Vol.13 社外での勉強会で得られるものは?

3割の動労者が、社外の勉強に参加

「あなたは、社外で開催される勉強会・交流会に参加していますか?」

 この問いに対する、あなたの答えは「Yes」でしょうか、それとも「No」でしょうか。平成19年国民生活白書のデータを参照してみますと、この国の32.6%の労働者が「参加している」と答えています。

 まず、この数字を、あなたは「多い」と考えますか? それとも「少ない」と考えますか?

 さらなる分析結果を見てみると、興味深いことがわかってきます。世代によって参加する勉強会・交流会の種類が異なるのです。

 業種を問わない交流会・勉強会への参加は、年配になればなるほど増えていきます。逆に若い人は、そうした会に参加する人は少ない傾向があります。若い人が参加する会としては、たとえば同資格取得者を対象にした勉強会・交流会などがあります。

 仕事の幅が狭い若い頃には、ホモジニアス(同種の人々が集まる)でプラクティカル(実践的)な集まりを好み、年を取って仕事の幅や人脈が広がってくると、ヘテロ(異種混交)な付き合いが増えてくるということでしょうか。

 ともかく、社外での勉強会や交流会といったものも、ビジネスパーソンの学びや成長にとって、非常に大きなもののようです。近年では、ビジネスパーソンの間に「勉強会ブーム」というものが生まれていると聞きます。巷の書店には勉強会への参加の仕方、あるいは、開催の仕方に関する書籍がいくつか見受けられるようになりました。

 今回のラーニングイノベーションでは、「社外における人々の学習」の問題を考えてみましょう。

社外学習で働く意味を見出す

 社外における人々の学習は、これまで、人材開発の研究において、ネグレクト(無視)されていたわけではありませんが、決してメインテーマではありませんでした。企業“外”で行われる学びは、企業“内”人材育成の範疇には入りませんし、そもそも会社や人事部がコントロールするべきことではありません。

 しかし、いくつかの理由によって、近年、非常に注目されるようになってきています。

 第一の要因は「キャリアを見出す効果」です。自主勉強会に参加する人は、社外で多種多様な人々に出会うことによって、自分の仕事を説明したり、自社の常識を相対化する機会を得やすく、そのため、自分の現在や将来を問い直す内省が促され、キャリア確立が進みやすいということです。一橋大学の荒木淳子先生がその先駆的な研究を行っています。

 現在は先が見えない不確実かつ不確定な時代です。世の中の動きの急激な変化に翻弄され、自分がどちらの方向に進んでいるのか、果たして、自分はこのままの働き方や生き方をしていて良いのかどうか、について誰もが自信を失いがちです。自分が仕事をする意味、これまで歩んできた道とこれから歩むべき道の関連を“見出すため”に、社外の勉強会・交流会に参加する人が増えています。

 社内にいても、こうしたことは、なかなかわかりません。社内では、日々のオペレーションをこなすことが求められます。また、働き方や生き方について語ろうと思っても、人間関係のさまざまな“しがらみ”があり、口に出すこともはばかられることも少なくありません。こうした環境で、なかなか「そもそも論」まで立ち戻ったリフレクションをすることは難しいこともあるのです。

 社外での勉強会や交流会には、そうしたさまざまな“しがらみ”がなく、第三者からのコメントを得たりすることができる点で、成長を促すようです。

社外の学習で新しい考え方を得る

 社外における学習のもう1つの側面は、新しい考え方やアイデアを生み出す可能性が向上する、ということでしょう。かつて、創造研究の第一人者であったケストラーは、「創造の源泉」を異縁連想(バイソシエーション)に求めました。異縁連想の考えとは、「これまで結びつけられていなかったことを連合させること」に他なりません。つまり、ある場所においては常識となっていることを、うまく借用(創造的借用)して、ある場所のものと結びつけ、まったく違ったものを生み出すことです。

 世の中は、広いものです。ある業界では常識的なことが、他の業界では最先端であったりします。あるいは、ある業界の非常識は、他の業界の常識であったりするものです。そうした時、さまざまな物事を異縁連想したり、創造的借用を試みることが、新しいものの見方やアイデア、いわゆるイノベーションを生み出す時には、重要であると考えられます。

成長の源泉ともなる社外学習

 ちなみに、僕の研究によると、社外に自分の仕事を支援してくれる他者を確保できている人は、そうでない人に比べて、成長の実感、能力向上の実感が統計的有意に強いことがわかっています。

 その理由は正確にわかっているわけではありませんが、自分の仕事を外に持ち込んで、意外な高評価を得て、自信をつけたりすることが起きているのかもしれません。あるいは、自らが働く意味、自らが持っている能力の相対的な位置を知ることができているのかもしれません。

 いずれにしても、社外に出ることは、ビジネスパーソンの成長にとってさまざまな意味を持つ可能性がありそうです。

 ちなみに、社外、社外と言いますが、そうは言っても、時間的余裕や精神的余裕がなくて、なかなか飛び出すことができない方もいらっしゃるかもしれません。そういう方にお薦めなのが、最近流行しているTwitter(ツイッター)などの電子媒体です。非常に簡単に、社外に多層的に広がるコミュニティー、ネットワーク、人々にアクセスできますので、ぜひ、試してみてはいかがでしょうか。ちなみに、僕も利用していますので、トライなさった時には、ぜひ声をかけてくださいね(Twitter のHPページで、nakaharajunを検索すると見つかります)。

社外での学びに人事は何ができるか?

 最後に社外での学びに人事は何ができるか、という問いですが、ごめんなさい、正直に言ってすぐに思いつく直接的な答えはありません(笑)。

 学習には学習資源(時間的余裕、精神的余裕、金銭的余裕も含めて)がどうしても必要になります。人事の方にとっては、制度や仕組みづくりを通して、社内の人々が、社外の学びの場に出やすい環境をつくってもらうことが重要なのかもしれません。

 しかし、一度、ぜひトライしていただきたいことは、人事をご担当なさっている方自身が社外の学びの場に出て、さまざまな異質な他者と出会い、気づきを得るということです。そうした中から、もしかすると、人事をご担当なさっている方にしかできない価値ある支援が可能になるかもしれません。