J.H.倶楽部 情報・交流・相談の場を通じて、
HRMの未来をともに描く

× 閉じる

Recommended Archive過去記事ピックアップ

5月19日更新

編集部より

組織やチームの一体感が薄れている――この一年、在宅勤務が進む中でそんな不安を耳にすることが増えました。
コロナ禍以前より多様な働き方を取り入れているサイボウズでは、離職を防ぎチームワークを高めるために、働き方改革・組織風土の改革に取り組みました。チームワークについて多くの人がもっている思い込みを解しながら、サイボウズ流チームワーク術を学んでみましょう。

連載 中原淳教授の
Good Teamのつくり方 第10回 
会社の危機から生まれた
サイボウズ流チームワーク術

働き方改革の旗手として次々と先進的な制度を打ち出し、「働きがいのある会社」として知られるサイボウズ。
場所も時間も自由な働き方を選択する社員同士のチームワークを可能にしているのが、サイボウズ流のチームークメソッドです。
同社のチームワーク総研のなかむらアサミさんに話を聞きました。

中原 淳(Jun Nakahara)氏
立教大学 経営学部 教授

立教大学経営学部教授。立教大学経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。
東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、2018年より現職。
著書に『職場学習論』、『経営学習論』(共に東京大学出版会)、『研修開発入門』(ダイヤモンド社)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中央公論新社)など多数。
研究の詳細は、Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/宇佐見 利明

会社の危機を救ったチームワーク

中原:

サイボウズの企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」ですが、創業時からチームワークを重視していたのですか。

なかむら:

実はそうではありません。社内では2007年ごろからチームワークについて学び、実践し、組織改革を行ってきたのですが、これを経営理念として社外に公開したのは2015年。8年かけてようやく社内に定着したということで、公開に踏み切ったのです。

中原:

会社の大変革が行われたのですね。きっかけは何だったのですか。

なかむら:

2005年ごろ、サイボウズは危機的な状況にありました。次々と人が辞め、年間離職率が約28%。そのころ私は人事部にいたのですが、80人規模の会社なのに、ほぼ毎週どこかで送別会が開かれているような状態で……。採用もままならず大変でした。当時は現社長の青野に社長交代した直後でしたし、売り上げも横ばいで伸び悩み、度重なるM&Aの失敗で1年に二度も業績の下方修正をし、このまま離職が続けば事業の継続すら危ない状況でした。こうした危機感のなか、せめて今いる社員が辞めないようにしなければ、と始まったのが組織改革です。

中原:

大きな危機感があったわけですね。

なかむら:

当時は、ベンチャー会社だったので、深夜まで残業が当たり前という風潮でした。それを育児、介護休暇を最長6年にするなど、長く働いてもらえるよう、会社として大事にしたいものを一つひとつ具現化していきました。

そして、会社としてもっとも大事にしたいもの、理想、それが「チームワーク」でした。これは、そもそも自分たちの存在意義は何かと、問い直していった先に見つけた答えでした。ソフトウェアを提供する会社ではありますが、お客様から「サイボウズを使うようになり、仕事の効率が上がり、チームワークが良くなりました」と言われることがあり、「自分たちの提供価値はチームワークなのではないか」と気づきました。

その後は社内でチームワークについて文献を読んで考える勉強会を行ったり、自分たちで実践したりしながら、サイボウズ流のチームワーク論をつくり上げていきました。2017年にはチームワーク総研を立ち上げ、得られた知見を活かして社外向けに研修等を提供する事業を行っています。

サイボウズ流チームワーク論

中原:

サイボウズ流チームワーク論とは、どのようなものですか。

なかむら:

チームワークを機能させるためのポイント(プロセス)を①理想、②役割分担、③コミュニケーション、④情報共有、⑤モチベーションの5つにまとめています()。

まずは、チームが何を目指すのか、①理想や目標の共有です。次に②役割分担で、誰が何をやるのかを決め、その後は、③コミュニケーション④情報共有ができているか、⑤モチベーションを上げられているか。これらをチェックしていくことで、チームワーク向上につながります。

これは、『チームワークの心理学』(山口裕幸著)を参考に、サイボウズ流にまとめたものです。チームワークについて語る際は、どうしても歯が浮くような言葉を使いがちですが、そうならないよう、当時の社員たちと、現場でも使えるものとして落とし込んでいきました。

中原:

なるほど、わかりやすいです。このなかで一番大事なのは何だと思われますか。

なかむら:

我々はチームの定義を「理想、目標を共有している集団」としているので、①が一番大切だと考えます。かつ、その理想にメンバー全員が共感しているかどうかが重要です。

中原:

メンバーが共有する理想というのは、「成果」なのか「チームの状態」なのか、どちらのイメージですか。

なかむら:

これはどちらもありえますが、チームが何を大事にしたいかによって、比重が変わりますよね。チームによるアウトプットには「効果」「効率」「満足」「学習」の4つがあるとされますが、どれに重きを置くのかによって理想、目標も変わってきますし、チーム運営のやり方も変わってくるように思います。

「質問責任」と「説明責任」

中原:

私は大学で、学生たちがチームで課題解決をするプログラムを運営しています。そのなかでよく起きるのが、授業の1回目に目標を決めたものの、その後、一度も見直しをしないまま、チームの活動と目標がかけ離れていってしまうことです。

なかむら:

一度決めたことを変えない、という考え方は危険だと思っています。それはまさに石碑に刻んだ言葉のようになってしまいます。私たちは「石碑に刻むな」と言って、言葉を置き去りにしないように気をつけています。重要なのは、チーム内でみんなが共感しているかどうかということですから。みんなが「優勝は無理だ」と思っているならば、目標自体を変えるのは悪いことだとは思いません。

中原:

もう1つよくあるのが、6人のチームメンバー中、2人だけは「優勝する」という目標に共感しているけれど、4人は「今の状況では無理だろう」と思っている。けれどもそれを言い出せない、といった状況。密にコミュニケーションをとり、情報共有していればいいのだと思いますが、それができない。

なかむら:

弊社内ではあまりコミュニケーションのズレは起きません。働き方がそれぞれ違うので、不明なことは必ず言語化し、オンラインでもオフラインでもかなり頻度高くコミュニケーションをとっています。

中原:

学生たちもコミュニケーションツールはあるのですが、情報共有はできていない気がします。御社ではなぜズレが起きないのでしょうか。

なかむら:

サイボウズには、「もやもやしたことは必ず発言しなければならない」というルールがあり、これを「質問責任」と言っています。当然、「聞かれたことには必ず答えなければならない」という「説明責任」もあります。つまりサイボウズでは「わからない」ことは、「質問責任」を果たしていないということになる。このルールがあることが、いわゆる「心理的安全性」につながっているのか、新人ほど、ずけずけと何でも聞いてくるんです。

中原:

「質問責任」のおかげで、何でも言えるし、何でも聞けるから、コミュニケーションのズレが起きにくいというわけですね。

「役割分割」と「役割分担」

中原:

チーム内で役割分担をした瞬間にチーム視点がもてなくなり、与えられた役割しかやらなくなってしまう、ということがよくあります。もやもやしたりもせず、何の違和感もなく粛々と自分の仕事を全うするような状態だから、質問も出ない。こうしたことは起こりませんか。

なかむら:

あまりないですね。評価のしくみが個人評価に基づいていないというところが大きいかもしれません。チーム評価ですので、たとえ営業職であっても、個人が売り上げたからといって、その人の業績評価が上がるわけではないのです。チームの予算、目標をチームで達成する、という考え方なので、チーム視点は欠かせません。

とはいえ、役割分担をすると、ついそれだけをやる、となってしまうこともある。そんなときは「今やっていることは、理想、目標の実現にどうつながっているのか」と視点を1つ上げる機会をもつことが必要で、そんな場を用意するのはチームリーダー的存在の人の仕事なのかなと思います。

中原:

リーダー的存在の人が、他の人に任せられず、つい自分で全部やってしまう、ということも起こりがちです。

なかむら:

「自分でやった方が早い」というのは、チームにとって危ない考えだと思っています。仕事を1人で抱えこんでしまうと、チームにノウハウがたまらないし、その仕事のレベルがその人のレベル以上にならない、というところも問題です。

中原:

しかし、役割分担したものの、その役割をこなせない人がいたら、どうしても「自分でやった方が早い」となってしまいますよね。

なかむら:

サイボウズのなかでは、役割分担するときに、メンバーの得意と苦手を洗い出すようにしています。誰しも得意なもの、やりたいことの方がうまくできます。ただ、苦手なことでも、やらざるをえないときもあります。もし手に余ったら、チームメンバーに得意な人がいればその人に頼ればいいし、いなければ外部の誰を頼ればいいだろうか、というところまで考えてから役割分担するのです。

事前に「私はこの仕事、少し心配なので手伝ってもらいたいです」と苦手を共有し、「私はこの仕事は得意なので、何かできることがあったら言ってね」といった情報交換をしておくのです。そうすれば、実際にお願いするときは感謝が生まれますし、逆に自分が得意なもののときは助けてあげようと思えます。

中原:

なるほど。聞いていて思ったのは、役割“分割”と役割“分担”は違うのかもしれない、ということです。役割分割は、1つの仕事を5分割して、5分の1ずつ割り振るだけで、その後はコミュニケーションなし、という感じ。でも、役割分担というのは、「自分の分担のこの仕事、うまくできないのだけど手伝って。君の分担も手伝うから」といったコミュニケーションが含まれた、少し動的なイメージがあります。

最初の役割分担のときに、お互いに何ができるのかについてのコミュニケーションをし、その後の情報共有を欠かさないということが大切ですね。しかし、みんなが苦手な仕事が出てきた場合はどうするのですか。

なかむら:

我々がよくやるのは、「誰もやらない仕事は無くしてしまう」というものです。たとえば、名古屋支店をつくったので、誰か名古屋に行ってください、といったことはないわけです。「名古屋の実家に帰りたい」という人がいてはじめて「名古屋支店をつくろう」ということになる。

中原:

みんながやりたくないけれど必要な仕事については?

なかむら:

まずその「必要」を疑います。本当にその仕事は必要なのか。必要なら、なぜ必要なのか。そう考えていくと、誰かが「やはり必要だから、私やります」ということになってきます。だから、仕事で分担するというよりは、「やりたい、できる」で分担していく感じです。苦手なもの、やりたくないものを無理強いすることはありません。

嘘をつかない隠しごとをしない

中原:

先ほどの「質問責任」もそうですが、サイボウズには、想いをきちんと自分たち独自の言語に言語化して伝え合う、オープンな組織風土がありますよね。

なかむら:

サイボウズが大切にしているものの1つに「公明正大」があります。平たく言うと「嘘をつかない、隠しごとをしない」ということです。政治家のスキャンダルなどでもわかるとおり、嘘をつく人、隠しごとをする人に対して、人は疑い深くなり、コミュニケーションが複雑になります。ですので、嘘をつく人、隠しごとをする人はサイボウズにいらない、ということにしています。「アホはいいけど、嘘はダメ」と言っていて、つまり「寝坊して遅刻しました」というアホな行動はありなのですが、寝坊なのに「親戚に不幸があって」などと嘘をつくのはダメ、ということ。そこにはこだわっています。

そんなわけで、すべての情報はオープンで、社内に社長しか知らない情報はありません。全員のやり取りがオープンになっていて、社内のすべてのコミュニケーションが、ツイッターのタイムラインのように見え、筒抜けです。スケジュールももちろんオープン。嘘をつかない、隠しごとをしない、というのが大前提です。

流動的でありながら意味や価値でつながるチームを

中原:

御社は、在宅勤務はもちろんのこと、一人ひとり働き方を自由に選べたり、副業を認めたりと、様々な新しい制度を打ち出しています。こうした施策は「育児のため在宅ワークがしたい」「副業がしたい」といった社員の本音、つまり「嘘をつかない、隠しごとをしない」風土のなかから生まれたというわけですね。

なかむら:

そうです。働きやすくして、今いる社員にいかに長く働いてもらうか、というところから、社員の声を聞いて始まった制度ばかりです。

中原:

しかし、急に「嘘をつかない、隠しごとをしない」のがルールといわれても、最初は躊躇したのではないですか。

なかむら:

2007年当初、特にマネジャー層は、だいぶ困惑していました。毎日深夜残業、ワーク重視のベンチャー会社でしたから、「保育園のお迎えがあるので帰ります」とさっさと帰るライフ重視の部下がいると、マネジャーはその分仕事が増えて困るわけです。人事にクレームが上がるたび、「とにかく離職者を減らしたい。短期的に成果は下がってもいいから、少しでも長く働いてもらうために必要なことをしていきたい」と話しました。

中原:

当時は事業継続も危ぶまれる危機的な状況だったからですね。

なかむら:

人事の危機感を現場のマネジャーにわかってもらって、制度変更の理解を求めた、という感じです。現場のマネジャーもそれはわかってくれていましたが、最初の2年位は手探りでした。ワーク重視、成果重視でやっているマネジャーに社長自ら説明に行くこともありました。

中原:

並々ならぬ覚悟をもって、働き方改革に取り組まれた。それと同時にチームワーク向上のための取り組みも進めていらした。その成果がサイボウズ流チームワークのメソッドというわけですね。最後に、チームワークについて多くの人がもっている典型的な勘違い、思い込みのようなものがあれば教えてください。

なかむら:

最近は少し減ってきましたが、チームワーク=絆=一致団結、といった考え方は、結構根強い気がします。絆や一致団結はチームワークの結果です。チームワークが深まった結果、絆や一致団結が生まれるのであって、先にあるものではありません。みんなが知りたいのはどうやったら絆や一致団結が生まれるのか、その方法、プロセスの方であり、それが先ほどの5つのポイントです。一つひとつをプロセスで説明すれば、それほど難しいことではないのですが、何となく「絆を深めるためには飲み会をすればいい」「一致団結すれば問題が解決する」などと思っている層もいたりして、まずはその誤解を解くところから始めなくてはならないことがあります。

中原:

社会学者の見田宗介先生(ペンネーム:真木悠介)が著書『気流の鳴る音』のなかで、共同体には個(米粒)が溶け合って一体化している「モチ型」と、固まってはいるけど、個々(米粒)の存在は残っている「オニギリ型」があると語っていたのを思い出しました。日本ではチームを「モチ」のようにとらえている人が少なくないのかもしれません。最近では、みんなバラバラでまとまらないチャーハンとか、どろどろに溶けて形にならないおかゆとか……。いろいろありそうですけどね(笑)。

なかむら:

これまでのチームワークに対するイメージは、同質的で、ルールで固まっていて、仲間意識が強いといったものでした。今はむしろ、多様な人たちがいて、自由度も高くて、仲間意識はあるけど異質な人も受け入れるといった、流動的でありながら、意味や価値でつながっているチームが求められている気がします。

中原:

同感です。そうしたチームがワークするための考え方が、もっともっと広まっていってほしいですね。

Team Upの秘密組織にフィットする持論で語れ

この取材でもっとも印象的だったのは、サイボウズの皆さまが、自分たちの「チームでの仕事のあり方」を折に触れて振り返り、それらを「自分たち独自の言葉」として結晶化」させ、日々、利用している様子です。たとえば、組織やチームが常に変化のなかにあることを理念として表現した「石碑に刻むな」。メンバー一人ひとりが「もやもやしたことは必ず発言しなければならない」とする「質問責任」。サイボウズ社内においては、チームワークに関して、非常に印象的な言葉が並び、流通しています。

これらの人目をひく言葉は、チームワークに関する「組織の持論」としても考えられます。そして、これらの持論が、なぜ、どのように形成されるのかを妄想するとき、サイボウズさんが「組織ぐるみ」で「経験学習のサイクル」を回している様子が想像でき、非常に印象深いことでした。

私たちは、書店に出向けば、多くの「チームワーク」にまつわる一般書を見つけることができます。しかし、そこに書いてある理論は、自分たちの組織の文脈に完璧にフィットするわけではない、いわゆる「一般論」です。一般論は、自社の特殊性を明らかにしてくれるという意味において、無駄ではありませんが、「自社のメンバーに刺さる言葉」として組織内で流行するパワーをもち得ないことも、また否めぬ事実です。

これからの組織は、自社で発揮され、駆動する「チームワーク」に関して、「経験学習」を重ね、「組織ぐるみの持論(チームワークにまつわる言葉)」をもつべきなのではないだろうか・・・・・・。そんな未来の方向性を垣間見た取材でした。

Learning Design 2020年01月刊