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特集 HR KEYWORD 2022│
ハイブリッドワーク|
あまねキャリア 沢渡 あまね氏│
組織と個人が向き合うべき
3つのハイブリッド

ワークスタイルが大きく変化するなかで注目されているのが、「ハイブリッドワーク」だ。ワークスタイルや組織開発の専門家である沢渡あまね氏は、オフィスワークとテレワークの組み合わせを超えた「3つのハイブリッド」を提唱している。どのような考え方なのかを聞いた。

沢渡 あまね(さわたり あまね)氏
あまねキャリア 代表取締役CEO/作家・ワークスタイル&組織開発専門家/「組織変革Lab」主宰
1975年生まれ。
日産自動車、NTT データなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。
350以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。
著書は『どこでも成果を出す技術』『バリ ューサイクル・マネジメント~新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方』『職場の問題地図』(技術評論社)など多数。

[取材・文]=谷口梨花 [写真]=沢渡 あまね氏提供

「3つのハイブリッド」とは

「ハイブリッドワーク」と聞くと、オフィスワークとテレワークを組み合わせた勤務形態をイメージする方が多いのではないだろうか。350以上の企業・自治体・官公庁で、働き方・組織・マネジメント変革の支援や講演を行ってきた沢渡あまね氏によると、ハイブリッドワークには「3つのハイブリッド」があるという(図1)。





① 働く場所のハイブリッド

最初は「働く場所のハイブリッド」である。テレワークに代表されるが、これはコロナ禍で急速に進んだ。

「最近では、リゾート地などで休暇を兼ねて仕事をする『ワーケーション』も盛んになってきました。このように、『自宅かオフィスか』という考え方が発展し、いわゆるサードプレイスのハイブリッドも増えています。働く場所を主体的に組み合わせることで、今までにない発想を生み出したり、社外の人とコラボレートしたりする動きも活発です。場所のハイブリッド化は、これからどんどん進んでいくでしょう」(沢渡氏、以下同)

② 顔のハイブリッド

「顔のハイブリッド」とは、パラレルキャリアのように、1人の人間が複数の顔、つまり役割を持っている状態である。

「私の顔もハイブリッドです。自社のCEOとしての顔、企業の取締役や顧問の顔、執筆や講演をしているときの顔は切り替わります。パラレルキャリアが当たり前のようになり、複数の顔を持つ人は増えてきています。『顔のハイブリッド』をうまく使いこなして成果を出すことが、組織と個人双方に求められるようになるでしょう」

③ 業種・職種のハイブリッド

「今話題のDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈で起こっている化学反応が、まさに『業種・職種のハイブリッド』です。たとえば、農業にテクノロジーを活用する『アグリテック』では、人が張り付かなくても気温などを自動制御したり、作物の育成状況を判断したりすることが可能になりました。このように、まったく異なる業種や職種を掛け合わせることで、新たな価値を生む時代になっているのです」

進化できる企業との格差が広がる

これからは、組織も個人もこれら3つのハイブリッドに向き合っていく必要があると沢渡氏は話す。

「コロナ禍でテレワークが一気に進み、場所の縛りなく仕事ができることに私たちは気づきました。ここで過去に戻る企業と、新しい未来を見据えて進化する企業の成長格差は非常に大きくなるでしょう」

一方で、コロナ禍にも収束の兆しが見えてくるなか、満員電車の復活など揺り戻し現象も起きている。

「揺り戻しの理由は大きく2つあります。1つは、気づいているけれど古い慣習や同調圧力に屈してしまっているケースです。もう1つは、日本の大きな課題でもありますが、過去の勝ちパターンに縛られているケースです」

しかし、進化しないことは組織のリスクであり、もっと言えば国のリスクでもあると沢渡氏。

「旧来のやり方で成果が出せていればいいのですが、実際どうでしょうか。GDPランキングを見ても、日本の成長力は右肩下がりです。次の世代に対して、旧来のやり方を続ける説得力がまるでありません」

では、新しい未来を見据えて進化するためにはどうすればいいのか。

「鍵は3つです。1つめは、トップのコミットメント。トップが本気で変わろうとしなければ変わるわけがありません。ただ、組織が大きくなればなるほど、トップの思いが現場に伝わりづらくなることも事実です。

そこで2つめが、人事や広報、経営企画部門などのコーポレート部門が、トップと現場の景色合わせをする役割を担うことです。トップの目指す方向と現場の接点を見つけ、組織をアップデートしていく役割は今後ますます重要になるでしょう。

最後は、現場で働く一人ひとりのマインドを変えていくことです。経験によってマインドが変わることも多くありますので、人事部門には、新しい経験ができるような環境を整えることが求められます。

つまり、関わるステークホルダー全員が、仕事の仕方やマインドを正しくアップデートすることが鍵になる、というわけです」

とはいえ、ステークホルダー全員の意識改革に苦戦している企業は多い。

「それもそのはずです。なぜなら、日本企業は、過去50~60年間、モノづくりの現場に最適化しすぎてきたからです。生産計画に基づいて業務全体をコントロールするためには、トップに権限と責任を持たせる、いわば統制型の働き方が合理的でした。そして、それに合わせて、マネジメントの仕方も統制型になっていったのです。その結果、決められたことをきちんとこなすプレーヤーと、それを統制管理する管理職が量産されてしまいました。もちろん統制型は、同質性の高い人たちが決められたことをこなすのには非常に効率的です。しかし、不確実な時代には、統制型一辺倒の制度やカルチャーでは、組織と個人の成長リスクになりかねません」

ハイブリッドワーク時代のマネジメントとは

統制型のマネジメントに慣れていると、コロナ禍のような大きな変化に直面するとたちまち思考停止にな ってしまうと沢渡氏。では、ハイブリッドワーク時代のマネジメントとは、どのような形になるのだろうか。

「そもそも、マネージという言葉の本来の意味は『やりくりすること』です。気合と根性で何とかするのではなく、不確実性に向き合い、足りないものは組織の内外から調達して自ら答えを出していかなければいけません。コロナ禍で一斉にテレワークになり、コミュニケーションの課題などに皆さん気づいたはずです。それを言語化して正しく向き合い、アップデートしていくことが重要です」

そして沢渡氏は、図2の通り、これからの時代に求められる5つのマネジメントと9つの行動を示した。





「5つのマネジメントの最初が『コミュニケーションマネジメント』なのは、やはり鍵はコミュニケーションだと考えるからです。テレワークでも、コミュニケーションの課題が多く挙がりました。3つのハイブリッドを乗りこなすためには、場所や顔、業種・職種にとらわれずにコミュニケートして、景色合わせをしながら成果を出さなければいけません。そのためには、コミュニケーションの在り方も見直す必要があるでしょう。

また、9つの行動のうち『育成』も重要です。変化のスピードが速まるなかでは、OJT重視、先輩の背中を見て10年かけて育てるというやり方では間に合いません。さらに、組織内に答えがないテーマが増えるなか、組織内だけで育成するのは限界があります。組織を超えてつながる越境学習を取り入れるといいでしょう」

ハイブリッド化には人事部門のサポートが必要

前述の通り、3つのハイブリッドに向き合うには、一人ひとりが自身を正しくアップデートしていくことが鍵になる。そのとき、人事部門の果たす役割は非常に大きいと沢渡氏は強調する。

「人事の皆さんには、SDGsやESGの観点からも、企業の社会的責任として自社人材のアップデートに正しく投資していただきたいです。特に大企業であればあるほど、取引先も含め関係人口が多いため、旧来のやり方を続けることは社会全体の停滞につながります。大企業は特に、社会的責任として人材のアップデートを急いでいただきたいと思います」

そのために、人事部門が行うべきことは3つある。

「1つめは、新しい働き方を経験する機会を増やすことです。私は日本に足りないのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)以前のDX(デジタルエクスペリエンス)、つまりデジタル経験だと思っています。会議は対面のみ、外部との連絡は電話とメールのみ、という人にはデジタルで世の中を変えることは想像すらできないでしょう。『習うより慣れろ』と言いますが、経験した方が早いことも多くあります。

2つめは、スキルアップへの投資です。テレワークのせいで、マネジメントやコミュニケーションがうまくいかなくなったのではなく、テレワークのおかげで、マネジメントやコミュニケーションの仕方の悪さやリスクが露呈した、と考えてほしいのです。テレワークに限らず、ハイブリッドワークに足りないスキルを言語化して、正しくアップデートできるように投資しましょう。

最後は、人事制度の改革です。人事制度の改革は人事でなければできません。1つめ、2つめの取り組みをしたうえで、それでも変化を拒む人には、厳しい処遇も考えざるを得ないでしょう。このような人は、未来志向でアップデートしようとする人の足を引っ張ることにもなりかねないからです。人事担当者は、アメとムチを駆使しながら、3つのハイブリッドを乗りこなせるような人事制度や評価制度を整備していただきたいですね」

ハイブリッドワークの未来

2022年、ハイブリッドワークはさらに進化していくだろう。沢渡氏が考えるハイブリッドワークの未来とは。

「これからは、越境して垣根なくつながり、成果を出せる人材が生き残 っていくでしょう。DXが話題ですが、そもそもDXとは、垣根を越えて、新たな『勝ちパターン』を生み出すことだと考えています(図3)。垣根を越えて答えを出していくためのもっとも速い手段がデジタルなのです。したがって、たとえデジタルツールが与えられても、指示待ち人間のままでは成果は出せません。繰り返しになりますが、個人と組織の成長には、関わるステークホルダー全員が正しくアップデートすることが欠かせません」

「皆さんは、過去の人たちに迎合して停滞するのですか。それとも未来の人たちに合わせて成長するのですか」 ―― 最後に沢渡氏は、印象的な言葉を投げかけた。コロナ禍を成長の糧にできるかどうかは、私たち一人ひとりが正しくアップデートし、3つのハイブリッドを乗りこなせるかにかかっている。

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