J.H.倶楽部 情報・交流・相談の場を通じて、
HRMの未来をともに描く

× 閉じる

Recommended Archive過去記事ピックアップ

7月21日更新

編集部より

夏季休暇の予定を立てるのが楽しみになってくるはずのこの季節。
どこにも旅行にいけないのなら、せめて一人でワーケーションを検討してみるのはいかがでしょうか。
コロナ禍で認知度がぐっと高まった「ワーケーション」
いち早く環境を整え、企業の誘致を開始した和歌山県への取材を元に、あらためてその意味や効果について紹介します。

HR TREND KEYWORD 2019│
ワーケーション│創造的な活動で
生産性向上と 地域活性化に寄与

テレワークを活用し、環境の良い場所で仕事をしながら、休暇なども楽しめる「ワーケーション」という働き方が注目されている。この取り組みを進めるのが、和歌山県白浜町。同県でワーケーションをけん引してきた天野宏氏に、話を聞いた。

ワーケーションが進む背景とは

「ワーケーション」とは、仕事と休暇などを融合させた欧米発の造語である。テレワークを活用し、地方のサテライトオフィスなど環境の良い場所で仕事をしながら、休暇や地域ならではの活動なども楽しもうという働き方だ。世の中全体の働き方改革推進にともない、日本でも導入を進める自治体や企業が登場している。

「これは2011年ごろ欧米で生まれ、使われ始めた言葉です。日本で使われるようになったのは2017年ごろからですが、それ以前からITに精通した大企業の役員などは、別荘で仕事をするなどワーケーション的な働き方をしていました。このメリットは、まず社員のワークライフバランスの改善や生産性向上が期待できる点。そして、地域でのボランティアや社員の能力開発の機会が増え、会社としても、社会的貢献や地域などとの共通の価値創造につながるというメリットがあります」(和歌山県企画部企画政策局 情報政策課課長の天野宏氏、以下同)

以前は限られた人しか行えなかったワーケーションが、幅広い社員を対象として実践されるようになってきた背景には、下記のようなポイントがある。

①IT の進展と環境整備の充実

コワーキングスペースやサテライトオフィスも増えているように、IT技術が進展し、場所を選ばず仕事をするためのWi-Fiなどネットワーク環境が整ってきた。

②案件ベースの働き方が増加

案件ごとに必要な能力をもつ社員を集めるプロジェクトベースの仕事が社内外に増加し、場所にしばられない働き方へのハードルが低下した。

③創造を望む価値観への変化

働き方や余暇の過ごし方について、若者の志向の変化も影響している。

「休日は買い物や娯楽施設などで消費を楽しむのではなく、自然豊かな地方で創造的な活動をすることで、公私ともに人生を充実させたいと考える人が増えています」

ハード面の充実ばかりではなく、人生と働き方のバランスや、より良く生きることを望む人たちが増えてきたというのも、ワーケーションを促進させている理由である。

地方ならではの経験に焦点

もともと「ワーク」と「バケーション」から生まれた「ワーケーション」だが、のんびり休暇を過ごすだけではなく、その地域に入り込み、そこでしかできない経験をするというのも広義のワーケーションの概念だ。

「ワーケーションを通して、いつでも(occasion)、どこでも(location)、思いの実現(realization)や、満足(satisfaction)につなげてほしい、という思いがあります。その最たる方法が地域参画ですね。現地の住民との交流やボランティアを通して、新しいアイデアを生み出すという創造的活動に広がっています」

社員が地域で創造的に活動する機会や時間を提供している企業もある。CSR(企業の社会的貢献)やCSV(共通の価値の創造)の観点からも、時代のニーズに合っているといえるだろう。

ハード・ソフト・推進主体が鍵

全国に先駆けてワーケーションの環境を整え、積極的に企業を誘致しているのが和歌山県である。2017年から現在まで、体験も含め24社200名以上がワーケーションを行っている。総務省が2015年から実証するふるさとテレワーク事業により、IT 環境の充実を図ってきたことも、取り組みを加速させた。

「和歌山県は、宿泊施設や通信環境といったワーケーションに必要な施設・設備、人や観光といった魅力、そして、ワーケーションを推進する主体がそろっています。たとえば、一般の方々が世界遺産・熊野古道の修繕を行う『道普請(みちぶしん)』という活動など、地域資源を生かしたアクティビティや地域の人たちとの交流イベントも企画しています」

このようなハード面、ソフト面が整い、推進する主体があることが、企業が和歌山でワーケーションを行う決め手になっているのだろう。

「より良い環境の職場を整備・提供することは、優秀な社員に働き続けてもらうために欠かせないものになりつつあります。これからの時代、多様性を受け入れることは企業の強みにもなりますから、働き方に多様性をもたせる必要性も高まるはず。2019年はさらにワーケーションが注目されるでしょう」

事例 ❶ クオリティソフト「Innovation Springs」で新しい働き方と異業種交流を実現

東京から白浜へ本社を移転

IT資産管理、エンドポイントセキュリティソリューションの開発・販売を行うクオリティソフト。2016年12月、新社屋のオープンと同時に、本店所在地を東京から和歌山県白浜町へ移した。「IT産業がけん引して地方の時代をつくる」という同社の目的を一歩進めるためだ。

本社で働いている社員は、ほぼ地元採用だが、UターンやIターン採用も増加している。

「最も魅力的なのは、青空と海ですね。少々厳しい状況であっても、青空や海を眺めるとリセットできる環境です」

そう話すのは、開発本部長の瀬古茂氏。2013年まで川崎市に住み、別会社に勤めていた。だが、米国シリコンバレーで5年間働いた経験もあり、帰国後もオープンな環境で働きたいと、地元に移転した同社に転職した。

働き方改革を実現するオフィス

約5530坪の広大な敷地には、750坪の建物、森林に囲まれたワークスペース、果樹園があり、遊歩道を歩くと5分で浜辺に到着するという自然豊かな環境だ。天然木の紀州木材を使用したこだわりのオフィスは、ひと目で全体を見渡せる開放的な空間となっている。また、敷地内では屋内外どこでも仕事ができるよう、フリーアドレスとペーパーレス化を実現している。

「コミュニケーションを促進させたいときや業務に集中したいときなど、個々のスタイルに合った最適な場所で働ける環境づくりをしています」

そう話すのは、新社屋移転プロジェクトを推進した中尾達也氏。新社屋は、2017年度第30回日経ニューオフィス賞「近畿ニューオフィス奨励賞」を受賞した。

また、忘れてはならないのは“異業種交流の場”としての役割だ。一般の人が利用できるコワーキングスペース、セミナールーム、宿泊施設があるほか、社員食堂も一般開放している。異業種交流から生まれた製品がまもなく発売されるなど、すでにその成果も出始めている。

「オフィスを含めた敷地全体を『Innovation Springs』と名づけています。背景には、人々が集い、交流し、切磋琢磨できる場所にしたい、南紀を先進的な技術やイノベーションに溢れる場にしたいという想いがあります」(中尾氏)

事例 ❷ セールスフォース・ドットコム 社会貢献が主体的な働き方につながる

東京より生産性20%向上

クラウドベースの顧客管理や営業支援を行うセールスフォース・ドットコム。従来からモバイルで働ける環境は整っていたが、2015 年から総務省のふるさとテレワーク推進における実証事業に参画し、和歌山県白浜町にサテライトオフィスを構えた。

「白浜オフィス(以下、白浜)では営業案件を発掘する内勤担当者最大11 名が、3カ月交代で勤務します。この3年間で、累計80 名が白浜で働いており、東京に戻らず継続する人もいます」(インサイドセールス本部営業戦略室長の吉野隆生氏、以下同)

本社は東京であり、白浜ではテレワークの働き方だが、ミーティングや面談の頻度は東京と変わらない。週次の会議、チーム会議、上長面談など対面が必要な場合はテレビ会議で行い、対面が必要でない場合は、社内SNSツールのChatter(チャター)を活用し、対応している。

「労働時間が東京より短くなり、より効率的に生産的に働けるようになりました。東京と白浜で毎月の案件発掘数を比較すると、白浜は約20%も多いんです。オフィスから海が見渡せる気持ちの良い環境ですから、みな朝型になり、フレッシュな頭で取り組むようになるのが大きな理由ですね。その習慣が定着するのにも3カ月という期間はちょうど良く、白浜卒業生は東京に戻ってからも、朝型の働き方が続いています」

社会貢献が生産性に反映

社会貢献も生産性向上につながっているという。そのひとつが、和歌山の小中学校で行っているプログラミングの出張授業。フリーのアプリケーションを使い、最年少は4 ~5 歳から、最高齢は100 歳超を対象に授業を行う。

「プログラミング教室では、生徒から直接『○○さん、ありがとうございました』と言ってもらえることがあります。その他のボランティアでも、直接感謝を伝えてもらったり、コミュニケーションをとることで、本人のアイデンティティや当事者意識が醸成され、主体的に仕事に取り組む姿勢につながる。それが、生産性を底上げするという良いサイクルを生んでいるのだと思います()」

もともと同社では、社会貢献をミッションとしており、就業時間の1%をボランティア活動に、株式の1%を寄付に、製品の1%を無償提供に充てる「1-1-1 モデル」を掲げ、全社的に社員の社会貢献活動が行われている。白浜では特に、深く地域に入り込み、地元の人たちと長きにわたる関係を築くことが可能になるため、より社員のモチベーション向上につながるということだろう。

白浜が一歩踏み出すきっかけに

ちなみに同社では、白浜勤務の初日に「生活」「仕事」「協働」「独立」の4分野で3カ月間の目標を立て、紙に書いてオフィスに貼り出す。仕事と生活のバランスを考えながら、白浜で働く目的と動機づけを明確にすることが、社員の挑戦の背中を押しているという。

「地元の人と接点をもつ、経営者と話をする機会をもつ、釣りをする、など目標は様々です。やらなければ、とわかっていても最初の一歩を踏み出せずにいる人は多い。でも、きっかけをつくり、動機づけさえすれば、自らしっかりやるんです」

生産性の高い働き方を実践する同社の白浜の見学者は3年間でおよそ2,000人に上る。来年は別部門の常駐も検討し、取り組みを拡充しながら、効果的なテレワークの在り方を模索し続ける。

Learning Design 2019年01月刊