期間限定全文公開記事

特集 未来が交わる 「採用」 OPINION 2 候補者が知りたいのは「自分がそこで働く姿」 学生の就労観醸成を起点にしたインターンシップ・採用広報 吉川安由氏 パフ 代表取締役社長

吉川安由氏

売り手市場が続く現在、企業が学生を選ぶ時代は終わり、選ばれる側として学生と向き合う覚悟が問われている。
その初期接点となる採用広報やインターンシップも、単に自社の魅力を伝える場では済まされなくなっている。
学生は企業に何を求めており、どのような問いかけや体験を組み込むべきなのか。
学生との関係性を深める採用広報やインターンシップ設計の在り方について、人材採用活動支援で豊富な実績を持つパフ代表取締役社長の吉川安由氏に話を聞いた。

[取材・文]=本間 幹 [写真]=パフ提供

選別から相互理解へ―― 変革を迫られる新卒採用広報

かつて新卒採用は、いかに多くの母集団を集め、効率良く自社に合う人材を選別するかという“量”の勝負だった。しかし今、その前提が崩れつつある。

新卒採用支援の現場に26年携わってきた吉川安由氏は、その間の市場の変化を次のように説明する。

「現在は、これをやっておけば候補者群が形成できるという、いわゆる“鉄板”とよべるような施策が見当たらない状況です。以前はプル型の就活ナビサイトに求人情報を掲載しておけば、ある程度の効果が見込めました。しかし、現在はそうではありません。だからといってプッシュ型のダイレクトリクルーティングで採用できるのかというと、そうとは言いきれないのが正直なところです」

このような変化の一因になっているのがエントリー数の減少だ。かつては100社ほどにエントリーし、50社の会社説明会に参加し、30社の面接を受ける学生も珍しくなかった。しかし吉川氏によれば、現在は学生の活動総量が3分の1程度まで減少している印象だという。

「人手不足で売り手市場が続くなか、複数の応募企業から内定を獲得する学生は珍しくなくなりました。そのため学生たちは、志望企業をこれまで以上に早い段階で見極めるようになっています。結果として従来のような候補者群形成施策の効果が薄れているのです」

こうしたなか、採用広報は変革に迫られている。オウンドメディアでの採用コンテンツやSNSなどを通じた採用広報は、業務内容や自社の魅力を紹介するものが主だったが、コンテクストや従業員のリアルな姿を伝えるものが増えているのだ。

具体的には、現場のリアルを伝える社員のインタビューを掲載したり、メーカーや金融業界に限られていたリクルーター制度を活用したりして、社風や働く環境をストーリーとして伝えるという具合である。

なぜこのような取り組みを採用する企業が増えているのか。理由は明快だ。その方が学生の共感が得やすいからである。

「今の学生は、SNSやWeb上の口コミに対する高いリテラシーを有しています。口コミサイトにある社員の生の声やSNSの情報を重視する一方、マス広告や企業が公式に発信する耳触りの良い言葉は必ずしも本当のことを伝えていないだろうと考えています。このことに気づいている企業は、業務上の失敗談や繁忙期の働き方など、リアルな情報をあえて隠さず発信するようにしているのです」

いくら美辞麗句を並べ立てたところで、学生には「テンプレどおり」だと判断されてしまう。学生が本当に知りたいのは、入社後の自分が活躍し、成長していく姿を具体的にイメージできるかどうかだ。そこを見極めるために必要な情報を求めているのである。

インターンシップに学生が本当に望むこと

また、オープン・カンパニーやインターンシップを、新卒採用活動における学生との重要な初期接点に位置づける企業も増えている。

「採用活動の早期化が進むなか、時期的な制約が比較的緩やかなインターンシップを活用する企業が増えるのは自然な流れです。また2022年6月に『インターンシップの推進に当たっての基本的考え方』(三省合意)が改正されたことにより、一定の要件を満たす場合、インターンシップで得た学生情報を選考に活用できるようになったことも、そうした流れを加速させる一因となっています」

いずれも学生との直接的な接点を持てるインターンシップとオープン・カンパニーだが、その目的は異なる。オープン・カンパニーや1Day仕事体験は、自社の存在を知ってもらうことを目的に実施する企業がほとんど。一方、インターンシップは、実務体験を通じて相互理解を深め、志望度を高める目的で実施されることが多いようだ。

では、そんなインターンシップに学生たちはどのようなことを期待して参加しているのか。

「昨今では『インターンシップだと思ったのに、参加したら会社の説明で終わってしまい残念だった』という学生の声をよく聞くようになりました。そのため私は日ごろから採用担当者の皆さんに『インターンシップは説明会ではなく体験会である』とお伝えしています。採用担当者は、『きっと学生は会社の魅力を知りたいのだろう』と考えがちです。しかし実際にはそうではありません。先ほどもお話ししたとおり、学生は自分がその会社で働く姿を想像できるかどうかを見極めたいと考えています。インターンシップでもリアルな会社の姿を見たがっています。つまり彼らは、事業内容や制度よりも、社内の雰囲気や社員同士の関係性など、『どんな人たちとどんな会話をするのか』や『社員が楽しそうに仕事をしているかどうか』に関心を寄せているのです」

意欲の高い学生ほど、より実践的で期間の長いインターンシップを求める傾向が強まっている。企業側もそのニーズに応える形で、長期インターンシップの実施へと軸足を移しつつある。

意義深いインターンシップの鍵は“就労観”

では学生・企業双方にとって意義深いインターンシップとは、どのようなものなのか。吉川氏いわく、「学生の“就労観”が育める設計になっているかがポイント」だという()。

「自分にとって働くということはどういう意味を持つのかを知るのは、非常に重要です。そして、仕事は企業が与えてくれるものだと思って入社する人と、自分が創意工夫すれば面白くなるものだと思っている人とでは、入社後の定着も活躍も大きく異なるでしょう。いかにそのような意識を持ってもらえるかがインターンシップの成否の分かれめだと考えています」

かつては選考から外れることで、働くうえでの適性を学生が自問自答する機会につながる面があった。しかし、現在は内定を得やすいがゆえに「働くとはどういうことなのか」という問いが自分自身に向かいにくい。だからこそ初期接点の段階で企業側が意図的にこのような問いかけの機会を組み込むことで、自社で働く姿を想像させ、入社後のエンプロイージャーニーまで見据えた関係性の土台をつくるというわけだ。

具体的なインターンシップのプログラムとしては「当社の10年後の事業を考えてみましょう」といった抽象的なワークではなく、「顧客からの問い合わせにどう対応するか」といった業務の一場面を切り取ったケーススタディなど、現場での実際の仕事を題材にした内容を実施することが効果的であると吉川氏。こうした題材を通じて学生自身が考え、提案することで、その仕事が持つ意味や面白さを実感してもらえるからだ。

なお、具体的な体験を設計する前段階の準備として、次の3点を整理すると良いという。

「『どのような学生をターゲットにするか』『何を伝えるか』『どのような形式で実施するか』です。これらを整理することで導き出された目的に合わせて、やりやすい方法でやればよいだけです。これはつまり『自社の何を見せるのか』を突き詰めて具体的に考えるということを指します」

学生への個別フィードバックの質にもこだわりたい。学生一人ひとりの成長や価値観に対して社員が適切なフィードバックを行うと、選考への関心が大きく高まるというデータもある。学生に好かれようとしてほめるだけでは、望ましい効果は望めないのだ。

こうしたコミュニケーションを通じて、学生は「自分で創意工夫すれば仕事はどんどん面白くなる」と実感し、単に就業条件や知名度ではなく本質的な相性で企業を選べるようになる。もちろん企業と学生の間での相互理解が深まるため、採用におけるミスマッチの抑制にもつながる。

AIと人―― それぞれが担うべき役割とは

採用活動においてAIを活用することは当たり前になったが、吉川氏は、AIに任せてよい領域と、人間が担うべき領域とを明確に線引きする。

「AIは記録と情報整理を遂行する能力に長けています。たとえば、面接官の対応を評価・分析する際、これまでは一定のスキルを有する人物が面接に同席する必要がありました。しかし、現在では面接の様子をすべて録画し、AIが対応を評価・分析することが可能です。一方で、評価基準をAIが設定するのは難しい。そのような領域はやはり人間が行うべきです」

インターンシップにおけるAI活用はどうか。

「インターンシップ後の学生アンケートの分析や、ワークのプログラムのアイデア出しの場面では、特にAIの利用価値があると思います。ただし『何を伝えるか』『何に共感してほしいか』という取り組みの核心部分は、これからも人が考える必要があるでしょう」

インターンシップ中は、学生にその日気づいたことなどを日報としてデジタルツール上に記録してもらうことを吉川氏は勧める。その内容をAIで解析することで、たとえば初日から3日目までの意識の変化や、実施回ごとの満足度の違い、さらには運営メンバーによる取り組みの質の差異まで把握できるようになる。以前は専門家の力を借りなければ難しかったこうした分析も、AIを活用すれば誰にでも実施できる。これを使わない手はない。

先述の三省合意改正により、就業体験要件や実施期間要件など一定の条件を満たせば、インターンシップで得た情報は採用活動開始以降に限り選考に活用できるようになった。日報やアンケートをAIで分析して得られた知見も、その後の選考プロセスにおいて大きな価値を持つ。

「最終面接の面接官へ、インターンの際にその学生が何に共感していたのかという情報を共有できれば、判断の質が向上することはいうまでもありません」

AIによる記録と情報整理は、単なる工数削減の手段ではなく、学生を多面的に理解するための重要な基盤構築につながるのだ。

吉川氏がさらにAI活用の価値として挙げるのが、複雑化する選考フローを効率的に運用できるようになる点だ。

「昨今は、一律に同回数の面接を行うのではなく、候補者の特性に応じて座談会を挟んだり、面談相手を変えたりするなど、個別対応を取り入れる企業が増えています。そのような複雑な選考フローを設計し、個別対応をどうとるべきかAIに提案してもらうのです。人では大変な手間がかかりますが、AIに任せれば手間もコストも抑えられます」

企業が選ぶ側だった時代は終わり、企業もまた学生から見られる側になった。だからこそ、記録や分析、管理業務の一部はAIに任せ、その情報を基に学生との対話の質を高めていくことが採用担当者に求められているのである。

採用プロセスにおける対話が入社後の成長を左右する

採用から退職に至るまでのエンプロイージャーニー全体を見据えたとき、採用担当者は、ジャーニーの入口となる採用活動を進めるにあたって、どのようなことを意識すべきなのか。この疑問に対し、吉川氏は、「候補者(学生)への良質な問いかけを行うことを意識しておくべき」だと回答する。

「『あなたはどういう生き方をしたいのか』『何が楽しいのか』『何に没頭できるのか』―― そうした問いかけを、採用プロセスのなかで担当者が行う機会を持つ。そうすることで学生自身の考えが深まり、そのきっかけを与えてくれた企業への志望度が高まっていきます」

就職活動とは、突き詰めれば自分自身と向き合う機会だ。そこで学生の自己理解を深める問いかけを積み重ねていくことが、結果として入社後のキャリア形成の軸になっていく。

「この視点は、新卒採用における『社会最適』という考え方に通じるものです」と吉川氏。自社にとって良い人材に入社してもらう『企業最適』にとどまらず、その学生にとってどの会社で働くことが最良の選択なのかという、より広い視座で向き合う考え方を指す。企業にとって一見遠回りに見えるこのような取り組みは、実は合理的な選択だ。

「就労観に関する問いかけや対話を交わした学生は、たとえ入社しなくても、その企業に後輩や知人を紹介してくれるケースが少なくありません。なぜなら、本人が入社しなかったのはミスマッチを避けただけで、学生一人ひとりに向き合ってくれる企業であるという評価自体は変わらないからです。しかも、対話を重ねたことでその企業のことをきちんと理解しているため、企業風土に合う人を紹介してくれる可能性も高まります」

採用活動を、候補者群を集めて選別する「ゴール」としてではなく、個人の人生と企業の未来が交わる関係構築の入口として捉え直したとき、一方的なコミュニケーションでは用をなさない。

学生に何を問いかけ、どんな関係性を築くか―― そこに採用の在り方と人材へのまなざしが問われているのである。

最新号より期間限定全文公開中です。
無料会員登録すると、
全ての記事をお読みいただけます。
人材開発専門誌『Learning Design』の
全バックナンバーが読める!
無料で読み放題 会員登録する
会員の方 ログイン