J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年10月号

CASE 3 ロイヤルパークホテル 大切なのは“気づきの感度”と“想像力” 信頼に基づく共有と改善提案で チームの“考える力”を底上げする

東京・日本橋にあるロイヤルパークホテルには、エグゼクティブ層をターゲットとした特別なラウンジがある。
専任のラウンジスタッフたちは、細やかな気配りと、想像の上をいくサービスで、ゲストをもてなす。
おもてなしを支えているのは、チームの“考える習慣”だった。


金子郁美氏
宿泊部 フロント課 エグゼクティブラウンジ マネージャー

1989 年開業。419 の客室とレストラン、宴会場、婚礼施設、フィットネスクラブを併設したシティホテルで、全国に展開するロイヤルパークホテルズの中で最も長い歴史を持つ。「Bestfor the Gues(t 全てはお客様のために)」をモットーとしたサービスには、定評がある。
資本金:60 億円(2017年3月現在)、従業員数:616 名(2017年3月1日時点)

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=ロイヤルパークホテル提供、編集部

●前提 “いつもと違う”が引き金に

東京近郊には、2つの空の玄関がある。1つは東京都大田区にある羽田空港、もう1つは千葉県成田市の成田空港だ。2つの空港と都心をつなぐ高速バスターミナルがある箱崎、その地で開業して28 年になるのがロイヤルパークホテルである。

東京証券取引所などオフィス街に近い立地から、ビジネス客に人気がある。また羽田と成田で飛行機を乗り継ぐ間の時間に利用されることも多い。日本橋は東京の下町にあたり、近年は外国人旅行客も増えている。

“ワンランク上のおもてなし”をスローガンに掲げた同ホテルでは、通常のフロア以上に快適さを追求した「エグゼクティブフロア」を用意する。主な客層は、企業経営者など社会的責任のある人たちだ。東京滞在のたびに利用する常連も多く、宿泊客の4割は2泊3日の滞在だという。

エグゼクティブフロアの目玉は、顧客対応に優れた専任スタッフが常駐する専用ラウンジである(写真1)。チェックインなどのフロント業務の他、観光プランの提案やレストランの予約、航空券の手配など、いわゆるコンシェルジュ業務もラウンジスタッフが担う。エグゼクティブラウンジのマネージャーを務める宿泊部フロント課の金子郁美氏によれば、担う役割も業務内容も、多岐にわたるという。

「お客様に快適にお過ごしいただくためのありとあらゆることが対象になります。例えば今朝の話なのですが、ロストバゲージ(飛行機搭乗時に預けた荷物が、紛失すること)に遭ってしまったお客様がいらして、航空会社とのやり取りを、私どもで代わりにお引き受けいたしました」(金子氏、以下同)

コンシェルジュの役割を担うと考えれば、当たり前のように思うかもしれないが、特筆すべきはロストバゲージに遭っていたことを知る経緯である。宿泊客がラウンジスタッフに、事情を訴えてきたわけではないのだ。

「エグゼクティブラウンジは朝食会場になるのですが、今朝はそのお客様が、普段よりも遅めの時間にお見えになりました。そこでお声がけいたしましたところ、航空会社に連絡を入れていたために遅くなったことが判明したのです」

普段と異なる宿泊客の様子から、雑談を通じてニーズを引き出す。マニュアルには書かれていないやり方で、柔軟にサービスを提供できるのは、“考える力”があってのことだ。

●スキル 観察と想像がおもてなしを生む

それぞれの宿泊客に寄り添った気配りのコツは、どこにあるのか。金子氏によると、まず行うことは“顧客の観察”だという。

「お客様のご様子や会話から、豊富な情報が得られます」

ファーストコンタクトでは、荷物の大きさや服装、しぐさや言葉遣い、漂う雰囲気から、宿泊の目的や顧客の心境などをつかむ。土産袋の有無もポイントのひとつだ。

「海外でのお仕事の多い日本人のお客様でも、出発される方と帰国されたばかりの方とでは、表情や口調に違いが出てきます。今後の渡航に向けての緊張感が感じられたり、日本に戻ってきたという安堵感に包まれていたりと、雰囲気もだいぶ変わってきます」

家族で訪れる宿泊客にも気を配る。大切な記念日に合わせての利用も多いからだ。その他にも滞在中の過ごし方やちょっとした振る舞いなど、気づいたことは全て接客のヒントになる。先のロストバゲージの話なら、“朝食時間の違い”が気づきのきっかけとなった。

そして観察とおもてなしの架け橋となるのが、“想像力”だという。

「経験も必要になりますが、お客様の立場に寄り添い、喜んでいただけるおもてなしはどのようなものかと、常にイマジネーションをフル稼働させて行動しています」

特にエグゼクティブは、生活リズムを大切にすることが多く、習慣的な要素には個性が表れやすい。例えば、ラウンジではいつもブラックコーヒーを口にする常連が、その日はカフェラテを選んでいたり、甘いものをつまんだりしていたのなら、「少しお疲れなのかもしれない……」などと考えてみる。そこでいたわりの一言を添えるのがよいのか、黙って見守るのがよいのか。ベストな判断は、相手の雰囲気によっても変わってくる。

「大切な人の誕生日プレゼントを探す時と、感覚は似ているかもしれません。ですから、若手スタッフにも、想像力の重要性を説くことが多いです」

満足度の高いサービスの裏側には、観察と想像という思考のプロセスが確立されていたのである。

●施策 考えることの習慣化を図る

興味深いのは、“考えること”を個々人ではなく、チームで習慣化させている点である。現在、エグゼクティブラウンジには7名のスタッフが在籍する。それに対し、フロアの客室数は200を超える。宿泊客の期待に応えるには、メンバー一人ひとりの接客思考力をアップさせると同時に、チームの意識を高めることが不可欠だという。そのため、チーム全体で取り組めるさまざまな工夫を、日々の業務に取り入れている。

■実現したいビジョンを明確に

まず行っているのは、事業計画や目標に合わせて分かりやすいビジョンを打ち出すことである。ラウンジチームでは2017 年度のスローガンに『日本橋の我が家』を掲げた。

「自宅で寛いでいるかのような居心地のよさを感じてもらうため、下町ならではの親しみを込めた接客をめざそうと、このスローガンに決めました」

チームのビジョンを打ち出すことで、それぞれのメンバーが描くビジョンにも明確さと共通性が出る。そうすれば、サービスの在り方が自ずと見えてくるのだ。

「“我が家”を演出するために、常連のお客様には『お帰りなさいませ』と挨拶するようにしました。今では『ただいま』と返してくださる方もいらっしゃいます」

■改善提案で、気づき感度をアップ

宿泊客の想像を超えるおもてなしは、日頃から気づきの感度を高めておくことで実現できるものである。そこでラウンジチームでは、仕事の進め方やサービス全般において、いつでも改善提案できる風土づくりを大切にしているという。

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