第88回 「実写版・るろうに剣心」に見る「大友ワールド」のメッセージ

先週末、連日続いていた企業研修の合間をぬって、ようやく見ることができたのが、「実写版・るろうに剣心」。本メルマガの読者ならばご存知のように、「ハゲタカ」、「白洲次郎」、「龍馬伝」を世に出し、NHKから「脱藩」、フリーとなった大友啓史監督の最新作。8月25日に公開されて以来、9月11日までに動員160万人、興行収入20億円超えを達成、世界64カ国、2地区での公開も決定という大変な快挙を成し遂げている。

昨年の2月、ある方の紹介により大友さんにお会いすることができた。上記のNHK時代の三部作(私の勝手な呼称だが、)のファンであるだけではなく、大友さんになんとしても会いたいと思ったのは理由があった。「多異変な時代」や「全球化」に対応すべく企業や企業人に支援を行ってきたコンサルタントとして、「大友作品」に多くのヒントがあると直観的に判断していたからだ。お会いして、即、私の期待は確信となった。

まず、一介のファンである私にもきさくに本音で語りかけて頂いただけではなく、その洞察力、構想力はもちろん、それを研ぎ澄ました言葉におきかえる力。そして、なによりも「気骨」とか「男気」を感じさせられてしまう磁力をもっているからだ。

昨年の9月には、HRD JAPANの特別セッションとして、「リアリティに対峙し、新しい時代を切り拓く 大友作品に学ぶこれからの生き方への示唆」と題して、公開対談をお願いした。

実は、この時、大友さんから、「るろ剣」映画化がワーナーブラザーズから出る話しを伺った。それから、待ちに待ったこの作品をようやく見ることができたというわけだ。

まだ見ていない方のために、「ネタばれ」しない程度に感想を述べると、とにかくアクションが凄い。ブルース・リーの「燃えよ!ドラゴン」以来のインパクトを感じた、と言っても言い過ぎではない。なによりも、CGなし、というのが素晴らしい。柔道、棒術、空手など20年ほど経験していた私は、闘いシーンをマニアックに見てしまうのだが、佐藤健演ずる主人公、緋村剣心の動きは何度もみる価値がある。

ニ週間ほどまえ、どこかの週刊誌の映画評で「殺陣は学芸会のよう」と評していた某評論家がいた。おそらく、昔の時代劇の殺陣が前提にあったためか、彼女には動きが早すぎたのか、あるいは本当の闘い方を知らないからだろう。そんな評価は全くあてはまらない。

また、原作漫画に「忠実にではなく誠実に」脚本製作したという通り、漫画のキャラクターや雰囲気もいい味をだしていた。「るろ剣」世代の大ファンという青年が、彼の持っていたイメージ通りのキャラクターが実写で出ている様子を見て、ある種の不思議さを感じたと述べていた

このように、興行成績の通り、ワーナー配給の映画、しかも一流のアクション・エンターテイメントであること以上に私は、このML読者の皆さんに是非、「実写版・るろ剣」をすすめたい理由がある。

大友作品には、いつも、これからの日本人の生き方への示唆、つまり、知性と感性の覚醒を促し、このグローバル社会で日本人としての誇りを思い出させてくれるなにかがあるからだ。今回の作品もその期待を裏切らない。その最大の理由は、緋村剣心という主人公を通して大友さんが我々になげかけているメッセージにありと見ている。

幕末から明治、かつては「人斬り抜刀斎」と言われた剣客が、殺人剣を捨て、活人剣を目指す、その象徴として「逆刃刀」持つ剣心。原作の和月伸宏氏はこの作品を描くにあたって、「姿三四郎」と「眠り狂四朗」が参考になったと述べていた。「姿三四郎」は柔道の創始者、嘉納治五郎とその弟子、四天王と言われた一人をモデルに描かれた小説。欧米化の波が押し寄せる中で、日本人の誇りを保ちながらも、柔術から柔道への進化を模索する富田常雄のこの小説を、「実写版・るろ剣」を見ながら原作以上に思いだした。

大友作品の根底には、「生きる」ことと「死ぬ」ことへ真正面から対峙する姿勢を我々に思い出させているのでは、と私は思う。

人を斬るというのはどういうことなのか?斬った方にも、どれだけの痛みが残るのか?そして、「人を斬る」ことを可能にする刀という武具を腰に身につけて生きるというのは、身につける側になにを求めるのか?

「廃刀令」によって、刀を置いた侍たちが、武士道精神まで失くしてしまったわけではない。自らかなぐり捨てたものもいれば、新しい時代の中で、その精神を再定義したものだっている。

それは、「人を切る」ことを強いられる、今日の企業の管理職者にも突き付けられたテーマでもある。ドラマ「ハゲタカ」で、「それ(「人を切る」こと)を引き受けられる、覚悟はあるのか」というセリフがあった。リストラをする側の痛みと覚悟をことばだけで表現するのは難しい。

そう、大友作品は、平成版「葉隠れ」であり、「武士道」なのかもしれない。

映画のパンフレットのメッセージは、The Journey Beginsだ。それは、剣心の旅が始まっただけではない。大友作品によって、覚醒された我々が「リアリティに対峙し、新しい時代を切り拓く」旅を始める、始めないかい?という大友さんからの誘いではないかと私は受け取った。