J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年08月号

シニア社員と非シニア社員の比較調査分析より シニア社員のマネジメントは 非シニア社員のマネジメントと何が異なるのか?

外国人社員や新入社員を理解する取り組みは長く行われてきたが、
シニア社員を知ろうとする試みは、あまりなされていないのが現実だ。
しかし、調査を行ったところ、シニア社員と非シニア社員とでは、
考え方も行動パターンも全く異なることが明らかとなった。
調査結果から浮かび上がった、シニア社員を活躍させるマネジメントの在り方とは。


宍戸拓人( ししど たくと)氏
武蔵野大学 経済学部 経営学科 准教授

武蔵野大学経済学部経営学科准教授。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了[博士(商学)]後、一橋大学商学部特任講師、武蔵野大学政治経済学部経営学科講師を経て現職。専門は経営学、組織行動論。組織におけるコンフリクト研究をテーマに多数の国際学会発表を行うと同時に、国内外の研究成果にも詳しい。
E-mail: taku_shi@musashino-u.ac.jp


Image by Rawpixel.com / Shutterstock.com

1 はじめに

■シニア社員を理解する重要性

「異なる文化・国籍の人々への理解を深めることが重要である」という考えは、既に多くのビジネスパーソンの間で共有されている。その一方で、文化や国籍だけではなく、「年代の違う人に対しても、より深い理解が必要である」という考えは、どれほど共有されているだろうか。

新卒の新入社員に対しては、「自分たちとは異質な存在である」と感じる人が多く、毎年、「〇〇型」といったタイプ分けに基づき、理解を進める試みがなされている。それに対して、「シニア社員は、自分たち下の世代の社員といかに異なるのか」という点については、そこまで理解の必要性を感じていないのではないであろうか。

年功序列によって昇進した時代には、部下は自分より年下だったため、若い世代を理解すればそれでよかった。しかし、年功序列が崩壊し、年上の部下を持つ機会が多い今日においては、シニア社員に対する適切な理解を得ることが求められる。

また、多くの研究を通し、年齢に基づくネガティブなステレオタイプ(例えば、「年をとった人は新たなスキルを学ぶのが難しい」等の先入観)は、シニア社員によくない影響を与えることが明らかになっている。

例えば、周りの社員がステレオタイプを持っていると感じると、シニア社員は実際の自分の行動や考えを徐々にそのステレオタイプに合わせてしまう。その結果、もう自分はこの会社でやるべきことはないと感じるようになり、離職意思が高まることが、Bal等の2015年の研究において明らかとなった。

さらに、若い上司や若い同僚に囲まれているような職場では、「自分はネガティブなステレオタイプを持たれているのではないか」という恐れを持ちやすくなることが、Kulik等の2016 年の研究において確認された。

したがって、シニア社員のマネジメントにおいては、ステレオタイプに基づき彼(女)等を「理解」するのではなく、事実に基づき理解することが必要といえよう。本稿では、このような問題意識の下、シニア社員(50 歳以上の非役職者)を対象に行ったサーベイ調査の結果について紹介する。

なお、この調査ではシニア社員と非シニア社員の違いを検討するために、非シニア社員(30 代の非役職者)も分析の対象とした。両者の違いを明らかにすることで、非シニア社員に効果的なマネジメント方法を、やみくもにシニア社員に適用し失敗してしまう危険を、一定の程度回避できるだろう。それに加えて、非シニア社員には効果的といえないが、シニア社員にとっては有効なマネジメントの方法も見いだせるのではないだろうか。

2 どのようなシニア社員が、職場において活躍しているのか?

■シニア社員の調査結果分析

以下では、職場で活躍するシニア社員への理解を進めるために、「エンゲージメント」「役割内行動・手助け」「後輩社員の成長サポート」に関する分析の結果を示していく。

◇分析結果1 「だらしないシニア社員はエンゲージメントが低い」

「精力的」「献身的」「熱心」といった言葉で特徴づけられる社員は、エンゲージメントが高い社員と呼ぶことができる。シニア社員が、精力的・献身的な態度で熱心に仕事に取り組んでいる職場は、高いパフォーマンスを達成することができるだろう。

図1は、物事がきちんとしていることを好む程度が、エンゲージメントに対して与える影響を示したグラフである(オレンジ線がシニア社員、青線が非シニア社員)。「きちんとしている」とは、仕事が秩序だっていることや、打ち合わせが詳細に準備されていること、計画が綿密になされていること等を意味する。分析の結果、きちんとしていることを好むシニア社員ほどエンゲージメントが高く、いい加減な状況を許容するシニア社員ほどエンゲージメントが低いことが確認された。それに対して、非シニア社員は、いずれの場合においても、エンゲージメントは同じ水準にあることが明らかとなった。

「最近の若者はだらしがないから、しっかり指導すべきだ」といわれることがしばしばある。しかし、本調査の結果によると、30 代社員の「だらしなさ」はエンゲージメントに有意な影響を与えない。むしろ、物事がきちんとしていることを好むシニア社員を増やすほうが、エンゲージメントの改善を通した職場全体の活性化に大きく貢献する。

◇分析結果2 「シニア社員の役割内行動・手助けを促すコミットメントや仕事の楽しさ」

フォーマルに定められた責任や役割を遂行する行動(「役割内行動」)を部下に促すことは、上司に求められる責務である。しかし、高いパフォーマンスを達成できる職場をつくるには、言われた仕事を遂行するだけではなく、積極的に周りの同僚を助ける行動(「手助け」)をとる部下を増やすことが必要だ。

図2は、会社に対するコミットメントが、役割内行動・手助けに対して与える影響を示したグラフである※1。

分析の結果、コミットメントが高い社員ほど、役割内行動・手助けを頻繁に行っていることが確認された。しかし、グラフの傾きが示すように、コミットメントが与える影響は、非シニア社員よりもシニア社員のほうが大きい。

※1 欧米企業を対象とした既存研究においては「役割内行動」と「手助け」は2つの異なる行動として区別されてきた。しかし、本調査で回収したデータを対象に因子分析を行ったところ、両行動は1つの因子にまとめられた。これは欧米企業に比べて、日本企業においては、同僚を助けることが役割内行動の一部として考えられることが多いためと考えられる。

もちろん、非シニア社員は、今後も長期にわたって会社で働くこととなる社員であるため、彼(女)らのコミットメントを高めることは重要である。

しかし、決められた責任や役割を確実に遂行する社員や、周りの同僚を積極的に助ける社員を増やすには、非シニア社員よりもむしろ、シニア社員のコミットメントを高めることが鍵となる。「50 歳以上の社員のコミットメント等、いまさら取り組む必要がない」といった誤った考えが職場内で蔓延しているならば、改める必要があるだろう。

図3-1図3-2図3-3は、モチベーションが役割内行動・手助けに対して与える影響を示したグラフである。本稿では、モチベーションを、内発的動機・外発的動機(給料・雇用)・外発的動機(尊敬・評価)の3つに区別した。

内発的動機とは、楽しさや興味などを感じるから仕事をするという動機である(図3-1)。外発的動機(給料・雇用)とは、給料や雇用保障のために仕事をするという動機である(図3-2)。外発的動機(尊敬・評価)とは、上司や同僚等から尊敬や評価を得たいから仕事をするという動機である(図3-3)。

分析結果から、以下の点が明らかとなった。

)内発的動機を持つシニア社員は、役割内行動・手助けを頻繁に行っている。()外発的動機(給料・雇用)を持たない非シニア社員は、役割内行動・手助けをあまり行わなくなる。

これに対して、内発的動機が非シニア社員に与える影響はそれほど大きくない。また、外発的動機(給料・雇用)がシニア社員に与える影響、外発的動機(尊敬・評価)がシニア・非シニア社員に与える影響も、さほど顕著ではない。

「一生懸命働いているのは、給料のためである」という外発的な動機を、好ましくない動機と考える人も少なくないだろう。しかし、非シニア社員に関していえば、そのような「ガツガツ」した動機を持たない社員は、決められた仕事の遂行レベルが悪化し、周りの同僚を助けようとしなくなってしまう。

一方、シニア社員にとっては内発的動機が重要になることは先述の通りだ。非シニア社員と違い、仕事に楽しさや興味を感じられることが、役割内行動や手助けにつながるのである。したがって、シニア社員に雑務や単純作業を仕事として与えることは好ましくない。彼(女)らが何に興味や楽しさを感じるのかを考えたうえで、仕事を任せることが上司には求められる。

◇分析結果3 「コミットメントが高いシニア社員は後輩の成長をサポートする」

役割内行動や手助けは、現在のパフォーマンスを支える行動である。それに対して、後輩社員の成長をサポートすることは、将来のパフォーマンスに貢献する行動である。たとえ現時点でのパフォーマンスが好ましい水準にあるとしても、次世代の社員の育成を怠ると、長期的に高いパフォーマンスを維持できなくなってしまう。会社においてさまざまな経験と知恵を積み重ねてきたシニア社員は、後輩社員の指導役として非常に適した人材といえよう。

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