、ATDの理事長に就任。

[写真]= ATD-IMNJ

Image by Merfin/Shutterstock.com

2017 年12月7月、ATD 2017 JapanSummit が、東京都千代田区で開催された。テーマは「ラーニングカルチャーの創造とテクノロジー」。世界最先端トレンドに触れる絶好の機会であったと同時に、会場内にて参加者同士のネットワーキングやラウンドテーブルセッションもあり、大いに盛り上がった1日となった。シリーズでお伝えしてきた「ATDの風」最終回ではATD 2017Japan Summitの内容を報告し、日本のL&Dについての学びと示唆をまとめておきたい。

■ラーニングカルチャーの創造

大会は、ヒルトン・ワールドワイドの元CLO、Kimo Kippen氏の基調講演からスタートした。ホスピタリティの醸成度や顧客満足度をKPIとするヒルトンの人材開発とラーニングカルチャーは、業界において大きな影響力を持っている。

近年、急速にフランチャイズ展開が進み、全世界で1.7日ごとに新たなホテルがオープンしている同グループ。Kimo 氏は、人材開発のスピードを上げて多くのリーダーを育成していくことが急務であることを強調し、「ラーニングカルチャーを創造する鍵とは何か」と会場に問いかけた。

Kimo 氏が挙げたキーワードは“Wholeness(一体性)”だ。多様な要素を集め、結合させることが、ラーニングカルチャーの創造に不可欠であるとすれば、人事にできることは多いという。

また、経営目標・目的の明確な設定や、人事・人材開発部門の役割も重要だが、組織能力、組織のケイパビリティ(遂行能力)開発を成功させるためには、経営陣のスポンサーシップ、支援が不可欠である、と語った。

ヒルトンでは、ヴィジョン、バリュー(ホスピタリティ、インテグリティ、リーダーシップ、オーナーシップなど)に共感する従業員、チームメンバーは、自身の存在意義、働きがい、究極的には生きがいを職場や仕事の中に見いだす、とKimo 氏は説明する。ヒルトンがヒルトンで在り続けるために従業員が連携し、さらに素晴らしい組織を創造することにつながる好循環があるという。

全体に、人事自らがオーナーシップを持ち、感謝して学び続けるべきであることを教えてくれた講演だった。また、Ki mo 氏の締めくくりの言葉は、会場をとても暖かい雰囲気で包んでくれた。「Work is love, Love is work.」。

■ブレンド型学習のインパクト

2020 年には、我々が予想もつかないような新たな学び方が主流になるだろうといわれている。AI、ロボットの本格的な活用の時代に入り、今後も人材開発・組織開発の考え方は急速に変化を遂げることが予想される。

Infosys L&Dの元DirectorであるAmit Nagpal 氏は、ブレンド型学習「エコ・ラーニングシステム」がもたらすインパクトについて紹介した。Infosysでは、既に5年程前からタレント・マネジメントシステム、パフォーマンス・マネジメントシステム、Expert ナレッジセンター、SNS、相互コーチングシステム、フォーマル・ラーニング(e-ラーニング、集合研修)などと、LMSの連携による「エコ・ラーニングシステム」を実践してきた。

リーダー開発プログラムにおいてもブログやツイッターを使った、アクションラーニング・プロジェクトの経験の共有や、リーダー間でのインフォーマルな意見交換が活発に行われている。

離職率が40 ~ 50%に上り、継続的に年間8000 人を採用してきたという同社の状況は日本企業と大きく違うものの、学ぶべき点は多々あると感じた。

何より同社はミレニアム世代に代表されるNew Age Learnerを研究し、ラーニングカルチャーの創造を牽引してきた。その結果、従業員のリテンションが成功しつつあることはもとより、高い顧客満足度や、リーダーシップパイプライン(体系的なリーダー育成の連鎖)の構築、低コストなスケーラビリティ(規模変化への対応)を実現している。

日本ではまだまだフォーマル・ラーニングの提供に時間が割かれ、ラーニングカルチャーの醸成については大きく出遅れている。しかし、同氏の講演から、組織内にブレンド型学習を取り込んでいくために何が必要なのか、あらためて知ることができた。

最後にAmit 氏は、相手の表情から察することの重要性や、人間の感情の微細さを挙げ、テクノロジーが全てを解決するわけではないと付け加えた。

■VR・ARによる学習環境

「数年後には、ラップトップも投影用のスクリーンも消え、全てのデバイスはウェアラブルになるはず」と語り始めたのは、The Gronstedt Group 社長のAnders Gronstedt 氏。

医師でもあるAnders 氏は、バーチャルリアリティ(VR)を使った研修や、ゲーミフィケーションによる学習効果の最大化について、最先端の情報を発信している。最近、日本でも注目されるVR・AR。会場では参加者の中からボランティアを募り、VRを体験してもらった。

フライトシミュレーションなどに代表されるVRは現在、ソニー、アップル、グーグル、フェイスブック社などが積極的に投資中だ。今後、コストダウンが進めば、実用化のスピードはますます上がっていくとされている。既にウォルマートでは、2017 年のクリスマス商戦に備え、200 のトレーニングセンターで14 万人がVRを使ったトレーニングを受講した。

VRによる学習では知覚だけでなく、体全体を使うため、学んだことは筋肉に記憶される、とAnders 氏は説明する。単に経験するだけではなく、仮想現実の空間に入り込み、何度も繰り返しトレーニングできるという点では、パワフルな手段といえるだろう。

「学習」のセオリーを踏まえてどのようにVR・ARを活かすことができるか、Anders 氏が問いかけたところ、参加者からいくつかアイデアが出てきた。

例えば、カスタマー・サービスに連絡してきた、対応が難しいお客様のケースについて、アバターを使ったロールプレイを行う、などだ。Anders 氏によると、アバターの進化は目覚ましく、最近では表情や声も自然で、本当の人間と話をしているようなリアリティを実現できるようになっているとのこと。マネジメントのトレーニングや営業セールス、コーチングのロールプレイなど、あらゆる研修がアバターを使ったVRトレーニングになる日も近いかもしれない。

■チェンジエージェントを生む旅

Best Award受賞の立役者であるHong Kong Jockey Clubの組織開発長、Judy Feng 氏のセッションでは、ベテランリーダーのマインドセットや行動変革により、リーダーシップ能力を高め、リーダーをチェンジエージェントへと変える包括的な取り組みが紹介された。

香港、中国、台湾の企業や政府機関ではATD Awardへの応募が推進され、経営戦略上の組織改革や人材開発施策のインパクトを統合的にコミュニケートしている。組織内コンサルタントとしての人材開発部門の役割が重視されているといえよう。

バラバラの施策として訴求するのではなく、組織インパクトとその予算措置、全ての施策の相互関係性を見据えた内容があって初めて受賞できるBest Award。Judy Feng 氏の講演からも、「戦略」とは名ばかりの単一施策では、本気の組織変革は起こらないことをあらためて感じた。

「Transformation Model」と名づけられたラーニングカルチャーの創造と組織変革ストーリーについて、Judy氏が語った一つひとつの施策を見れば、けっして目からうろこの新しいものではない。しかし、組織文化変革は、まずトップがチェンジエージェントにならなければ実現できない、とする同氏の指摘には説得力がある。

感銘を受けたのは、あらゆる施策をアライメントすることで、最終的なビジネスインパクトにつなげている点だ。理論学習だけに終わらず、実践にこだわるテーラーメイドのワークショップ、コンピテンシーモデルに即したアセスメントの実行と分析、継続的なラーニング・ジャーニーの設計、アクションラーニングと並行したアセスメントとフィードバック 全てを組み合わせ、シナジーを生み出していた。

さらに同社では、変化を継続させることに力を注ぎ、チェンジエージェントとしてのマインドを社内に派生させると共に、リーダー育成プログラムの卒業者が次のリーダーを教え育てる仕組みを構築しているという。

まさに変革は1日にしてならず。何年にもわたるストーリーを情熱的に語る様は、Judy氏自身がチェンジエージェントであること、そして何より、彼女のHong Kong Jockey Clubに対する強いロイヤリティ、愛着、愛情を感じさせた。

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