J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年10月号

ATDの風 HR Global Wind from ATD <第7回> タレントマネジメントの潮流と日本における展開

米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。


西出恵美氏
ATD-IMNJ
タレントデベロップメント
委員会 委員長
日産自動車株式会社。アライアンスR&D人事部 R&D人財育成グループ。一般社団法人企業間フューチャーセンター フェロー。「学習する組織」を中心に人財育成、組織開発がライフワーク。

石山恒貴氏
法政大学 大学院
政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程を修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て現職。人材育成学会理事、NPO キャリア権推進ネットワーク授業開発委員長。著書に『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)など。

Image by Merfin/Shutterstock.com

1.ATDにおけるタレントマネジメントの変遷

本稿では、タレントマネジメントという概念のATDにおける変遷を述べたのちに、ATD-IMNJタレントデベロップメント委員会で検討している、タレントマネジメントの日本での展開について考えてみたい。

タレントマネジメントに関するATDの主要な取り組みは、2008 年にさかのぼる。当時、曖昧だったタレントマネジメントの定義について調査が行われ、ATDによる公式な定義が発表された。また、2009 年には「タレントマネジメント白書」が発表され、後述する8つの構成要素(8象限)が示された。

その後も、ATDのタレントマネジメントへの取り組みは継続され、2011年にはASTD PRESSから、『 TheExecutive Guide to Integrated Talent Management 』が出版された。同書の中では、組織においてタレントマネジメントの構成要素の個別性が強過ぎるために、それぞれの要素がサイロ化する危険性が指摘されている。そこで重要とされるのが、「Inte-grated Talent Management(統合的タレントマネジメント)」という概念である。各社でタレントマネジメントの方向性を明確に定め、その方向性に従って、構成要素を統合的に運用することが肝要、と述べられている。

2014 年に発表された「ATDコンピテンシーモデル」においても、統合的タレントマネジメントは、コンピテンシーの要素のひとつとして明示されている。その解説によれば、統合的タレントマネジメントにより、組織文化、ケイパビリティ、キャパシティ、エンゲージメントを構築することが必要という。2017年のICEでは、この統合的タレントマネジメントの進め方をより具体化するヒントとして、「タレントデベロップメントパズル」(図1)が示された。

タレントデベロップメントパズルは、ATD とRothwell & Associates(R&A)社が協力して整理したものであり、1500人以上のタレントデベロップメントの専門家への調査結果を基につくられた。

中心となる15 の機能(図1の茶色の部分)と、オプション的な位置づけの24 の機能(赤とオレンジの部分)が定義されており、タレントデベロップメントに取り組むうえでの主要なコンポーネントがフレームワークとして整理されている。パズルにおいて中心となる15 の機能は次の通りである。

「チェンジマネジメント」「コーチング」「コンプライアンス」「エンゲージメント」「学習効果の評価」「幹部の育成」「教育設計」「リーダーシップ開発」「ラーニングテクノロジー」「ラーニングプログラムのマネジメント」「ニーズの調査」「新人研修」「パフォーマンス改善」「パフォーマンス管理」「研修の実施」

組織のニーズや文化の違いによって、タレントデベロップメントの構造は変わってくるはずだ。このパズルを使うことで、より柔軟に、その組織独自のフレームワークをつくり上げることができるだろう。

2.タレントデベロップメント委員会における「日本での展開」の検討

上述のATDの取り組みに基づき、当委員会でもさまざまなタレントマネジメントの調査を進めてきた。その成果は、2014 年の委員会単独でのワークショップ(内容は弊誌2014 年7月号を参照)、ATD 2015 Japan Summit、ATD2016 Asia Pacific C onference a ndExhibitionなどで発表している。

以下、当委員会で検討しているタレントマネジメントの日本での展開について紹介したい。

(1)タレントマネジメントの定義と8象限

当委員会では、ATDのタレントマネジメントの定義を日本に紹介している。その定義とは、次の通りである。

「タレントマネジメントは、ビジネスゴールと整合性のとれたタレントの獲得や開発、配置のプロセスを通して、文化、エンゲージメント、ケイパビリティとキャパシティを構築することで、組織に短期的及び長期的な成果を実現する、人的資本を最適化・最大化(Optimize)するホリスティックなアプローチです」

この定義をATDは図で表現しているが、当委員会にてそれを日本語に翻訳したものが図2である。

(2)タレントマネジメントのひし型8象限と調査質問例

当委員会では、図2に示されている8つの要素を、「ひし形8象限」と呼んでいる。日本のタレントマネジメントの実態調査をする前に、この内容を調査したうえで、解釈、及び日本語化した。また、日本企業の実情を解き明かすための質問を設けている。以下に、その一部を紹介しよう。

ひし型8象限全体について▼

ATDにおけるタレントマネジメントを8 つの要素で表したもの。

質問例

:施策全体のゴールとして、何を最も意識していますか。

:ビジネスゴールとはどのようにリンクしていますか。

Organization Development (組織開発)▼

ビジネス戦略の入り口といえる。変化・イノベーションを常に生み出し、学習する組織をつくり上げることを指す。

質問例

:組織の活性化、組織能力を高めるために、どのようなことを実施していますか。

Succession Planning (後継者育成計画)▼

組織の重要なポジションの後継者を見極め、育成のための計画を練ること。または、変化・イノベーションを生み出す人材やリーダーシップ人材を発掘、育成計画を立てることを指す。

質問例

:実施していますか。/また、実施している場合にはどの層が対象ですか。

:タレントプールはありますか。どのような基準で選抜していますか。

Performance Management (パフォーマンス管理)▼

社員一人ひとりの成果創出へのモチベーションを維持・向上させ、組織のゴール達成につなげる仕組み。

質問例

:どのようなパフォーマンス管理をしていますか。

:パフォーマンス管理は、業績や組織のゴール達成にどのくらい影響していますか。

Acquisition(人材の獲得)▼

まさにタレントマネジメントのスタート地点。採用を中心に考えがちだが、「企業に価値をもたらす人材の発掘」まで視野に入れるべきである。組織内・外の埋もれた人材を発見し、その後の機会提供について考える。

質問例

:長期的に会社にいてくれる人を獲得するために、どんな採用基準を設けますか。

:社内の人材を発掘するために、どのような選抜を行っていますか。

Team & Individual Development(チームと個人の育成)▼

個人の能力開発は組織が成り立つために必要な要素だ。個人の能力・才能こそチームを支えるものだからである。

質問例

:トップは、学習について強いメッセージを発信していますか。

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