第115回 人を粗末にしない人:「健さん」が貫いた姿勢
「高倉健」と「菅原文太」、昭和の二大スターの相次ぐ訃報に驚き、二人が逝ってしまったことを嘆いている人は少なくないだろう。
私もその1人であり、この二人の存在感の大きさを噛みしめている。リドリー・スコット監督による松田優作の遺作となった「ブラック・レイン」での高倉健さんが演じた刑事役には、日本人の信条、誇り、そして葛藤が見事にあらわれていた。また、菅原文太さんの映像としては、このメルマガで何度かふれた大友啓史監督のドラマ「ハゲタカ」(2007年、NHK)で、日本の伝統企業の創業者役が目に焼き付いて離れない。
さて、「健さん」については、亡くなられてから多くのエピソードが紹介されていて、読者の皆さんも読まれていると思うが、私が最も頷いたのは、「人を粗末にしない人」という評価だ。
「お金を粗末にしてはいけない」、「物を粗末にしないこと」-我々は親からそんなことを聞いて育っているが、人として最も大事なのは、「人を粗末にしない」ことだ。ところが、現実には、残念ながら「お金や物は粗末にしないが、人を粗末にする人」が増えてきていないだろうか。そんな時代だから、「健さん」の姿勢に余計に惹かれてしまう。
Wikipediaによると、下記の逸話も紹介されていた。
『夜叉』で共演したビートたけしは撮影中のエピソードとして、真冬の福井ロケのある日、オフだったにもかかわらず、高倉がロケ現場へ激励に現れた。厳しい寒さの中、出演者・スタッフは焚火にあたっていたが、高倉は全く焚火にあたろうとしない。スタッフが「どうぞ焚火へ」と勧めるが、高倉は「自分はオフで勝手に来た身なので、自分が焚火にあたると、皆さんに迷惑がかかりますので」と答えた。このためスタッフだけでなく、共演者誰一人申し訳なくて、焚火にあたれなかったと発言している。やがて「頼むからあたってください。健さんがあたらないと僕達もあたれないんです」と泣きつかれ、「じゃあ、あたらせていただきます」となり、やっと皆で焚火にあたることができた。
もちろん、これだけではなく、「健さん」が映画つくりに携わる全てのスタッフやカメラマンにも、1人1人にきちんと向き合って接していたという話は読者の皆さんも読んだことだろう。
2012年8月、映画「あなたへ」のロケ地となった富山刑務所で350人の受刑者の前で、「健さん」がスピーチをしている。You-Tubeで見ることができるので、是非見てほしい。相手が誰であれ、きちんと向き合いながら、自分のことば語りかけている姿には打たれた。
「人を粗末にしない人」そのロールモデルとして「健さん」を忘れることはない。