過去の「J.H.倶楽部会員」限定セミナーのレポートです。

J.H.倶楽部 オープニングセミナー
「人生100年時代の『個人』と『組織』を考える」

2018/09/12 ベルサール東京日本橋

2018年9月12日(木)、都内にて「J.H.倶楽部オープニングセミナー」を開催しました。第1部では、経済産業省経済産業政策局産業人材政策室の川浦恵氏が、「人生100年時代」を見据えての教育の方向性や政府の取り組み、また再定義された「新・社会人基礎力」を紹介。
第2部では、弊社JMAMが毎年実施している「イマドキの若手社員に対する意識調査」のポイントを紹介しながら、若手社員が育つ環境づくりについての報告と、参加者同士の意見交換を行いました。下記より当日の映像と資料、記事(ダイジェスト)がご覧いただけます。

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セミナー当日のレジュメをダウンロード頂けます。

第1部 「人生100年時代の社会人基礎力」について 川浦 恵 氏
経済産業省 経済産業政策局 産業人材政策室 室長補佐

第2部 デジタルネイティブ世代が「学び」「活躍する」ために必要なこと 斎木 輝之
株式会社日本能率協会マネジメントセンター
カスタマーリレーション部 部長

ダイジェストレポート 第1部「人生100年時代の社会人基礎力」について

1.いま社会で起こっている変化

1)2つの変化と日本型就労環境の問題点

『ライフ・シフト』の著者、リンダ・グラットン教授はこう言っています。「2007年以降に生まれた子どもの半数以上は、107歳まで生きる」。平均寿命が延び、「人生100年時代」を迎えようとしているということです。日本の場合、2065年には高齢化がさらに進み、生産年齢人口が現在の半分程度になるといわれています。

一方で、第4次産業革命の波が押し寄せてきています。IoT、ビッグデータ等の進展によって、職場でもAIやロボットの導入が進み、人が行ってきた仕事がとって代わられようとしています。この2つの変化は、日本型の就労環境にどのような影響をもたらすのでしょうか。

旧来の就労環境について整理すると、欧米と比べて職務が不明確で、これが長時間労働の原因となっています。2つめに、新卒一括採用・年功序列・終身雇用という日本型雇用システムの変化が挙げられます。今日では、ずっと同じ会社で長く働くのではなく、転職してキャリアアップを図ろうという意識が働く人の間で強くなっています。3つめがOJT依存です。ビジネス環境の変化の激しい今日は、身につけたスキルがすぐに陳腐化します。もちろんOJTは大切ですが、一人ひとりのキャリアに合わせた効率的な育成施策を考えないと、個人の企業へのエンゲージメントやモチベーションの低下につながり、業績の悪化を招いてしまうでしょう。

2)「AIを活用できる」人材が求められる

AIの進展の影響も無視できません。オックスフォード大学のオズボーン教授他の研究では、「米国の仕事の約47%がAIにとって代わられる可能性が高い」としています。ただ今後は、「AI」vs「人間」という対立構造ではなく、「AIを活用できる人材」vs「AIを活用できない人材」という対立構造になると考えるべきでしょう。

2.政府の検討状況

1)「働き方改革」から「人生100年時代構想」へ

こうした背景を踏まえ、政府で検討していることをご紹介します。「働き方改革」に関する議論の経緯をみると、2015年の「一億総活躍プラン」にさかのぼります(図1)。ここでの議論の中心は、女性の社会進出が進むなかでの保育や介護の問題でした。その後2016年秋からは、「働き方改革実行計画」を検討しました。ここでは、男女問わず長時間労働の是正や働き方そのものを見直すということで、長時間労働の是正と同一労働同一賃金(格差是正)が議論の中心でした。しかし企業としては、ただ単に労働時間を削減するだけではなく、生産性を向上させて企業の成長につなげる必要があります。そのためには、社員一人ひとりが豊かな人生を生きるために、何をどのように学び、キャリアを積み重ねていくべきかということを考える必要がある。そこで、2017年9月に発足したのが「人生100年時代構想会議」です。 図1 「働き方改革」から「人生100年時代構想」へ 図1 「働き方改革」から「人生100年時代構想」へ

2)「働き方改革」第2章は、生産性とエンゲージメント

「働き方改革」は、第1章と第2章に分かれています。当初は長時間労働への規制強化が中心でしたが、それだけではボーリングのファーストピンを倒すことにしかなりません。そのため第2章として、「生産性とエンゲージメントの向上へ」と、議論の中心がシフトしていきました。

その中でのポイントは、まず、「年功序列で評価するのではなく、成果できちんと評価をする」ということ。そして2つは、「働く場所や形態の変化」です。今までは会社に出勤して仕事をするというスタイルが一般的でした。しかし、そういった働き方ではなく、一人ひとりのライフスタイルや仕事内容に応じて、フリーランス、テレワークや、兼業・副業の容認といった様々な働くスタイルを提供する必要があります。

そして、3つめのポイントとして、「人材投資」です。自由な働き方ができ、働く場所や時間の制約がなくなるということは、それだけ個人の責任が重くなるということです。これは、自身の成長やキャリア形成について、個々人がより主体的に考えていく必要があるということです。

3)学び直しの重要性

昨年度の「人生100年時代構想会議」においては、有識者の方々と共に、大学改革、リカレント教育、企業の人材採用など多元化な検討をしていますが、ここでは大人の学び直しの必要性が強調されています。2018年6月の「未来投資戦略2018」においても「学び直しの時間も含めた『人生の再設計』を可能としていく」とされ、年齢、就業年数、役職等の節目ごとの学び直しの重要性に着目しながら、国としても、その環境整備に努める必要があると考えています。すなわち、一度就職した後であっても、ライフステージに応じた学び直しをしながらキャリアアップをすることの重要性を国も認識して、施策を打ち出そうとしています。

4)企業が個人の学びを適切に支援する

「働き方改革」により長時間労働が是正され、自由に使える時間が増えれば、学びの機会は増えると考えられますが、それを実際に学びにどう生かすか、が問われています。

キャリアオーナーシップを持つ個人は、積極的に学んで自分自身の「持ち札」を増やすことでキャリアを切り開いていく。一方で企業や組織は、効果的な人材確保を通じて多様な人材が活躍するプラットフォームになることではじめて成長し続けることが可能になっていきます。そして、個人の成長と企業の成長のベクトルを合わせることで生産性の向上が実現する――これこそが「働き方改革」で求められていることです。

つまり、一人ひとりが主体的に学ばなくてはいけない。企業も、その学びを支える環境を提供していかなければならないということになります。

3.「一億総学び時代」に向けた経済産業省の取組

1)課題解決のための3つの施策を推進

経済産業省では、大学生や新卒など若者に向けて、「エンプロイアビリティの向上」「若者と企業のミスマッチ解消」「学習の動機づけによる学力向上」という3つの課題を解決するための施策を打ち出しています。

その1つめが、「新・社会人基礎力育成事業」です。「社会人基礎力グランプリ」は、社会で活躍できる人材に必要なコンピテンシーにあたるものを、大学側できちんと整備してプログラム化している取り組みを顕彰するイベントです。

2つめは、産学協働による「キャリア教育の推進」です。これは教育機関のみならず、地域一体となってキャリア教育に取り組んでいる企業・経済団体の教育支援を表彰する制度です。文部科学省と経済産業省連名表彰の「キャリア教育推進連携表彰」、経産大臣表彰の「キャリア教育アワード」があります。

そして3つめが、「インターンシップの促進」です。文部科学省・厚生労働省と連携して企業側へ提唱しているのは、「インターンシップは選考の一環ではなく、キャリア教育の一環として取り組んでほしい」ということです。採用活動の一環として業務説明をするだけではなく、学生が就職前の段階で自らのキャリアを考える機会、職業観の醸成に寄与するものとして、インターンシップを活用できるように、企業も取り組んでほしいということです。

4.今、社会で求められている能力

1)身につけるべき能力をアプリとOSに分けて考える

それでは、今、社会で求められている能力とは、どういったものなのでしょうか。図2上段のオレンジ部分が「社内スキル」「専門スキル」です。青い部分が「社会人基礎力」「キャリア意識」「マインド」です。コンピューターに例えるなら、オレンジ部分(専門・社内スキル)はアプリ、青い部分のキャリア意識・マインドがOSにあたるものと捉えられます。

アプリにあたるものは、入社後においても身につけられるものです。これに対して、どの企業に勤めようとも社会人として必要なものがOSであるという捉え方です。アプリもOSも一度身につけたら終わりではなく、時代の変化に合わせてアップデートしていく必要があるでしょう。 図2 「人生100年時代」求められるスキル 図2 「人生100年時代」求められるスキル

2)新・社会人基礎力に加わった3つの視点

そして「人生100年時代の社会人基礎力」つまり「新・社会人基礎力」についてです。その前身である「社会人基礎力」は、2006年に経済産業省が提唱したものです。このときに定められた「社会人基礎力」の「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」という3つの能力については、「新・社会人基礎力」にも引き継がれています。

この3つの能力はどれも重要なものですが、そもそも自分の強みや弱みは何なのか、弱みを克服するためには何を学ばなくてはいけないのか、どんなキャリアを積んでいきたいのか。そういったことをきっちり考え抜く力が大切だということです。また、いまはオンラインで海外の大学の授業を受ける、eラーニングで学ぶ、SNSを活用して学ぶなど、多様な学び方があります。こうした学ぶツールや機会がたくさんある中でどれを選択するのか。そして、学ぶだけで満足するのではなく、自分のキャリアにどう還元するのかという汎用性についても、きちんと考える必要があります。

「そこで、昨年度に提唱したのが「新・社会人基礎力」です。リフレクション(振り返り)の観点から、「どう活躍するか(目的)」「どのように学ぶか(統合)」「何を学ぶか(学び)」という3つの視点が加わりましたが(図3) 図3 「人生100年時代の社会人基礎力」とは 図3 「人生100年時代の社会人基礎力」とは

3)リフレクションの重要性

1つの仕事やプロジェクトを終えた段階で、あるいは入社して3年、6年、10年というような節目ごとに、あのとき自分はなぜああいった行動をしたのか、なぜ成功できたのか、あるいはできなかったのか。想定していたキャリアは築けているのか、いないのか。そういうことを振り返るのが、リフレクションです。

リフレクションは、自分を客観視するメタ認知にもつながります。そうした自己認識する知識・スキルが高い人は、学習意欲も仕事の満足度も高いというデータもあります。これは、仕事をするにも嫌々と受け身の姿勢で取り組むのではなく、自分の強みを生かして仕事をしているんだ、この弱みを克服するために学んでいるんだ、といった気づきや動機づけを自分自身で得られるため、仕事満足度も上がるということです。

5.現在の若者の意識・能力や就職状況

1)学生と企業の意識のズレ

平成21年に経済産業省が行った調査では、学生と企業の間に大きな意識のズレがあることが分かりました。学生に対して「自分に不足している能力は何か」、企業に対しても「学生に不足している能力は何か」と質問したところ、学生の多くが「ビジネスマナーや語学力などが不足しているので身につけなくてはならない」と回答していますが、一方で企業側は「入社時点ではそこまで求めていない」と回答している。そうしたギャップが見られました(図4)

つまり学生は、アプリのほうを身につけなくてはならないと考えがちですなのですが、企業が求めていることは、まずはOSの部分であるということを、しっかりと伝えなくてはならないと思います。 図4 学生と企業の意識のズレ 図4 学生と企業の意識のズレ

2)Work for lifeから、Work as lifeへ

多くの学生が、ブラック企業などの影響で、働くことに対しネガティブなイメージを持っています。各種調査からも、「収入を得るためには働かざるを得ない」というような「Work for life」と捉えている回答が目立ち、働くこと自体が強制的で苦しいものと思われています。個々人の価値観や捉え方は自由で、否定されるべきものではありませんが、人生100年時代にあっては「Work as life」、つまり長い人生を生きていくうえでの自分のキャリア形成の手段の1つに仕事があるという認識を持ってほしいのです。

6.まとめ すごろくからポケモンGOへ

人生100年時代、AIの進展によって、「働く」という概念が変わります。どう変わるのか。私たちは、働き方は、「キャリアラダー=人生すごろく」から、「GPS=ポケモンGO」へ変わると考えます。

1つの会社に入社したらレールや梯子が敷かれていて、その上を歩む。3年や5年で異動しながら、人事が示してくれた職場で頑張る。そして、定年まで働いて定年後は余生を楽しめばいい――。こういった働き方から、ポケモンGOのように、GPSで自分の立ち位置を確認し、自分ならではの武器やアイテムを熟知したうえで、自らの進むべき道を探す。そして、お目当てのモンスターの獲得を積み重ねる――。そんな働き方や生き方が求められているということです。

先述の著書『ライフ・シフト』では、いま求められる能力の一つは「変身資産」だと言っています。自分の強み・弱み、伸ばさなければいけないことは何かを把握する。そして、それをどう仕事に生かしていくのか。こうしたことを、きちんとリフレクションをしたうえで自分のキャリアを考える必要があるということです。ただし、個人一人で自分自身を振り返るということには限界もあるため、様々なネットワークを使って自分自身の能力を社内外に発信して気づきを得る機会も必要になります。また、今の世の中ではスキルの賞味期限が短いといわれていることから、新しい経験に開かれた姿勢を持つことも重要だと語っています。

もう一つ、アメリカの経営者でデザイン会社IDEOの創設者として知られるトム・ケリーによると、イノベーションを起こすためには「花粉の運び手人材」がカギになると言っています。これは、ひとつの組織にずっととどまるのではなく、外の世界に出かけていって異なる分野の要素を掴み取る。そのうえで自分の能力と合わせて、きちんと企業に還元する。そういった人材も重要だということです。

以上、駆け足にはなりますが、政府、経産省としましても、産業人材の育成にあたり今後とも企業や教育機関の皆さまと連携させていただきながら取組を推進していきますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。ご清聴ありがとうございました。

ダイジェストレポート

1.「イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査2018」について

1)新入社員と上司・先輩を対象に調査

本日は、このたび弊社で実施した「イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査2018」をベースに話を進めていきます。この意識調査は、新入社員(入社2年目の6月まで)319名と、本年新入社員の育成に携わっている上司・先輩516名を対象としたものです。新入社員については、働くことへの意識や上司・先輩との関わりなどについてお聞きし、それに対して上司・先輩が抱く期待や課題を重ねています。

また、昨年からは働き方改革に合わせて、「働く価値観」に関してのテーマを追加し、本年は第1部で川浦様からお話のあった「新・社会人基礎力」も踏まえ、働く意欲や姿勢についても拡充しました。 図1 調査概要と回答者の属性 図1 調査概要と回答者の属性

2)人事担当者の「悩み」の傾向

図2は、弊社が行っている若年次セミナーへの参加動機です。これを見ると、「育成方法・仕組みづくりの情報共有」「若者の価値観・意識の把握」「教育体系見直しの参考」がトップスリーとなっています。若手教育の困りごととして、人事による導入研修やフォロー研修まではできても、配属後の現場教育の仕組みまでつながらないという点で悩まれているようです。また、いまの若者の価値観や意識の変化にどう対応するべきか。また、何にこだわっているのか、どうすればモベーションが上がるのか。そんなところを理解し、長期的に教育を見直したいというニーズも高いのではないかと思います。 図2 若年次セミナー(2017年)参加動機(複数回答) 図2 若年次セミナー(2017年)参加動機(複数回答)

3)新入社員と上司・先輩とのギャップ

図3は、仕事の基本要素の期待と課題についての新入社員の回答です。左側は、新入社員が期待されていると思うこと、右側が上司・先輩が新入社員に対して期待していることで、そのマッチングを見ています。よく言われるマナー、体調管理、5S、態度など社会人基礎力に関する項目が半分くらいありますが、順位は違えども期待していること・されていることについて、新入社員と上司・先輩との間にギャップはほとんどないということが分かります。 図3 「仕事の基本要素」の期待と課題① 図3 「仕事の基本要素」の期待と課題①

図4は、新入社員、上司・先輩それぞれ「期待されているもの/しているものの中で、できていないこと」です。これを見ると双方にギャップが生じていることがわかります。新入社員は、ベーシックなところは、期待されていると知っていて、なおかつ「できている」と自己評価している。しかし、現場は、まだまだできていないと考えていることが分かります。 図4 「仕事の基本要素」の期待と課題② 図4 「仕事の基本要素」の期待と課題②

2.個人と組織の関係性の変化

1)個人と組織の関係性の未来予測

では、本日の講演の3つのテーマの1つめとして、「個人と組織の関係性の変化」というテーマで話を進めます。

まず、「組織」と「個人」の関係が大きく変化していることが前提となります(図5)。「就社」という言葉もありますが、これまでは個人の意欲・能力と、雇用や賃金を守るということを含めた企業の人材戦略は合致していました。つまり個人が会社で学び成長していくことによって会社も組織も大きくなっていくという構図です。

それが今日に至るまでに、ITの進化とともに、仕事が高度化・複雑化し、さらに低成長の時代を迎えリストラも一般化しました。2000年前半頃、いわゆる就職氷河期の頃は「エンプロイアビリティ」が声高に叫ばれ、いかに自分の人生を自分で切り開くかということを皆、意識していたように思います。そうしたなかで、個人の意欲・能力と会社の人材戦略がアンマッチな状態が生み出されていくのです。 図5 「組織」と「個人」の関係変化① 図5 「組織」と「個人」の関係変化①

こうした時代を迎えての人材と企業のあり方をイメージしたのが、図6です。個人の意欲・能力と人材戦略が合致しているときは会社のビジョンを共有して働けたのですが、これからはネットワークモデルやタスク重視の仕事が増えてくると予想されます。その中では、個人の動きはもっとプロジェクティブになりますから、マネジメント+プロジェクトマネジメントというような発想で仕事をしていくことが求められるようになるでしょう。 図6 「組織」と「個人」の関係変化② 図6 「組織」と「個人」の関係変化②

また、教育という視点からすると、個人の成長や人事による支援の仕方はより科学的になっていくと考えられます(図7)。これまでは、集団・一律的な役割変更時の階層別教育や教える・教わる現場のOJTでもある程度の成長は見込めました。しかし今後は、一人ひとりにもっと目を向けなければならなくなっていきます。つまり各人の成長に寄り添い、マイクロラーニングのように必要なテーマを必要なときに必要なだけ提供する、あるいは学び合い、成長を可視化していくような科学的アプローチも求められるでしょう。 図7 未来予測に基づく変革キーワード 図7 未来予測に基づく変革キーワード

3.新人・若手の「意識」と「行動」の変化

1)デジタルネイティブ時代の特徴

次に、新人・若手の意識と行動の変化についてみて行きましょう。2018年に大卒で入社した新入社員は、大半が1995年生まれということになります。1995年の流行語に「ベル友」がありました。つまり、ポケベルが流行っていた時代です。この頃から、ITと彼らの成長は切り離せなくなってきます。2008年、彼らが13歳の頃に、日本でiPhoneが発売され、スマートフォンが主流の時代を迎えますし、携帯電話のオーナーの半数以上がスマホになったという「スマホ元年」と呼ばれているのが2012年、彼らが高校生の頃。彼らが最初に手にした携帯電話がスマホの可能性も十分あります。インターネットやSNSを通じて世界中の人たちとつながることができるのが当たり前の時代です。まさに「デジタルネイティブ世代」といえます。

そして、彼らが本格的に就職のことを考え始める20歳の頃、2016年頃になると、政府が「働き方改革」というメッセージを打ち出すようになります。ブラック企業という言葉も普及し、社会が変わろうとしているなかで、自分の働き方を模索している。そんな時代を生きてきた人たちともいえます。

2)6つの傾向

今回の調査では、「イマドキ新人」の傾向を6つ挙げています(図8)。まずは、心地よい仕事環境で働きたい。オフィス立地などの要素とともに、人間関係が悪くないかとか、ノルマが厳しくないとか、そんなことも含めた「仕事環境」が、働くということにあたって重要なファクターにされているのです。これは、ここ数年調査をしてみて彼らの大きな特徴の1つです。

2つめの「褒めてもらいたい」という承認欲求は、毎年高い回答割合になっています。ただし、みんなの前ではあまり褒められたくないようです。ここが難しいところで、なるべく目立ちたくない、褒められたいけれども、あまり大々的にやってほしくない。そんな価値観が特徴的です。

3つめは「納得できるように論理的に話してほしい」。自分の成長は上司次第であるという考え方も3年連続して60%を超えています。上司に指導をされたり、教えてもらったりするのが当然であり、無駄なく論理的に、何をすれば最短でゴールまでたどり着けるのかを教えてほしい――そんな期待をしているという面で、上司・先輩に対してはすごく厳しい人たちです。

4つめは、「報告・連絡・相談はメールで済ませたい」。半数がそう考えています。一部、先輩も忙しそうなので声をかけづらい、あるいは記録が残るからいいではないかといった合理的な意見もありますが、デジタルネイティブならではのコミュニケーションの特徴でしょうか。

5つめは、「失敗経験を通じた学びは効果的だと実感しているが、大きな仕事は任されたくない」。この回答も6割を超えています。失敗に対する恐れが強く、アウトプットに対して非常に高い意識を持っている。壁を乗り越えることが成長につながるということを分かっていながら、それができないというジレンマを感じているという現状も見てとれます。

6つめは「自分に自信がない・満足していない」。自己肯定感というところは他の世代と比べて圧倒的に低いということです。 図8 「イマドキ新人」6つの傾向 図8 「イマドキ新人」6つの傾向

2)目立つ「二極化」

以上、6つの傾向を挙げさせていただきましたが、これとは別に大きな特徴があると考えています。それは「二極化」です。例えば、学生時代の経験というところでは、「自ら立候補してリーダーを務めてきた」という人と「リーダーとしての経験はない」という人たちが半々。指示が曖昧でもとりあえずやるというタイプと、その仕事に取り組むかしばらく考えるというタイプが半々。責任ある仕事を任されたいと思っている人と失敗したくないと思っている人が半々など、多岐に渡ったテーマが二極化しています(図9・10・11)。 図9 イマドキの新人・若手「二極化」の実態① 図9 イマドキの新人・若手「二極化」の実態① 図10 イマドキの新人・若手「二極化」の実態② 図10 イマドキの新人・若手「二極化」の実態② 図11 イマドキの新人・若手「二極化」の実態③ 図11 イマドキの新人・若手「二極化」の実態③

4.デジタルネイティブ世代の「伸び方」「活かし方」

1)4つのプレイヤーの役割と責任を明確に

以上を踏まえて、デジタルネイティブ世代の伸び方と活かし方を考えてみたいと思います。キーワードは、成長の機会を用意するだけでなく、成長の機会を自ら創り出すこと、つまり「人が育つ」職場づくりです。私たちが考える「人が育つ職場」とは、新入社員、OJTトレーナー、管理職、そして人事の教育担当者という4つのプレイヤーの役割のバランスがうまくとれているところです。

新入社員の意識や行動を変えていく、つまり伸びしろを上げていく責任は管理職にありますし、そのステップを上っていくための指導責任はOJTトレーナーに求められます。また、トレーナーの指導に対して、新入社員が意識を持ってしっかり行動するように調整を行うのが人事の皆さんの役割だと思います。それぞれの立場で、彼ら自身がどれだけ成長したいと思えるかという動機づけをすることが大事になってくると思います。

2)「学び方」と「学ばせ方」を考える

若者を成長させていくためには、「学び方」と「学ばせ方」が重要になってきます(図12)。まず、学び方では、「楽しさ」と「安心感」がキーワードになります。ここでは、新入社員が「成長したい」と思える体験を提供することが大事です。彼らが納得して「面白い」とか「これをやったほうがいい」と思わせる仕掛けづくりが必要ということです。安心できる環境のなかで、皆でやりつつも個人が主体性を発揮できるような仕組みづくりも望まれます。また、「成長」の言語化・可視化も大切です。デジタルネイティブ世代であっても、意図的に振り返るときは、書いて可視化するということもキーワードになると思います。

一方、学ばせ方では、「対話」と「フィードバック」がキーワードで、そこでは体験の提供と対話が必要になります。ある大学教授は、「良質な経験学習のためには、異質な体験の繰り返しが必要である」と言っています。要は、同じ仕事をずっとやっていても良質な経験学習にはならないということです。全然違う仕事をしてみる、ちょっとポジションを変えてみる、周りを巻き込んでみる。そういう経験を意図的に設定していくことも人事や現場に期待されることといえます。 図12 若者を成長させる「学び方」と「学ばせ方」 図12 若者を成長させる「学び方」と「学ばせ方」

これをサイクルにしたものが図13です。新入社員に限らず、人が成長するためのサイクルです。自分なりの目的や目標を決めて実践的な経験を積む。ただし、振り返りはしっかりと個人で行い、周囲がしっかりとサポートするというイメージです。 図13 具体的な成長プロセス 図13 具体的な成長プロセス

3)中間ゴールを設定し、段階的な成長を

若手の成長についてまとめると、小刻みな経験や体験を積みながら段階的に成長していくということがポイントになります(図14)。ただし、上司の期待するゴールと本人が認識しているゴールにギャップが生じている場合、これを無理して埋めようとしてはいけません。ギャップが大きい場合、新入社員はやりきれないし、やりたくない。モチベーションが下がってしまいます。ですから、配属前の導入研修の時期に、中間ゴールとしてのミニ成功体験をさせることが重要です。着実に成長してもらうためには、ゴールの目線を一度下げたうえで行動責任や成長したいという気持ちを育む仕掛けづくりが大切なのです。 図14 小刻みな経験で段階的に成長していく 図14 小刻みな経験で段階的に成長していく

4)リフレクションを習慣化する

新・社会人基礎力にリフレクションの要素が加わりましたが、私たちは、リフレクションには短期・中期・長期のものがあると捉えています(図15)。中期のリフレクションは、どの組織でも、四半期、半年、一年といったレベルで必ず実施しているはずです。しかし、短期的なリフレクションは十分ではないところが多いと思います。目的に合わせて、しっかりリフレクションのサイクルを回していく必要があると思います。 図15 「リフレクション」促進パターンの3種類の目的 図15 「リフレクション」促進パターンの3種類の目的

リフレクションを促す対話の技術という点では、指導側の質問の仕方が重要になります。事実を確認したいのか、効果を整理したいのか、あるいは自己理解を促したいのか。その区別がなかなかできないのです。上司が対話の技術を身につけていれば、まとまった時間がとれなくても、10分、15分といった雑談のなかでも対応できます。図16は北海道大学の松尾睦教授が整理されたものですが、このような着眼点に基づく質問ができれば、リフレクションの質も向上するでしょう。よって、伝える技術や伝え方の幅という点にも着目していただければと思います。 図16 対話の質を上げる質問例 図16 対話の質を上げる質問例<

5.まとめ

業績、すなわち、本人のパフォーマンスは「知識・技能」「態度」の掛け算で決まります。特に、「態度」のフィルタによって知識や技能の歩留まりは落ちる、またはゼロとなります。つまり、未経験のことから逃げる態度を持っていると、知識・技能は発揮できないということです。

図17は、人の態度が行動に現れるということを示したものです。下半分は、今回の調査で新入社員の過半数以上がチェックしている態度の項目ですが、上司・先輩側からみると、「自ら考えて行動していない」と判断されても仕方がないような、ネガティブなものになっています。そうではなく、心の壁を取り払ってポジティブなマインドにすることによって行動が変わり、次の成長につながっていきます。人事や現場の皆さんがそのための仕掛けづくりをなるべく早い段階から進めていただきたいと思います。本日は、ありがとうございました。 図17 自ら考え行動することが「できる人」と「できない人」の差 図17 自ら考え行動することが「できる人」と「できない人」の差