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CASE1 NTT|
多様な人材の育成支援
新たな経営スタイルへの
変革を支えるNTT University

予見しがたい社会経済情勢の変化やDXへの対応など課題が山積するなか、企業経営の舵取りはますます難しくなっている。グループ全体で30万人以上の従業員を抱える通信大手の日本電信電話(以下、NTT)も例外ではなく、最適解を求めて試行錯誤を繰り返しながら、新たな経営スタイルへの変革を模索している。その一環として創設された「NTT University」について聞いた。


須藤博史氏(左)
日本電信電話 総務部門 人事・人材開発担当部長

井上智由氏(右)
日本電信電話 総務部門 人事・人材開発担当課長




企業プロフィール
日本電信電話株式会社NTTグループは、今まで培ってきた顧客基盤、通信ネットワーク、ICT技術のノウハウを活用し、国内外問わず幅広い範囲で事業を展開している通信事業のリーディングカンパニー。
資本金:9,380億円(2022年3月31日現在)
連結売上高:11兆9,440億円(2021年3月期)
連結従業員数:33万3,850名(2022年3月31日現在)

NTTグループが打ち出す「変革」の方向性

NTT Universityは、次世代経営人材育成のための取り組みである。その具体的な内容を説明する前に、創設に至った背景として、NTTグループが打ち出す最近の経営・人事に関する変革の方向性を確認しておこう。

まず、With/Afterコロナの社会を見据えて、エンゲージメント向上とワークインライフを推進し、サステナブルな社会実現への貢献を目標とする。そのための取り組みとして、①市場で通用するプロフェッショナル人材の確保・育成、②多様性の確保、③リモートワークを基本とする働き方(Work from Anywhere)の3つを掲げている(図1)。




このうち、「多様性の確保」の目標を数値で見ると、まず女性登用については、新任管理者は2021年度に30%(うち管理者比率は2025年度に15%)、役員女性率は2025年度に25~30%。外部人材・中途採用率は2023年度に30%、グローバル人材育成については2025年度に200名(2020年からの累計)、データ活用高度人材育成は2023年度に2,400名の確保を目指す。NTT Universityの選抜においても、この多様性は特に重視されている点である。

リモートワークを基本とする働き方にも力を入れている。リモートワークが中心になれば、転勤が不要となるほか、働く人の事情に合わせて生活のなかに仕事を組み込むワークインライフも実現しやすくなる。現在、すでにグループ全体で7割程度の従業員がリモートワーク中心で働いており(5月取材時点)、これを維持・拡大していく方針だ。

年功序列の社員資格制度からジョブ型へ

以上の変革に加えて、NTT Uni-versity創設の重要なきっかけとなったのは、新たな人事制度の導入だ。


①全管理職へのジョブ型人事制度の拡大(2021年10月~)

NTTグループでは2021年10月、全管理職を対象に、職務遂行能力をベースとした年次・年功的要素を含む「社員資格制度」を廃止し、会社の事業運営方針や事業計画に基づき、ポストの職務を定義したうえで、職務の重さに応じて設定されたジョブグレードに基づき処遇が決定される制度を導入した。この「ジョブグレード制度」の導入について、NTT University創設に関わった総務部門人事・人材開発担当部長の須藤博史氏は次のように説明する。

「改定前の社員資格制度では、人の能力が下がることは想定されておらず、基本的に降格はまずありませんでした。一方、ジョブグレード制度は、ポストと給与が連動した形になります。ポストの要件は時代と共に変化しますが、ポストの要件が変われば、当然そこでメンバーに必要とされる能力も変わってきます。よって、時代の要請に合わせたスキルを身につけられない人はグレードダウンせざるを得ないのです。その半面、新しい分野で知見のある人材を登用したり、ポストの要件に見合った外部の人材を新たに採用したりといったことが、機能的に行えるようになります」


②新たな専門分野別一般社員制度の導入(2022年度~)

一般社員についても2022年度以降、専門性を軸にした育成・配置・人事評価を全体として見直そうとしており、なかでも年功序列的な要素の見直しが予定されている。たとえば、改定前の社員資格制度では、上位の資格に昇格するためには、「最低在級期間」を満たす必要があった。しかしこれを廃止することによって、年齢にかかわらず、力のある人材が責任あるポストに就くことが可能になる。

一方、スペシャリストも適切に評価し処遇する仕組みを導入。課長等の役職に就かなくても昇格できるようにすることで、スペシャリストとして能力が高い人が、マネジメント以外で活躍できることを想定している。

NTT University設立のきっかけとプロセス

このような従来の年功的な要素を見直した人事施策が、NTT Universityの創設を大きく後押ししたと須藤氏は話す。

「経営環境が大きく変化するなかで、グループの企業価値を高めていくためには、広い視野や経験を積んだ多様な人材が必要になります。そういった人材を輩出するための仕掛けが人事制度改定であり、NTT University設立の構想です」

立ち上げに至るまでのプロセスとしては、2021年10月からスタートする新人事制度に合わせて2021年の上期から議論をスタート。Next Executive Course(後述)が開講する2022年4月までの間に社外有識者や各社の人事部のメンバー、そして必要に応じて代表取締役社長の澤田純氏(当時、現会長)や人事部長とも議論を重ねたという。構想から開講まで、かなりスピーディーに進んだという印象があるが、これについて須藤氏は次のように話す。

「各グループ会社の幹部が主体的に次世代の経営人材を育成していく取り組みを約8年前から実施するなど、この数年間で幹部育成のためのカリキュラムを少しずつ拡充してきたため、すでに関係者の共通理解ができていました。メンバーは私を含め数名という少人数の事務局体制で、開講までは、週1回の連絡会でディスカッションを重ねながら進めました」

NTT Universityの基本方針と特徴

Universityの基本方針は、①経営者になる強い意思・覚悟を持つ人材の実力主義による選抜、②年次年齢を問わず、社外に通用する多様な経営人材を確保、③業務での実践を通じた自律的成長のための育成プログラムの3つである。

これらの基本方針のもと、NTT Universityは大きく2つのコースで構成されている。1つは、5年以内に役員登用が期待される人材を対象とした「Next Executive Course」で、2022年4月に開講し、168名の受講者を指定した。もう1つは、将来的に役員登用が期待される人材を対象とした「Future Executive Course」で、2023年4月の開講を予定している。両コースとも、受講期間は最大3年間である。

NTT Universityならではの特徴を以下に紹介する。


・管理職を対象とした公募で、若手経営人材候補を発掘

まず、受講者の選抜については、各グループ会社による推薦に加え、全管理職を対象とした公募を実施したことが大きな特徴だ。

「公募は30代の若手も含めて多くの人が手を挙げてくれました。弊社の場合、主要会社の役員になれるのはだいたい50代前半ですが、それを待たずして役員になれる可能性のある人材を見いだすことができたのです。最近の人事の動きとしても、年次的には若くても役員になる実例が少しずつ出始めていますので、若い経営人材が今後さらに増えていくことを期待しています」(須藤氏)

また、須藤氏とともにNTT University創設を推進した、総務部門人事人材開発担当課長の井上智由氏は「候補者を確保するにあたり、女性役員比率を3割にするという目標を踏まえるなど、ダイバーシティについては非常に力を入れたところであり、また苦労した点でした」と話す。


・社外有識者の参加

選抜や育成プログラムの策定にあたっては、経営者の人材育成に関わる人事系のコンサルタントや、大企業でグローバルを含む人事系役員経験者など、社外有識者が数名参加しているのも特徴だ。社外有識者は、公募によって集まった候補者の面談や、就学が決まった受講者の育成や評価に関わる助言などの役割を担う。また、年に一度の進級可否判定を行う会議体にも、人事部長とともに入ってもらう形とした。

「この会議体に社外有識者が入ることで、人事部長も自社の都合ではなく、グループ全体として経営人材をどう育成していくべきかという視点を持って発言しています。他には、たとえば研修カリキュラムの構成、メンタリングのサポート、女性の幹部育成といった点などで、各有識者の得意分野を活かしていただくことで、社内だけの目線に偏らないようにしています」(須藤氏)

「社外有識者の方には、企画の段階から参加し助言をいただいています。また、単に助言だけではなく候補者を一人ひとりしっかりと見ていただいています」(井上氏)

Next Executive Courseのカリキュラムとは

「Future Executive Course」は22年5月現在、開講準備中のため、本稿では「Next Executive Course」のカリキュラムを紹介する。それは「ハードアサイン」「メンタリング塾」「サポートプログラム」の3つの柱から成る。3つのカリキュラムの関係を示したものが図2だ。ハードアサインを軸とし、それをメンタリング塾とサポートプログラムで支援する形となっている。




①ハードアサイン

NTT Universityのカリキュラムの軸であり、責任も権限もある重要な経営課題の解決を担うポストへの配置がハードアサインだ。具体的には、グローバル事業やスタートアップのリーダー、新規事業の開発部門長など、抜本的な変革が期待されているポストに就け、ここでのOJTを通じた成長とリーダーシップ発揮が目的である(図3)。




②メンタリング塾

副社長を含む執行役員以上の現役のグループ経営幹部30名がメンターとなり、ハードアサインされた本人を支える。経営課題をグループ全体、ひいては社会課題にまで昇華して考えることで知見の幅を広げ、視座を高めてもらうことが目的だ。

受講者168名に対してメンターは30名。つまり1人のメンターが5、6名を受け持ち、年間通じて行われる定例会(1、2カ月に一度程度の頻度)で対話をする。定例会では、外部の講師の話を聞いたり、視察や見学を行ったりして、その後のディスカッションや対話を通じて、参加者一人ひとりをサポートする。

これに加えて1on1を年2回実施。メンターは、受講生がそれぞれの職場で抱えている課題や達成したい経営目標を把握し、適切なアドバイスを行う。

③サポートプログラム

次の「サポートプログラム」は、経営に必要な知識を習得するためのOff-JTと自己啓発支援である。経営者に欠かせない知識を身につけてもらい、ハードアサインでの活用を意図している。ここでは、様々なテーマの社外セミナー、カンファレンスなどを本人が選んで受講できるが、基盤となる経営観を確立するための経営セミナーへの参加(年4回)、課題図書の読書(年2回)は必修で、いずれも事後にレポート提出が課せられる。

Next Executive Courseの進級と修了については、上長、事務局とともにメンタリング塾長が受講者の経営者としての成長度合いを評価する仕組みになっている。1年次から2年次、2年次から3年次への進級時と、修了時に評価を受ける。なお、3年次には修了論文があり、その発表はメンターだけではなく、グループ会社の副社長にもプレゼンする形が想定されている。これらをパスした人が修了判定を受け、卒業後、役員候補になっていくという流れだ。

「これまではどうしても断片的な評価になりがちでしたが、多面的かつ年間という長期にわたって継続的に評価をして、受講者に関する情報が集まってくるところが大きな違いです」(井上氏)

周囲の反応と今後への期待

制度が動き始めたところだが、運営側の手応えや、周囲の反応、そして経営へのインパクトはどうか。

「公募のインパクトはかなり大きかったと思います。今までは、年次で縛られたなかで昇格を待つことでしか届かなかった役員のポジションが、自ら手を挙げれば5年以内になれるかもしれない。卒業したからといって必ず役員になれるとは限りませんが、積極的に手を挙げた人が相当数いたことと、そこから選ばれた人たちが受ける教育が見える化されたことは、グループで働く社員への大きなメッセージになったと思いますし、年次を待っていた人たちにとっては明らかに刺激になったと思います」(須藤氏)

「まだ開講したばかりなので、受講者や周囲の声については情報収集している最中ですが、いまの段階で受け取っている情報としては、澤田会長をはじめ経営幹部が直接的に関わっている取り組みということで、反響が非常に大きいようです」(井上氏)

所期の目的であるグループ全体の経営スタイル変革にも資するような手応えも感じていると井上氏。

「創設の過程では混乱もありましたし、多様な議論が行われ厳しい意見にも接しました。しかし、経営人材育成を行ううえでは、経営幹部、人事部門、事業会社のラインを含めたすべてのスタッフを巻き込む必要があります。これまで経営人材育成は、グループ各社の事業要請により個別最適として行っていたのですが、NTT Universityがきっかけとなってグループ横断の人材ポートフォリオのバランスをとり、事業環境の大きな変化に耐えるための『うねり』を生み出すことができたと考えています」

また、NTT Universityを通じて、新しいタイプの経営人材が出てくる兆しもあると須藤氏は説明する。

「ドローンの会社、農業の会社など新しい事業がいろんな形で立ち上がっていますが、そういう会社の幹部を務める若手が、今回の公募に参加し、経営者として主体的に物事を捉えてキャリア形成を目指しているのです。NTT Universityという新しい施策を通じて、ロールモデル的な人材が経営者として輩出され、スポットを浴び、それを目指す人たちがまた増えていく。そういう好循環につながることを期待しています」

NTT Universityは、NTTグループの新たな経営スタイルへの変革を支え、今後、経営人材を安定的に供給するパイプラインとなり得るか。取り組みはまだ始まったばかりだ。

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