第93回 ニ大マネジメント・グルの共通点、そして70歳になられるあの人に!
昨日、グロービス経営大学院大学で、Global Leader’s Skillsets & Mindsetsという授業の初日のクラスがあった。今年は、受講生の国籍は10カ国、まさに以前から紹介している全球化(中国語でいうグローバライゼーション)を実感させられた。これは、International MBAつまり、当然授業は英語で行われ、故に様々な国籍の生徒が集まってくる。今年で4年目になる。
さて、授業の最後にスライドで下記を受講生に紹介した。
Brilliant executives who are being posted abroad often believe that business skill is sufficient, and dismiss learning about the history, the arts, the culture, the traditions of the country where they are now expected to perform ?
only to find that their brilliant business skills produce no results.
<海外へ赴任する聡明なエグゼクティヴはビジネススキルがあれば十分であると思いこみ、成果を出さなければならない赴任先であるその国の歴史、芸術、文化、伝統などを学ぶことをしない、ということがある。その結果、聡明なビジネススキルをもってしても、何の結果もだせないことに気づくのである。>
このパンチのきいた名文の著者はピーター・ドラッカー。学ぶべきことを学べない本当の理由は「知的傲慢にあり」と喝破している個所の一部だ。この前に、エンジニアや会計士が人間のことを理解しないことを得意げに語りたがる一方で、人事の者が定量分析の基礎ができないことを自慢してしまう、と典型的な事例として指摘している。必要なことであるにもかかわらず、我々が学ばない、あるいは学ぼうとしない理由の根底には、「そんなことはいらない」と勝手に思いこんでしまう「知的傲慢」があるというわけだ。
さて、次はどうだろう?
何よりも大切なのは新しいことを学ぶ心、 人の心がわかること、人の上に立てるリーダーシップ、自分の考えをまとめて表現できる能力、 多様な価値観を受け容れる力、など 普遍的適応性のある人間としての能力を身につけることでなかろうか。
それと世界の主要な地理、歴史、文化、宗教、などの一般教養、自然科学的なものの考え方と若干の法知識、母国語と英語に長じること、このくらいである。
これらを試験のためにではなく、いつでも引き出せるよう終身、体の中に染み込ませておけば、世界のどこに行っても、どんな世の中になっても活躍できるだろう
「グローバル人材論」がどこでも話題になってきているが、この文章は今から25年前に書かれている。しかも、これだけ平易なわかりやすい文章だ。
さらにお気づきだろうか?ドラッカーの文章との共通点だ。ともに、今盛んに言われているリベラルアーツのことにも言及している。グローバルビジネスを担う者は、ビジネススキルだけではなく広くいろいろなことを学び続けなければならない。
「20世紀に書かれた世界のビジネス書の中のベスト50冊選」というのがあるが、その中で2冊選ばれている著者が二人いる。つまり、彼等以外は46名の著書ということになる。なにしろ、世界のビジネス書だからだ。二人のうち、一人はピーター・ドラッカー。
もう一人は、この紹介した文章の著者、大前研一さんだ。選ばれた2冊とは、Mind of Strategist(邦訳「ストラテジック・マインド」)とThe Borderless World(邦訳「ボーダーレス・ワールド」)だ。ニ大マネジメント・グルの共通点はこの文章だけではない。
このMLの読者なら、ご存知かもしれない。ちょうど今から4年前の今頃、私が大前さんに対談を依頼し、「グローバルリーダーの条件」という本をPHPから出版した。私は大前さんの主催するBBT(ビジネスブレークスルー)の番組も担当させて頂いたこともあって、この対談の前にニ回ほどお会いしたことがあった。
たった、ニ回しか会っていないのに、大前さんに対談をお願いするという無謀なコンサルタントは他にいないだろう。三時間に及ぶ対談はエキサイティングなものだった。(詳細は本ML47回)
皮肉なことに、大前さんの名前が特に若い人の間で知られるようになったのは、東日本大震災の2日目、You-Tubeにアップされた福島原発事故に対する詳細かつ的確な解説だった。有料のBBTの番組を、国難に直面して、MITで原子力工学の博士号を取得し、日立に原子炉の設計者として採用された大前さんが解説を何回にもわたって逐次アップされたものだった。トータルの視聴者は250万人を超える。
ピーター・ドラッカーが大事にしていたことの一つは、コンサルタントはpro bono (プロボーノ、最近はプロボノとしてカタカナで定着しつつあるようだ)作業、つまり専門性を活かしたボランティアだ。
大前さんは2011年6月、当時の細野豪志原発相に提案し、ボランティアで独自の事故調査を行い、それを昨年7月には「原発再稼働 最後の条件」という本にして発表している。元・原子炉設計者でもある大前さんならではの、「落とし前」のつけかたであり、これこそ本当のプロボーノだと思った。
若い人はジャパンバッシングが吹き荒れていた頃、全米のテレビ番組で日本の立場を守るために、どうどうと論陣を張っていた頃の大前さんを知らない。歯に衣着せぬものの言い方に対して、最初から抵抗感を持つ人も少なくない。IQ215の大前さんが、自らの苦労も語っていることが理解できない。ドラッカーの書棚の真ん中には大前さんの本がいつもあったと聞く。
このML読者に改めて伝えておきたいのは、大前さんは4年前の対談本の最後で語ってくれたように、本気でこの国のことを、日本の将来を考えていることだ。
そんな大前さんもこの2月で70歳になられる。この場を借りて、4年前の御礼と「大前さん、70歳のお誕生日おめでとうございます!」と申し上げたい。