特集 未来が交わる 「採用」 CASE1 ギークス 「 丁寧な関わり」を通じて関係性資産を築く
等身大の相互理解を深める 採用活動における候補者体験の設計
成末千尋氏 ギークス 取締役/IT人材事業本部長
武藤 基氏 ギークス 人事戦略部 リーダー
菅野瑞樹氏 ギークス 人事戦略部 採用チーム
採用を単発の「点」の選考ではなく、入社前から一貫した「ストーリー」を持って候補者と向き合うギークス。同社では、選考や内定者フォローを通じて、候補者一人ひとりに対して約10回もの「丁寧な関わり」を重ねる採用活動を続けている。テクノロジーによる効率化が進む時代において、なぜこれほど手間をかけてまで、人と向き合うことを重視するのか。その背景を探る。
[取材・文]=本間 幹 [写真]=ギークス提供
正解のない時代を面白がろう―― 事業進化に呼応する人材像とは
2007年の創業以来、ITフリーランスに特化した人材エージェント会社としてビジネスを展開してきたギークス。同社は現在、人材エージェントという枠組みを越え、企業のDXやAX(AI Transformation:AIを活用して企業の業務・組織・事業モデルを変革し、価値創出を実現する取り組み)を支えるプロフェッショナル集団への進化を図っている。
「これまではお客様から求められる要件に対し、IT人材を紹介すれば良かったのですが、近年では、DX推進や開発環境でのAI活用の先導など、要望が高度化しています。
そのため、私たちは、ITに関連する組織課題だけでなく、経営や事業開発の観点から、本質的な企業課題を一緒に解きほぐしていくことへと、果たすべき役割を変化させなくてはならず、現場のメンバーは、状況に合わせたソリューションを論理的に提案できるITコンサルに似た職務遂行力が求められています。AIを活用すれば、提案力が高められる現在では、お客様に選ばれるための人間力が鍵となるため、正解のない状況を楽しみ、提案に変えていける資質が必要不可欠なのです」
同社取締役でIT人材事業本部長を務める成末千尋氏は、自社が求める人材像の変化について、このように語る。
そして、その人材像を採用活動に落とし込んだものが、「正解のない時代を面白がろう」という採用コンセプトである。
同社が求めるのは、与えられた課題やマニュアルを正確にこなすことに長けた人材ではない。「これといった正解がない」状況を面白がりながら、自ら考え、周囲を巻き込み、前に進む力を生み出せる人材だ。変化が激しく先行きが見通しにくい時代だからこそ、そのような資質を持つ人材が必要だという思いが込められている。
もっとも、こうした資質を短時間の面接だけで見極めるのは容易ではない。
「新卒採用の面接に臨む学生は、どうしても“面接用の顔”をつくってきます。また、私たちのことを十分に理解してもらうにしても、限られた時間では難しい」と成末氏は語る。
そこで同社が重視するのが、“点”ではなく“線”による採用プロセスだ。限られた接触機会のなかで採用の可否を判断するのではなく、継続的な対話を重ねながら相互理解を深めていくのである。そうすることで、候補者の価値観や行動特性を見極めながら、企業への理解や共感を醸成していく。
等身大を伝える採用広報が関係性構築の礎に
“線”での採用プロセスの入口となるのが、採用サイトやSNSでの発信などを通じた採用広報活動だ(図)。
「採用広報活動では、できるだけ私たちのリアルを伝えることを心掛けています。たとえば、多忙な毎日や地道な営業活動など、受け取り手によっては判断が割れる情報も、あえて公開しています。ここで実態を隠しても、入社後に『思っていたのと違った』となれば、本人にとっても会社にとっても不幸です。だからこそ、まずは正直に発信し、正しく理解してもらうことを重視しています」と、人事戦略部リーダーの武藤基氏は、狙いを説明する。
2026年6月にリニューアルした採用サイトには、社員約30人が自身の業務などを紹介するコンテンツが新設されたが、そこでは成功体験だけでなく、仕事で直面した苦労や葛藤についても率直に語られている。
「採用サイトでは、入社直後の悩みや現場での失敗エピソードなども紹介しています。入社前にそういった情報を把握しているかどうかによって、定着率は大きく変わります。採用サイトは、エントリー数を増やすためというより、当社への理解や共感を高め、ミスマッチをなくすことを第一の目的としているのです」(武藤氏)
採用サイトは、単なる応募窓口ではない。企業の実像を率直に伝えることで、求職者が入社後の働く姿を具体的にイメージし、自社との適合性を見極めるための場として機能しているのだ。
自己開示と相互理解を促す「丁寧な関わり」
同社の新卒採用プロセスを象徴する取り組みが、候補者1人あたり約10回に及ぶ「丁寧な関わり(接触)」だ。会社説明会から始まり、最終的な意思決定に至る選考ルートのなかに、合否の判断を伴う厳格な「面接」だけでなく、お互いの価値観や本音を刷り合わせるための「面談(対話)」が幾度も織り交ぜられている。
「とにかくミスマッチをなくしたいという思いで学生との接触回数を増やしています」(成末氏)
面談は、求職者に自己開示を促すとともに、同社のビジョンや思いを深く理解してもらうための場だ。選考のためではなく、相互理解を深めることに主眼が置かれている。
人事戦略部採用チームの菅野瑞樹氏も、「採用の判断を行うのは“面接”のタイミングのみで、“面談”はあくまでもお互いを理解し合う場と位置づけています」と強調する。面談は基本的に人事担当者が担うが、候補者の要望や状況に応じて現場社員が対応するケースもある。
「実際の業務の面白さや難しさ、入社後のキャリアパスなどは、現場のメンバーが話す方がリアルに伝わります。学生から『こんなことが知りたい』という声があれば、その内容に応じて最適な社員をアサインすることもあります」(菅野氏)
面談では、「学生時代に正解のない課題にどう向き合い、どのようなアプローチで解決したか」や「困難に直面した際、周囲を巻き込みながらどのように乗り越えたか」など、経験に基づいたエピソードを語ってもらう。多様なテーマについて対話を重ねながら、候補者の価値観や行動特性、周囲との関わり方を読み解いていく。
継続的な対話を重視したこのような取り組みには、生成AIが普及した現在だからこその価値もある。エントリーシートや自己PRを整った文章に仕上げることが容易になり、従来型の選考では求職者の本質的な価値観や考え方を見極めることがますます難しくなっているからだ。
この点について菅野氏は次のように説明する。
「現在、多くの学生が就職活動でAIを活用している印象があり、それは私たちも同じです。ただ、いろいろと検証を重ねましたが、求職者の『人となり』は、現時点では人間の判断の方が合っています。面談という対話の機会を通じ、本人のなかにしか答えがない問いを重ねることで、本当の価値観が見えてくると考えています」
また、2026年度からは、課題設定型のインターンシップも新たに開始する予定だという。
「これまで当社には、人材紹介会社というイメージを持って応募してくる学生が多数でした。しかし、今私たちが求めているのは、その枠にとどまらずに自ら未来を変えていけるチャレンジャー層です。あえて難度の高い課題に挑むインターンシップを設けることで、従来の採用チャネルでは出会えなかった、尖った資質を持つ学生との接点を広げたいと考えています」(成末氏)
なお、中途採用では、面接は2回もしくは3回、面談は最終面接前(仕事の解像度を高めてもらうため)、内定後(入社確度を上げるため)、入社直前(入社後の不安をなくし、スムーズにオンボーディングを進めるため)の3回程度に収まるという。いずれにせよ対話を重ねながら相互理解を深めるという基本姿勢に変わりはない。
「個」から「チーム」へ―― 交流が育む心理的安全性
丁寧な対話と選考プロセスを重ね、内定に至った後も、内定者と企業の関係性づくりは続く。
内定者には、内定者研修として入社までに5~6回、人事戦略部の担当者や他の内定者と交流する機会が設けられる。例年10〜15人ほどの内定者はチームごとに課題に取り組むほか、人事戦略部の担当者が定期的に面談を実施。内定者の状態やモチベーションの変化を確認しながらフォローを行う。
入社前にこのような取り組みを行う意義について、武藤氏は次のように説明する。
「入社時に、すでに話したことがある先輩社員がいて、同期同士のつながりもでき、自分がどのような期待をされているのかを理解したうえで入社するので、スムーズにオンボーディングが進められます。また、困ったときに相談できる相手が最初からいるという安心感にもつながります。早い段階から関係性ができている状態で業務を覚え始めると、わからないことが出てきた際にも自然にフォローし合える雰囲気が醸成されることも大きな価値だと考えています」
内定期間に醸成された仲間意識は、社内の組織風土にも確実に反映されているという。
「同期同士のつながりが、業務への意欲や社内表彰を目指すコミットメントの強さにもつながっています。最近も新卒のメンバーが『Buddy賞(半期のMVP)』を受賞したり、AXに関する新チームでリーダーとして奮闘していたりと、社内風土に好影響を与えているのは間違いありません」(武藤氏)
入社前から企業と内定者、そして内定者同士が継続的に関わり合うことで、個人の成長を支えるだけでなく、互いに支え合いながら成果を生み出す土台が育まれていく。ギークスの内定者フォローは、単なる入社辞退防止策ではなく、入社後のチームづくりを見据えた取り組みといえそうだ。
関係性資産がもたらす事業へのインパクト
入社後、新卒採用者は、4月に全体研修を受け、5月にそれぞれの現場に配属されるが、配属後すぐに成果を出すメンバーも多い。実際、2025年の7月に月間MVPを獲得したメンバーはその年の新卒採用者だったという。採用広報での積極的な情報開示に始まり、約10回に及ぶ面談、そして内定者によるチームビルディグ。そうしたプロセスを通じて育まれた関係性は、入社後の活躍を支える重要な土台となっているのである。
さらに、こうした「関係性資産」が持つ真の価値は、社員が組織を離れた後にも失われない。同社では半年に1回のキャリア面談などを通じて一人ひとりの人生に深く向き合っており、自律的なキャリア形成の結果、他社へ羽ばたく決断をしたメンバーがいても、快く送り出すスタンスを貫いている。だからこそ、転職先でIT人材の調達やDX推進の壁に直面した際、信頼できる古巣である同社をパートナーに指名し、今度は「クライアント(発注元)」として再び手を結ぶといった好循環が自然と生まれているという。
今回紹介した“線”を意識した採用プロセスは、従業員エンゲージメントの向上にもつながるものだ。ただし、こうした考え方は最近になって生まれたものではないという。制度として体系化されたのはここ数年のことだが、その根底にある「人と向き合い、関係性を築く」という姿勢そのものは、以前から変わっていないと成末氏は振り返る。
「内定者研修を例にすれば、以前は心理的安全性と相互理解の2つを重視した取り組みでしたが、ここ3〜4年は、配属後、すぐに成果が発揮できるように何から教えるべきかという観点から、知識や行動、考え方を含めたカリキュラムを組むようになりました。『仲の良いサークル』のような同期のつながりが生まれる環境でしたが、現在は一人ひとりが自律的に活躍できる状態で入社し、早い段階から成果を出せる環境になりました。とはいえ、関係性を大切にするという取り組みの本質は、これまでと変わっていません」
生成AIをはじめとする先進テクノロジーを活用して、業務を効率化させるのが当たり前となった時代に、あえて工数をかけて“人”と向き合う―― 。そんなギークスの取り組みは、AIによる効率化と人との対話を対立概念として捉えるものではない。
採用を単なる「選考」ではなく、個人の人生と企業の未来が交差する関係構築のプロセスとして捉えるならば、そこに投じる時間や労力はコストではなく投資となる。同社が重視しているのは、人材の採用に留まらず、人と組織の間に育まれる「関係性資産」を蓄積することだ。
自社にとって本当に見極めたいものは何か。その問いと向き合うことから、人と組織の未来が交わる採用が始まるのだろう。

