J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年11月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 人にフォーカスしたコミュニケーションで 組織の信頼関係を構築する

デジタルコンサルティングとインターネットメディアを主軸に、事業を展開するSpeee。社員は300名を超え、今、勢いに乗るベンチャー企業のひとつである。
経営陣は30代、社員の多くは20代という若い組織で、社員の育成施策を一手に担うのが、社長室HR戦略の森下忍氏だ。現在、認定資格を持つコーチングの専門知識や前職の経験を活かしながら、“気持ちの通う組織づくり”に勤しむ。
そんな森下氏と人事の出会いは、意外なところにあった。


Speee
社長室
HR戦略

森下 忍(Shinobu Morishita) 氏
外資系航空会社に新卒入社し、キャビンアテンダントとして香港で勤務。帰国後は精密加工装置メーカーや化学メーカーで役員秘書、ベンチャー企業で管理職を経験。化学メーカー在籍時にCTI 認定プロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC)を取得。人事部ではコーチングを活用した人材・組織開発に従事する。2016年より現職。

会社紹介
Speee
2007年設立。「解き尽くす。未来を引きよせる。」というミッションの下、ビジネスデベロップメントにより、社会に存在するさまざまな課題の解決に取り組む。デジタルコンサルティング事業、インターネットメディア事業、医療事業や東南アジアでのHR事業など幅広い領域に展開。ネイティブアド配信プラットフォーム「UZOU (ウゾウ)」、不動産査定サービス「イエウール」などを提供する。
資本金:1301万5000 円、従業員数:約350 名(2017年9月現在)

取材・文/田邉泰子 写真/編集部

楽しくて成長できなかった

インターネット業界で、急成長の真っ只中にあるのが、Speeeである。2007年創業のベンチャー企業で、ボードメンバーに顔を揃えるのは80 年代生まれ、社員の多くは20 代から30 代だ。そうした中で信頼を寄せられているのが、社長室HR戦略の森下忍氏である。プライベートでは2人の子どもの母親でもあり、社内では“何でも話せる頼りになるお姉さん”として周囲に慕われる。

そんな彼女の現在に至るまでのキャリアも、実にユニークである。

「海外の文化や考え方に触れ、英語を使った仕事をしてみたいという思いに駆られました。そこで、希望と好奇心だけで、香港の航空会社に新卒入社したのです。当時は日本に進出している外資系企業の数は限られていましたし、キャリアウーマンが働く場所というイメージでした。友達の助言もあってチャレンジしたのが、キャビンアテンダントの仕事でした」(森下氏、以下同)

今思えば自分の原点を創る貴重な経験だった。アジアを中心に10 カ国以上の国々から採用されたクルーは、母語も慣習も異なる。しかし、安全で快適なフライトというひとつの目的に向かって最善をくすためには、互いの協力が欠かせない。自国の流儀にこだわっている場合ではないのだ。

「最初のキャリアでダイバーシティの環境に身を置くことができたのは、ラッキーでしたね。そのせいか、今も先入観にとらわれることは滅多にありません」

仕事も順調だった。“ジャンボ”と呼ばれる大型旅客機にも度々搭乗した。ビジネスクラスやファーストクラスでエグゼクティブを接客するのは、刺激的だった。

ところが、入社4年目を迎えた頃、ふと立ち止まる。

「仕事が楽し過ぎたんです。その頃になるとオペレーションは体が勝手に覚えていて、考えなくても動けるようになる。成長の壁が見えないことに、悩むようになりました」

慣れ親しんだ環境に身を置くことに不安を感じ、新たなことにチャレンジしたくなった。そして航空会社を退職し、帰国後は精密加工装置メーカーに就職。初めてのデスクワークに、ワクワクしたという。

目の前に現れたコーチの扉

結婚を機に一度は家庭に入るが、子育てに一段落がついた後、離婚を機に社会復帰を決意。ある日系化学メーカーの役員秘書の職に就いた。そこで外資系企業からやって来た役員の秘書を担当したことが、現在につながる転機となる。

「彼は以前からリーダーシップ強化によるサクセサー育成におけるコーチングの効用を認識していました。ですから、人事部門のトップになると、積極的にコーチングを導入しようとしていました」

役員秘書として忙しい日々を送る中、森下氏はある時突然、役員から「君はコーチに向いているよ」とコーチングを学ぶことを薦められた。

「それで『コーチの資格を取るといい』と言うんです。確かに、クライアントの話を聞き、相手が自ら答えを導くことをサポートするコーチングには、興味はありました。しかし、資格取得とは思いもよらなかったので、何を言い出すのかと思いましたね」

資格取得にあたって、会社が金銭的な補助をしてくれるわけでもないし、ひとりで育てている2人の子どもも、まだ小さい。仕事と家庭の両立で手いっぱいなのに、スクーリングなんて……。考えるだけで、目まいがした。しかし、会社でもコーチングを取り入れることは時間の問題だろう。コーチの資格取得は、キャリアを拓くチャンスかもしれない。そこで、まずはコーチングスクールの体験学習を受けることにした。

「しかし、最初は軽くパニックになりました。というのも、コーチングでの学びは論理を後にして、まずは体感する体験学習方式だったので、感覚的でなかなか理解できなかったのです。でも、体がコーチングを欲していたことが分かりました。頭と体の感覚が一致しないという違和感に、引き込まれた感じでした」

また当時の森下氏には、学びを素直に受け入れられない心理的障壁が存在した。それは、“母の役割を全うする”という責任だった。

「“いい母親であるべき” “子どもに寂しい思いをさせてはいけない”そういう思いに縛られていました。心理学的に言えば、サボタージュの状態ですよね。新たな挑戦に対し、しなくてもいいように自分に言い訳する状態がしばらく続きました」

しかしコーチングを学ぶ中で出会った言葉が、森下氏の意識を変えていく。「人はもともと創造力と才知に溢れ、欠けるところのない存在である」という、コーチングの礎となる考え方を示した一節だ。可能性に蓋をしているのは、自分自身ではないだろうかと考えていたところに、子どもたちの何気ない一言が後押しした。

「ある時、『お母さんがいきいきとしているのが好き』と言われたんです。そこでホッとしたというか、好奇心の赴くままにやってもいいんだと、ようやく前を向くことができました」

自身の呪縛から一気に解き放たれた後は、一心不乱にコーチングに向き合った。着々とカリキュラムをこなし、最後にはコーチのプロ資格を取得するに至った。

気持ちを通わせる訓練を

人事として、コーチングの学びを活かしながら組織開発プロジェクトをいくつか立ち上げた。組織活性化に試行錯誤したり、またプロコーチとしてコーチングの経験を積んだりするうちに、「自分の使命は若者の支援にあるのでは」と考えるようになったというそうした時、紹介された会社が、現在在籍するSpeeeだった。

創業からまだ10 年と日が浅い。100年以上続く前職の化学メーカーとは大きく環境が異なる。だが、キャリア初期から多様な人材が集まる企業に身を置いていたからか、新たな環境もポジティブに受け止められた。

「私よりも年下の30 歳になるかならないかの社員たちが、事業計画や経営戦略を語っている姿に、素直に感動しました。仕事に向き合う真摯な姿勢や、自分たちが事業をつくっているという自覚が本当にすごいなと。彼らは“可能性の塊”そのものですから、人事施策を通じて、彼らのさらなる可能性を引き出していけたら素晴らしいだろうと思いました」

森下氏のミッションは、社内にある課題解決だったが、同時にベンチャーからスタートした同社が次の段階へ成長できるよう、体系的な育成制度や施策を整備することが必要だと感じた。まず森下氏が考えたのは、階層別研修の構築だった。そこで情報収集を目的に、各現場のリーダーにヒアリングを行うと、2つのことが明らかになった。

1つは部署により事業特性や期待される役割が大きく異なるため、年次やポジションで切り分けて、一律に学ぶというやり方では全く意味がないということ。このためワークショップ主体で、実務では習得しにくい経験や気づきを得る機会を重視する講座設計にした。

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