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特集│CASE 3 ZVC JAPAN
「何でもオンラインに移行」は
間違い Zoomに学ぶ
オンラインコミュニケーション
活用術

テレワーク推進とともにビデオ会議ツールの利用が広がっている。利便性が高まる一方で、対面時では起きなかったコミュニケーション上の新たな課題が発生しているという指摘もある。
ビデオ会議ツールの浸透で、コミュニケーションはどのように変わったのか。
Zoom を提供する、ZVC JAPAN カントリーゼネラルマネージャー(日本法人代表)の佐賀文宣氏に、社内で実践しているオンラインコミュニケーションの工夫、今後目指すコミュニケーションの在り方について話を伺った。

佐賀文宣氏 ZVC JAPAN カントリーゼネラルマネージャー

ZVC JAPAN 株式会社(Zoom)
2011年創設のZoom Video Communications, Inc.の日本法人。
ビジョンに「Video communicationsempowering people to accomplish more」を掲げ、チームをまとめ、より効率的な作業とストレスフリーなコミュニケーションを可能にする安全なビデオ会議ツールを提供している。
アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼを本拠地とし、世界中にオフィスを展開。
資本金:未公開
従業員数:約90名(2021年4月現在)

[取材・文]=村上 敬 [写真]=ZVC JAPAN提供

20年の緊急事態宣言以降、“Zoom飲み”という言葉が登場したほど、一般に広く使わるようになったビデオ会議ツールのZoom。収益の中心は法人利用で、昨年は日本でのビジネスプラン以上のライセンス利用社数が2,500社から2万社以上に増え、売り上げは10倍になった。この急拡大を、Zoom 日本法人代表である佐賀文宣氏はどのようにとらえているのだろうか。

「コロナの前まで、私たちはZoomを組織内コミュニケーションのツールとして提案していました。しかし、コロナ以降は学校の授業に使われたり、里帰りできない人が親戚と話すために使われるなど、ビジネス以外に利用が拡大しました。さらにビジネスでも、社内だけでなく、取引先や消費者とのコミュケーションに使われるケースが増え、オンラインコミュニケーションが組織から外へ広がった1年だと認識しています」(佐賀氏、以下同)

対象が拡大しただけではない。佐賀氏は、「使い方にも変化が見られる」と指摘する。

「日本だと、1年前は音声だけでやり取りする方が多かった。最初の挨拶ぐらいは顔を見せるのですが、あとはビデオ機能をオフにして、資料を映しながら会議をするのです。しかし、いまは通信環境に問題がない限り、顔見せが当たり前になりつつあるようです」

日本人がビデオ機能をオフにしていたのは、恥ずかしがり屋な国民性のせいだけではない。国土が広くて出張が容易ではないアメリカでは、コロナ前からテレカン(電話会議)が広く普及しており、その延長上にあるビデオ会議に対しても抵抗感は少なかった。一方、日本は対面中心で、テレカンが普及していなかった。それゆえビデオ会議は心理的なハードルが高く、当初は顔見せも嫌がったと考えられる。

では、なぜビデオ機能オンが一般的になりつつあるのか。

「表情が見えている方が、音声だけより相手の反応を確認しやすく、それに応じて話し方を変えられます。状況に適した会話をしやすくなるという意味で、コミュニケーションの質は上がっている。ユーザーもそのことに気づいて、顔を出し始めたのでしょう」

コミュニケーションの“3つの壁”を突破する

Zoom は「Video communicationsempowering people to accomplishmore」というビジョンを掲げている。人々が何か目的を達成しようとするとき、より多くを達成できるようにビデオ会議ツールで支援する、という意味だ。

佐賀氏によると、「Zoom はコミュニケーションの3つの壁を乗り越える」という。まずは「地域の壁」だ。テレワーク環境が整っているように見えても、オフィスに出勤する人と在宅勤務者で情報に格差が生まれることがある。東京本社と地方の事業所、日本と海外も同様だ。そうした地理的要因によって生じる格差はオンラインコミュニケーションで解消できる。

2つめは「時間の壁」。育児や介護などで働き方に制限がある人は、それが原因でキャリアをあきらめるなど不利益を被るケースがある。しかし、オンラインコミュニケーションを活用すれば時間の柔軟性が増し、不利益を減らせる。

そして最後は「言葉の壁」。Zoomには同時通訳者をチャネルに割り当て、10% がスピーカーである本人、90%が同時通訳者というバランスで音量調整する機能がある。こうした機能を使うと、他言語話者とのコミュニケーションもスムーズに行える。

ただ、これらの壁を乗り越えさえすれば、理想のコミュニケーションが実現するわけではない。意外なことに、佐賀氏は「対面での豊かなコミュニケーションに勝るものはない」と言う。

「コミュニケーションは、単につながればいいというものではありません。相手を理解するには豊かなコミュニケーションが必要で、それには対面の方が有利です。何でもオンラインに移行すればいいという発想は間違いです。オンラインで良いものはオンラインに置き換え、それによって生まれた時間を、本当に会いたい相手と直接会うことに充てることで、前向きで明るい社会になるのではないでしょうか」

心の安全性を保障する「不参加自由、失言自由」

Zoom社内でも、対面をもっとも豊かなコミュニケーションとして位置づけていた。しかし、いまは対面が容易に許されない状況だ。Zoomもコロナ前は在宅勤務の割合が10%だったが、20年3月からは社外の商談以外、ほぼ100%在宅勤務に移行。リアルオフィスとして契約していた場所も解約した。そうした状況で、どのようなコミュニケーションをとれば組織が活性化するのか。Zoom自身の取り組みを聞いてみよう。

まず特徴的なのは、1on 1ミーティングの多さだろう。オフィスで集まって仕事をしているときは、メンバーの顔色など、ノンバーバル(非言語)の情報を把握しやすかった。オンラインではそのハードルが上がるが、1on 1を多用することで補っている。

「定例の1on 1は2週間に1回セットしています。その他、必要だと思えば数分程度の短いミーティングなども臨機応変に実施しています。1on 1でも、電話ではなくZoom で顔を出して行うのが原則。1日に10回程度はコミュニケーションをとっています。

去年のいまごろは社員数が35人程度(日本法人内)だったので、私も全員と1on 1を行っていましたが、社員が80人以上となり、さすがに難しくなりました。いまは直接のレポートラインである10人を対象にして、その10人がまた同じように現場と1on 1を実施しています」

他にも参考になりそうなのが週1回の全体会議だ。毎週月曜日の朝10時から1時間、まず佐賀氏が連絡事項を話して、その後に各部門のリーダーが最新の状況を全体に伝える。一見よくある全体会議に見えるが、ユニークなのは参加自由、遅刻自由であることだ。

「休み明けは気持ちの立ち上がりに時間がかかりますよね。もし週の頭からキチッと会議をやると、日曜の夜から憂鬱になって、十分休めないでしょう。週の初めの会議は、プレッシャーがかからない形でやりたい。具体的には、遅刻して入ってきてもいいし、不参加で後から録画を見てもいい。そうやって助走の時間をつくった方が、会議後のパフォーマンスは上がります」

全体会議に参加するのはいつも社員80人中70人前後。10人ほどが後から録画で確認するが、それによって評価が下がることはない。

全体会議でもう1つ注目したいのは、失言自由であることだろう。佐賀氏と各部門のリーダーからの連絡後は、残り時間に合わせて1人5分程度の近況報告タイムがある。仕事はもちろん、その週末に体験したプライベートな話をしてもいい。内容に制限はなく、失言も許される。

自由に話していいと言われると、かえって戸惑う社員もいるだろう。そこで佐賀氏が意識しているのが、うなずくことだ。

「オンラインコミュニケーションで相手がただじっと聞いているだけだと、スピーカーは本当に伝わっているかどうか不安になります。だから積極的にうなずいて、きちんと聞こえているというサインを出すのです。内容に同意していようがいまいが関係ない。明るく話しやすい雰囲気をつくるためのテクニックです」

会議に不参加でも不利益な評価をしない、参加者同士が聞いているサインを出すという環境があると、社員は心理的安全性を感じて参加や発言への抵抗感が薄れていく。テレワーク中のコミュニケーションを促したいマネジメント層にとっては、大いに参考になる運用方法だ。

ちなみにオンラインコミュニケーションが定着した同社では、社外とのコミュニケーションでも興味深い使い方をしている。営業先で顧客にデモを見せるとき、社員がデモ画面に入って手を振る「ハッピーデモ」だ()。

「全員で手を振ると、私たちのウェルカムな気持ちが伝わりますし、80人近くが参加しても途切れない性能もアピールできる。時間は1分程度ですが、社員はデモのたびに仕事を中断して参加してくれます。これもオンラインコミュニケーションが浸透しているからできることです」

コミュニケーションをよりフラットに

オンラインコミュニケーションの質を高めるには、ツールそのものの進化も欠かせない。拍手などのリアクション機能を充実させたり、フィルタの適用で肌補正や照度調整ができる機能など、次々に新機能を追加している。

なかでも昨年、話題になったのが、スピーカーの位置を固定するピン留め機能だ。日本企業の対面会議では上座下座のマナーが存在するが、この機能を使えばオンライン上でもそれを再現できる。ただ、佐賀氏は、「面白い使い方ですが、本来の目的は違う」と語る。

「Zoom では、1つのミーティングに大変多数のユーザーに参加いただくことが可能です。1つの画面で同時にご覧いただけるのは最大で49名までですが、ミーティングに多数ご参加いただいた場合、特定の参加者を探すときに、複数のページを閲覧する必要があります。ピン留め機能により、あらかじめ会議の進行役や発表者、手話通訳者などを特定の位置に固定配置しておくことができます」

そもそもビデオ会議の特徴の1つは、上下の区別がないフラットなコミュニケーションだ。日本企業の流儀をそのままリモートに置き換えるのは、フラット化の動きに逆行しているように見える。むしろビデオ会議ツール導入を機に、従来の社内コミュニケーションに無駄な慣習がなかったかを見直した方がいいのかもしれない。

他にも対面会議にリモート参加者が混じることで生じる参加者間の優位性や情報格差を画面上の表示方法で解消するなど、コロナ後のハイブリッド環境を見据えた開発も進めている。また、開発や活用方法の提案によって、オフィスワーカーだけでなく、医療や物流など現場のエッセンシャルワーカーの働き方改善にも貢献していきたいという。

ビデオ会議ツールを提供するZoom 社では、オンラインコミュニケーションの特性をよく理解したうえで、1on 1や心理的安全性を担保するルールを取り入れるなどの工夫が見られた。組織内のコミュニケーションを活性化するには、ツール以外のものが必要であることを、同社の工夫が教えてくれる。

Learning Design 2021年05月刊

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