Vol.14 社外で勉強する10のワケ!?
最近、ビジネスパーソンの間に「勉強会ブーム」が広がっているといいます。僕が継続的に行っているヒアリング調査でも、最近は、現場のビジネスパーソンの方々から「勉強会」「読書会」というワードを、耳にすることが多くなってきました。
すでにどこかに出かけて、すごく面白かったと感想を述べる方もいらっしゃいますし、「まだ行ってはないが興味を持っている」とおっしゃる方、「あれは一時の流行だから、全然興味がない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
不況下において、企業が、ワークシェアリングやワークライフバランスを進めるのに呼応して、少し「自由な時間」ができてきます。せっかくできた時間なのだから、なるべく有意義に使いたいということも背景にあるのでしょうか。それとも、もう会社にだけ頼っていられない、という切実な思いがあるのでしょうか。いずれにしても社外に出て、学びたいというニーズが上がっているようです。
ちなみに、平成19年版国民生活白書のデータを見ますと、3人に1人の社会人が、社外の交流会や勉強会に出かけています。この数字、多いとお感じになりますか? それとも少ない? 統計を見ますと、若い頃は、資格や検定などの勉強会、年をとってくるに従って異業種交流会のようなものに出かける傾向があります。
しかし、実はこれ以上の詳細はわかっていないことが多いのです。特に、3人に1人の社会人が、社外の交流会や勉強会に向かうのだとして、それがなぜなのかについては、きちんとした調査はありません。ここに目をつけて(!)東京大学中原研究室では、今年度「交流会や勉強会での学びの実態」を探る大規模調査を実施する予定です。
不確実な時代を生きる──潜在的なニーズ
社会調査をする際には、「調査のフレームワーク」というものが必要になります。具体的に質問項目をつくるにしても、どういうフレームワークのもとにそれを成すのかが問題になるのですね。
下記の図表は、最近、僕のヒアリング調査にご協力いただいたビジネスパーソンの方々、人事部の方々から得た語りをデータとした「勉強会に参加する理由」の分類です。僕は、人が社外勉強会や交流会に参加する理由としては、図表の10の理由が存在しているように思います。実は、当初はブログで「5つのニーズ」として公開していたんですよ。そうしたら、公開した日だけで数十件のメールやTwitter*1での“つぶやき”をいただきまして、結果としてまとめていくと、10になっちゃったんですね。電子メディア上で、仮説やフレームワークのエラボレーション(洗練化)ができるなんて、すごい時代ですね。
1 |
キャリア |
企業や事業の見通しがきかない時代に、「働く意味」「生きる意味」を再確認したい。 |
2 |
イノベーション |
会社で身についてしまった思考形式や常識をアンラーンしたり、視野拡大を図り、新しいアイデアを生み出したい。 |
3 |
ネットワーク |
会社以外に人脈を設けておくことが、将来、仕事をしていくうえでの利益になる。 |
4 |
フレンドシップ |
会社以外の人と、知り合いになりたい。 |
5 |
プロフェッショナル |
企業 ・ 組織における利益追求とは別に、社会的インパクトと社会的意義のあることに自分の専門技能を活かしたい。 |
6 |
アントレプレナー |
起業の準備のための情報収集。 |
7 |
アビリティ |
業務に関連する情報収集や能力開発を自ら主体的に行いたい。 |
8 |
セルフラーニング |
自らの読書や自己学習を後押ししてくれるペースメーカーとして利用したい。 |
9 |
ラーニングニーズ |
学ぶこと、そのことが楽しい(知的好奇心)。 |
10 |
アンザイエティ |
何らかの不安、漠然とした不安を解消したい。 |
第1の「キャリア」とは、「働く意味」や「生きる意味」を再確認したいというニーズ。会社で仕事に没頭していると、時にそれがわからなくなる。だから社外に出て、自分を見つめ直したいということでしょうか。第2の「イノベーション」とは、「新しいアイデアや着想を得るために、あえて社外の勉強会で学びたい」というニーズですね。
第3の「ネットワーク」とは、「社外に越境することで得られる人脈が、将来、自己の仕事に利益をもたらすかもね」という期待に裏打ちされた功利的なニーズです。それに似た概念が第4の「フレンドシップ」です。こちらのニーズは、むしろ異質な人との出会いそのものを楽しみたい、というもの。「婚活」もここに入るのかもしれません(笑)。
第5の「プロフェッショナルボランティア」とは、近年広がりを見せている活動です。自分が仕事のうえで獲得したスキルを、会社以外の場所でボランティアとして役立てることを指します。現在、いくつかの企業が、社会貢献活動および人材育成施策として、プロフェッショナルボランティアの制度をつくり、仕事で身につけたスキルを、社外のNPOや教育施設などで活かすことを奨励しています。 これに似ていますが、異なっている概念としては、第6の「アントレプレナー」があります。「プロフェッショナルボランティア」があくまで自分のスキルや経験をボランティアとして活かすことをめざしているのとは対照的に、こちらでは自己のスキルや経験を起業に生かそうとするニーズです。
第7の「アビリティ」とは、職場の外にある、最先端の知識やスキルを獲得するような場所、機会に参加し、自らの能力を高めたいということです。第8の「セルフラーニング」は、アビリティと似た概念ではありますが、勉強会や交流会を自己学習のペースメーカーとして利用したいというニーズですね。
第9の「ラーニングニーズ」とは、特定の目的なしに学習することそのものを楽しむことです。「知的好奇心」「Learning is Fun」といった心持ちがここに該当するのかもしれません。最後の「アンザイエティ」とは、不確実性がさらに高まる現代社会において感じる漠然とした不安を、社外で勉強することでなんとか解消したいというものです。
以上、いかがでしたでしょうか。勉強会にすでに出かけている方は自分がどこにあてはまるのかを、少し考えていただくと面白いかもしれません。また出かけていない方は、自分に思い当たるところがあるかを確認してみてください。
もちろん、これは仮説的フレームワークですので、今後の実証研究を経て妥当性が検証されるべきものです。また、便宜的に10個にニーズを分けましたが、実際の人間の思いは、複雑にぐちゃぐちゃと重なり合っているものです。リキッド化*2し、リスク化していく社会の中で、自分を、自分の仕事を、そして自分の家族の将来を、どのように描くのか。上記の潜在的ニーズからは、このような時代背景をもとにした、人々の思惑が見て取れます。
社外の学びはユートピアではない
「社外の学びの場」は、「ユートピア」ではありません。勉強会ブームを煽るビジネス書やビジネス雑誌は、そこをパラダイスのように描きます。まるで、社外に出れば、すべての問題がキャッチオール(いっさいがっさい)で解決!のようです。しかし、僕はそのようには思いません。
そこは「ひとつの色」によって塗り上げられた「パラダイス的世界」というよりは、多様な人々の思惑が交差する「玉虫色の、陰影のある場所」なのです。そして、そこは、主体性を発揮して出かける場所でもあり、主体性を発揮しているかのように見えて実は追い込まれていく場所でもあり得るということです。
社外の勉強会に出かけている皆さん! なぜ、社外勉強会に出かけるのですか? そこで何を得ていますか?
*1)twitter:ミニブログ。140文字以内で“つぶやき”を書き込むもの。
*2)リキッド化:固定化、組織化した社会の仕組みが失われ、不確実で変化の速い社会が到来し、その中で漂流することを余儀なくされること 。