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CASE2 ユーザベース|
共創を促す共通言語
多様で異能な人材が1つの目標に向かうためのOKR

ユーザベースは2016年よりOKRを採用し、21年から全社導入した。当時、日本においてほとんど情報はなく、関連書籍は1冊のみ。グループ執行役員カルチャー担当の村樫祐美氏に、導入の背景や現状の課題について伺った。

株式会社ユーザベース

「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世
界をつくる」をパーパスに掲げ、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」や、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」などのサービスを運営。2008年創業。
資本金:71億8,800万円(2021年12月31日時点)
連結売上高:160億6,300万円(2021年12月期)
連結従業員数:806名(2022年1月1日時点)


[取材・文]=村上 敬 [写真]=ユーザベース提供

ユーザベースといえば、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」を思い浮かべる人が多いかもしれない。ただ、祖業は経済情報プラットフォームの「SPEEDA」。現在も「SPEEDA」「FORCAS」「INITIAL」などのSaaS事業も力強く成長し、同社の躍進を支えている。

同社が最初にOKR(Objectives and Key Results)を導入したのは2016年。主導したのは、現在共同代表Co-CEOを務める佐久間衡氏で、当時はSPEEDA日本事業の担当役員だった。なぜ佐久間氏はSPEEDA事業でOKR導入を考えたのか。それを説明するには、まずオープンコミュケーションを重視する同社のカルチャーを理解する必要があるだろう。グループ執行役員カルチャー担当の村樫祐美氏は次のように明かす。

「私たちが大切にする価値観(図1)の1つに『異能は才能』があります。人はそれぞれ違う価値観や考えを持っています。それを前提として、パーパスを実現するために多様な意見やアイデア、情熱を組み合わせながら想像以上のサービスが生まれ、顧客も喜ぶという考え方です。




異なる価値観を持った人たちが同じ目標に向かって進むために必要なのが『対話』です。それゆえ、ユーザベースはかねてからオープンコミュニケーションを重視してコストをかけてきました」

組織が小さいうちは、経営陣やリーダー、メンバーとの個々の対話によって方向性の統一ができていた。しかし、SPEEDA事業が100人強の組織に拡大したあたりから、直接対話するだけではカバーしきれない部分が目立ち始めたという。

「人数が増えるにつれ、なぜ今期はこの目標を掲げているのか、あるいは隣のチームはいま何を目標にやっているのかが伝わりにくくなり、事業部内で情報格差が生じ始めました。情報格差があると、個人やチームの仕事が全体の目標に紐づいていないように見えたり、お互いの仕事が見えないことでチームやメンバー間の自発的な協力が起きづらくなったりします。そうした問題意識から佐久間が注目したのがOKRでした」(村樫氏、以下同)

個人の目標達成を管理するMBO(Management by Objectives)は、一般的に目標の設定や成果の確認も上長と本人だけの閉じた形で共有されることが多い。一方、目標(Objectives)を設定して、それに対して主要な結果(Key Results、以下KR)を管理するOKRは、全社の目標を個人の目標につなげやすい。また、全社、チーム、個人一人ひとりのOKRを会社全体で共有するという特徴もある。組織拡大によって縦でも横でも目標共有のハードルが上がり、コミュニケーションに費やす時間や労力が増大していた同社にとって、OKRは魅力的な仕組みだった。

OKRの「あるべき」にとらわれない

2016年当時はOKR導入企業も少なく、決まった型はあってないようなものだった。そこで佐久間氏は、「管理ではなく、意義と対話によるマネジメント」「自分でゴールを決めることによるやり切る力」「目標や進捗のオープンな共有による、自発的な共創」という3つの方針を決めたうえで、トライ&エラーでオリジナルの仕組みをつくっていった。

たとえば当初は半期ごとにOKRを設定していたが、現在は四半期ごとのサイクルに変えた。サイクルを短くした方が、その時々の課題に絞って取り組めるし、PDCAのサイクルも速く回せるからだ。

また、OKRはMBOと違って、フルコミットしても届かない120%程度のストレッチな目標設定をするケースが多い。ユーザベースも基本はストレッチな目標を設定しているが、たとえば採用チームは期初の採用枠がどんどん追加されるケースが多く、常にKRが増えていく。コミットする数字はこれ、ストレッチな数字はこれ、という形でわかるようにするなど、その時々で様々な工夫を施している。

積み上げ型かテーマ設定型か

目標設定のアプローチでも試行錯誤を繰り返した。

目標設定には、現場で起きている課題を集約、グルーピングして上位目標を決めていく「積み上げ型」と、トップダウンで組織の目標を定めてレイヤーごとにブレークダウンしていく「テーマ設定型」の2つのアプローチがある(図2)。




両者メリット・デメリットがあるが、テーマ設定型は組織の上位目標から設定するため、下位まで砕いたときにも全体として統一感があり、環境変化にもトップダウンで臨機応変に目標を変更できる。ただ、現場は目標が上から降ってくるため、自分事にするのに一工夫が必要になる。

「ユーザベースは、最初からテーマ設定型です。新しい四半期が始まる前月の第一週に、まず経営陣主導でUB OKR(ユーザベースOKR)を決めて、それを受けて翌週に各カンパニーCEOがカンパニーOKRを決め、続いてディヴィジョン(部門)、チーム、個人というように、1カ月かけて目標を設定していきます」

目標の共有がOKR導入の目的の1つだったことを考えると、ユーザベースがテーマ設定型を選んだことは理にかなっている。では、どこに試行錯誤があったのか。

「テーマ設定型でトップダウンの一方通行だと、現場は目標について当事者意識を持ちづらくなります。そのマイナス面をカバーするため、リーダーが案を示した後に議論の機会を設けました。約500人の社員が参加するタウンホールミーティングでUB OKRを発表した後には、参加している社員から意見を募ってそこに対して議論するなどにトライしました。

ですが、いくらフラットなカルチャーがあるとはいえ、500人の面前で自分の意見を述べるのはハードルが高い。実際にやってみると活発な議論になりませんでした。

そこでタウンホールミーティングは趣旨説明にとどめ、あとで担当役員に意見を伝え議論するなどして双方向の機会を担保するようにしました。各事業部でOKRを決めるときも、同じように『Objectiveはこっちの方がいい』『KRはこう設定したい』と意見が言える機会を各カンパニーの定例などでつくっています」



※同社はカンパニー制を採用

年間目標から四半期OKRを設定

Objectiveの解像度は現在進行形で改良中だ。OKRはObjectiveに定性的なものを掲げ、KRは測定可能なように定量的に設定することが多い。ユーザベースも定性的なObjectiveを設定しているが、そのときにもっとも重要でフォーカスすべきものであれば定量的な目標になることもありうる。定性と定量のどちらにするかは、リーダーに一任。MRR(月次経常収益。SaaSビジネスで重視される指標の1つ)や解約率をObjectiveに設定しているときもあれば、ビジョナリーなObjectiveを掲げるときもある。

「OKRは、今を切り取ってフォーカスするのに最適な仕組みです。しかし、それゆえに点になりがちで、掲げた目標が未来にどうつながるのか見えづらいところがありました。たとえば私が担当している人事部門で、『このプロジェクトをやる』とObjectiveを設定したとしましょう。かつてはそのプロジェクトをやったことでどんな成果が現れるのかが伝わらないまま進んで、『とりあえずやりました』という形に終わることもあったのです。

その状況を改善するため、2022年第2四半期から年間目標を『エンゲージメントのスコアをいくつにする』『労働時間を何時間にする』というように定量的に設定し、達成するためのロードマップとして、点ではなく線で四半期ごとのOKRを決めるようにしました。そのなかで四半期のObjectiveが定量的になる場合もあります」

コンピテンシー評価にOKR達成度を活用

気になるのは、OKRと評価の関係だ。ユーザベースは、評価にコンピテンシーを用いている。営業なら営業に関する持続可能な能力があるかどうか、同様にデザイナーならデザインの、エンジニアならエンジニアリングの持続可能な能力があるかどうかで評価が決まる。ただ、OKRにおけるKRの達成度が無関係なわけではない。

「OKRはコンピテンシーを証明するための素材の1つとして使われます。たとえば『OKRで設定したMRRを達成し、持続可能な能力として持っているので昇格』、『未達成が続いており、コンピテンシーを満たしていないので降格』という形です。

一方、評価をOKRの達成度のみに振り切るのは不適当です。たとえばコーポレート部門のOKRでその四半期はあるプロジェクトに注力すると決まったとしましょう。このとき全員がプロジェクトに関わるわけではなく、役割としてオペレーションに集中しなければいけない人もいます。OKRに関わるプロジェクトに関わっていないから評価が下がるというのはアンフェアです」

それぞれのカンパニーやディヴィジョン、そして時期によっても事情は異なる。現在はその事情に合わせて柔軟に運用しているそうだ。

カンパニーを超えた共創が生まれた

そして2021年、佐久間氏は共同代表Co-CEO就任を機にOKRを全社導入する。全社に拡大したのは、SaaS事業でOKRの導入効果を強く感じたからだ。

具体的にはどのような効果があったのか。村樫氏は、「人の成長が早くなった」と話す。

「OKRと評価の連動を強めていくにつれて、人の成長曲線がグっと上がって昇格率も高くなりました。以前は半年だった評価期間が3カ月に1回になり、目標に挑戦する頻度が倍になったことも大きいと思います」

そもそもの課題であった情報格差も解消されつつある。前述のように、ユーザベースはOKRをテーマ設定型で運用している。テーマ設定型は全社目標とチームや個人の目標がつながりやすいというメリットがあり、レイヤー間の情報格差解消に適しているからだ。それに加えて、横の連携も活発になったという。

「OKRを導入しただけで共創が生まれるわけではありません。ただ、OKRという共通言語ができてコミュニケーションしやすくなったことは確かです。2020年、ユーザベースはエキスパート領域を担うミーミルを完全子会社化して、2021年のUB OKRでエキスパート・ネットワークを拡大する方針を打ち出しました。それを受けて、NewsPicksとミーミルで『NewsPicks Expert』、SPEEDAとミーミルで『FLASH Opinion』といった新サービスを立ち上げましたが、事業立ち上げの速度がOKR導入以前と比べ一気に早まった感覚があります。こうした共創事例が素早く展開できたのも、OKRを起点としたコミュニケーションでカンパニー間のコミュニケーションコストが下がったからだと考えています」

キャリア形成とどう結びつけるか

すでに一定の成果を上げているユーザベースのOKRだが、村樫氏は「まだ過渡期」と気を引き締める。

「OKRはすべて公開されているので他のチームや社員のものを見ながら自分のOKRを設定できます。また、OKRの設定は上長の承認が必要で、的外れな設定をしていれば対話で修正していくことができる。そうした仕組みがあるので大きな混乱は起きていません。ただ、悩みながら自己流でやっているチームや個人も多く、ばらつきが見られます。カルチャーチームとして、ベストプラクティスを提示する必要を感じています」

ベストプラクティスが求められるのはOKRの設定だけではない。その他の業務をOKRとともにどう管理するべきか。現状は各チームにゆだねる形になっており、足並みが揃っていない。

もう1つ、キャリアとの結びつきが不明確な点も課題だという。

「OKRは近視眼になりがちで、目標を達成すれば自分の中長期的なキャリアにどう影響するのかがわかりにくい。キャリア形成におけるOKRの位置づけを言語化して、『今このOKRを頑張れば1年後にはこうなっている』とリーダーとメンバーがお互いに認識できる状況をつくっていきたいと考えています」

近年、大手企業も導入し、改めてその価値が見直されているOKR。OKRは組織の見えない壁を取り払い、イノベーションのためのキードライバーとなり得るのかもしれない。

Learning Design 2022年05月刊

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