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特集│OPINION 2 村瀬俊朗氏
問われているのは
手法ではなく行動変容
チームの弱体化を招く、
オンラインコミュニケーションの
落とし穴

テレワークの定着にともない懸念されるのは、組織における一体感の希薄化だ。
コミュニケーション手法が限られるなかで、私たちはチームでのやり取りをどのように工夫していくとよいのだろうか。
アメリカでの研究の経験も豊富なチームワーク研究の専門家、早稲田大学准教授の村瀬俊朗氏に話を聞いた。

村瀬俊朗氏 早稲田大学 商学部 准教授

1997年高校卒業後に渡米し、2011年にUniversity of Central Floridaにて産業組織心理学の博士号を取得。
Northwestern University、GeorgiaInstitute of Technology で博士研究員を務め、Roosevelt University で教鞭を執る。2017年9月より現職。
専門はリーダーシップとチームワーク研究。

個が集まっただけではチームは機能しない

私たちの仕事は、複雑化かつ高度化の一途をたどる。ミケランジェロやダ・ヴィンチの時代は、彼らが芸術家でありながら建築家や研究者でもあったように、多方面に才能を発揮することができた。だがいまや数学で新たな定理を証明するのですら、チームでなければ達成は困難だ。

チームワークとリーダーシップに詳しい、早稲田大学商学部准教授の村瀬俊朗氏は、コミュニケーション不全の集団は、チームの体を成しているとはいえないと断言する。

「チームは共通の目的や目標に向かい、互いに助けあいながら作業を進める運命共同体のようなもの。個人で完結することなら、チームをつくらず個で動いた方が生産性ははるかに高いはずです。裏を返せば、個がただ集まっただけでは、チームは機能しません。多角的かつ広範な視点で全体を把握し、各々の専門性を統合させるプロセスが不可欠であり、そこにコミュニケーションの価値が問われます」(村瀬氏、以下同)

スーパープレーヤーを集めたドリームチームが必ず勝てるとは限らない。個の力では劣るチームが試合本番で総和以上の力を発揮するのは、チームワークの賜物といえる。

シナジーを生み出すコミュニケーションを成立させるには、個人が意識すべき姿勢があるという。

「1つは他者への尊敬です。すべての意見には価値があると認め、自分の考えとは違ってもまずは聞くこと。もう1つはパースペクティブ・テイキングといって、相手側の視点から課題を眺める能力です。チームの多様性が高くなるほど、この2つが求められます」

チームワークの土台となる「共有認知」

各々の専門性が高いほど、認知バイアスに縛られがちである。村瀬氏は「私の場合は専門であるチームワークの知識に当てはめて物事を考えがちです」と語る。こうした認知の歪みの積み重ねは、誤った意思決定を招きかねない。それぞれがバイアスの存在を自覚し、相手の視点に立つことでフラットな判断が可能になる。

バイアスに関連し、言葉とメッセージの乖離にも注意したい。たとえば「子どもの面倒を見て」と言ったとき、夫婦の間でもその認識に差があることがある。子どもと一緒に遊んだり、あやしたりすることを求める意味だとしたら、泣いたりぐずったりするまで何もしない受け手の態度にイライラすることだろう。この場合の解決策は「子どもと遊んだりあやしたりして」と伝えるだけではない。

「鍵となるのは、チームに根づく共通の考えや価値です。『共有認知』と言いますが、これが定着していると、それぞれが役割を全うし、うまく連動するようになります」

バスケットでボールを持つ選手がスペースを見つけて投げた瞬間に、他の選手が走り込んでシュートを決めるというような連携は、共有認知の一致により生まれる。これを踏まえると、メッセージの解釈の齟齬は、単なる言葉選びの問題だけではないことが浮かび上がってくる。

「家事や育児を日ごろから協力しあい、タスクで求められていることを同じレベルで認識しあえていれば、解釈の相違は最低限に抑えられるどころか、指示されなくても自然と体が動くようになります(図1)。コミュニケーションとは広範なものであり、関係性次第では言葉が不要になるケースもあるのです」

チームの強さを築く「感情的信頼」

ところがテレワーク主体のチームでは、共有認知の一致も一筋縄ではいかない。最大の要因はコミュニケーションのピンポイント化にあると、村瀬氏は指摘する。

「同じオフィスに集まって一斉に働く環境では、雑談や自席の周りで生じているやり取りの様子などから、チームやメンバーの状況を特に意識せずとも察知できていました。それにちょっとした問題は、近くの人に声をかければすぐに解決するということも多かったでしょう。しかしこの類の情報は、テレワークになった途端寸断してしまいました」

オフィスを離れて個人作業が増えると、チームへの意識は薄れ、周りとも疎遠になりがちだ。そうなると、個々の仕事のすき間に存在するその他の仕事が抜け落ちるなど、連携は乱れ、チームで成果を上げていくことが叶わなくなってしまう。顕在化しない情報がチームの円滑な機能に一役買っていたことを、この1年で痛感した人は少なくないはずだ。

「このことを踏まえると、いかにしてコミュニケーションを確保するかを考える必要があります。このヒントとなるのが、“信頼”です」

シンガポール国立大学のマカリスター教授によれば、信頼には2種類あるという。1つは認知的信頼といい、「この仕事なら任せられる」と相手の実績やスキルに基づいて判断する信頼を指す。もう1つは感情的信頼と呼ばれ、「この人になら自分の弱みを見せても裏切られたり、利用されたりしないだろう」という、精神や心理的な性質から生じるものだ。

「チームワークの観点でいえば、感情的信頼は認知的信頼以上にパフォーマンスに影響することが、複数の研究から明らかになっています」

感情的信頼が高まると、コミュニケーションが深まることは容易に想像できる。すると互いが密に認識しあうようになり、共有認知も強化される。活発で質の高いコミュニケーションは、アイデアやイノベーション創発にもつながる。

逆に感情的信頼を構築しづらい状況ではどうなるか。いつもイライラして小言の多い上司とのやり取りでは、内容以上に“伝え方”にも気を回す必要が出てくる。また怒られやしないかという不安は、精神に負担をかける。これらは本筋から外れたところで脳のリソースを消費することになり、創造性を阻む要因となる。ひいてはパフォーマンスの低下を招きかねないというのが、村瀬氏の主張だ。

「単発的なプロジェクトであれば、認知的信頼主体のGive & Take の関係でも成り立つでしょう。しかしチームはふつう、中長期に行動を共にする関係になるはずです。運命共同体である以上、一丸となって苦楽を乗り越え続けていく必要があります。そのとき問われるのが本質的な結びつきの強さであり、それは感情的信頼のような、Give&Takeを超えた泥臭い関係によって築かれるのです」

働く仲間の苦境を助けようと手を差し伸べるとき、その行動が損得勘定は抜きにした信頼から生じることを、多くの人は過去の経験から理解できるのではないだろうか。

チャットが職場の代わりとなる

テレワーク主体のチームでは、どのようにして共有認知や感情的信頼の構築を図るのがよいか。村瀬氏は「リアルに勝る相互理解の手段は今のところ存在しない」と断ったうえで、デジタルツールの活用にコツがあると説明する。

「リアルと比較し、コミュニケーションの水準の低下をできるだけ食い止めるというのが、方針の基本となるでしょう。そのうえで、これまでなら無意識のうちに触れることのできたチームやメンバーの情報や考えを、ツールを介して無理なく入手できるしくみづくりがポイントとなります」

デジタルツールとは、Slack やTeams などのコミュニケーションツールのこと。大手やIT企業を中心に一般的になりつつある。社内のやり取りは、メールではなくビジネスチャットを使うところも増えているのではないだろうか。

「気をつけたいのは、ビジネスチャットはメールの代替手段ではない点です。仕事の話なら個人宛のものでもチームチャネルに投稿し、読んでほしい相手に通知を送るとよいでしょう。『○○さんと××さんで、この仕事を進めているんだな』と、メンバー間で状況を把握できるようにするためです。自席の近くで誰かが仕事の話をしている場面を、チャット上に再現するのです(図2)」

また村瀬氏は、チャット(=Chat)はすなわち“おしゃべり”なのだから、メールのように形式張る必要はないと話す。

「罵倒や非難は論外ですが、口語的な表現も交えると、リアルなオフィスの雰囲気に近づきます」

オンライン会議のやり方にも注意したい。成果を出すチームは、接点を増やし、いつでも誰かに相談できる状況をつくるのがうまいという。

「ポイントは、1回あたりの時間を短めに設定し、頻度を確保すること。この時間は進捗確認が目的ではありません。メンバーが何に着手し、どのようなコンディションで臨んでいるのかを把握したり、チームで目線を揃えたりするためのものです」

15分程度でコンパクトにまとめ、時間の有効活用を心掛けたい。

テレワーク時でも有効なシェアードリーダーシップ

つまるところ、私たちの行動変容が問われていると村瀬氏は話す。

「対面が当たり前だった時代に染み付いたコミュニケーション様式をリセットし、新たな環境にふさわしい作法を身につける必要があるということです。特にオンライン化によって、周囲の様子は自分から拾いに行かなければつかめなくなりました。裏を返せば、自身の様子も自ら開示しなければ周りに伝わらないということです」

しかしながら長年の癖は、そう簡単に矯正できるものではない。ましてや環境の変化に対し、自然に適応することを期待するのは無謀な話だ。

「やはりオンライン環境下ならではのコミュニケーションスキルを、人事部門が主導して研修などのOff-JTで強化するといった対策は必須でしょう。とりわけデジタルツールは導入をゴールに置き、活用を軽視しがちです。しかし先のビジネスチャットの例のように、ツールの特色を活かすことが大事ですし、一部の人だけが頑張っても本来の目的は果たせません。年齢や役職関係なく、組織ぐるみで新たな規範に沿って行動していくのが鍵といえます」

新たな規範の定着には、リーダーの影響力が大きいとも村瀬氏。共通の価値観のもと個々の専門性や特性を発揮できる環境づくりは、感情的信頼を高める寛容な態度や、デジタルツールの活用といったリーダーの振る舞いや働きかけ次第で変わる。

「とはいえ、管理職がすべてを背負う必要はないと思います。ミーティングは場づくりが得意な中堅に進行を任せればいいし、若手が中心となってビジネスチャットの規範を整えたっていい。信頼できるメンバーに役割を委譲するシェアードリーダーシップの実践が、コミュニケーションを活性化させます」

新型コロナの影響もあり、テレワーク奨励の風潮は今後もしばらく続くだろう。だが、テレワーク先進国であるアメリカのIBM やヤフーといった企業も、コロナショック以前はオフィスワークに回帰する動きが見られた。意思疎通が図れなかったりテレワークとオフィスワークで処遇差が生まれ対立したりといった弊害が、組織パフォーマンスにネガティブな影響を及ぼしたからだ。その一方で、テレワークは遠方との接点を身近にし、働き方の柔軟性をもたらした。直接会えなくても認知的信頼が成立していれば、頻度や会話の質次第で感情的信頼をある程度カバーすることも可能なはずだ。

「『周りがやっているから』などと動機が曖昧なままテレワークを続けても、これまで築いてきた関係性を消費し続けることになり、組織はただの個の集団と化してしまいます。それぞれの働き方の利点と欠点を見極め、戦略的に選択することが大事なのだと思います」

テレワーク下でもチームワークが機能するコミュニケーションには、緻密な設計が問われる。その役割は、社員の働き方と企業の生産性に責任をもつ人事部門が担うのがよいだろう

Learning Design 2021年05月刊

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