第77回 人はなぜ「不都合な真実」に目をつぶりたくなるのか
数年ぶりに、セッションもアポイントもない三連休(とは言え原稿は数本かかえていたのですが・・・)の初日、6年ぶりに体重計を購入した。体脂肪率はもちろん、内臓脂肪のレベルもチェック、体年齢も見れるというもの。早速、測ってみて、ショック!というのは内臓脂肪のレベルがスケール15の11から12、「やや高い」という表示があったからだ。何度測っても当然、同じ結果。「標準」を期待していた私は、ウエスト自体は増えていないのに・・と思いながら、往生際悪く、何度も測ってしまった。さらに、単純な私は早速、400メートルトラックのある公園に走りにいった。結果、三連休は毎朝この公園で走った。そんなことをしたのは、20年前だろうか。
2日目のこと、走りながら、その朝、読み始めた本の内容がズシリと心の中に響いてきた。ハーバード・ビジネススクール教授のリチャード・テドローが書いた「なぜリーダーは『失敗』を認められないのか」本だ。英語の原題はDenial,「否認」だ。
なぜ、人は否認をしたがるのか、明白であるはずの事実、実際に同じ時代を生きた人々にとって明白であった事実を見ようとしない、認めようとしない態度についてあつかっている。ドキッとしたのは、その中に、「解釈による否認」、つまり、事実は認めても、その意味するところを否認することという個所。まさに私が自分の内臓脂肪のレベルをなかなか受け入れようとしない、まさにその態度であった。
最近、同時に読み始めた本が、「集合知の力、衆愚の罠」(アラン・ブリスキンなどによる共著、英治出版)、「なぜ危機に気づけなかったのか」(マイケル・ロベルト)、そしてこのメルマガ51回で紹介した番組を本にした「日本海軍400時間の証言」(NHKスペシャル取材班)の3冊。
本メルマガ51回に私は、
もっとも、この問題が日本固有かというと、そんなことはない。アービン・ジャニスが述べた「グループシンクの罠」にあるように、集団で議論しながら意思決定を行うときに、多数派が正論を言う少数派を黙らしてしまうことは万国共通と言ってもいいだろう。
と述べた。
日本だけの問題ではない。そして、ギリシャをはじめとする財政破綻、ウォール街でのデモが続くアメリカと今や、「多異変な時代」の問題が顕著になっている。まさに、衆愚の罠に囚われずに集合知の力を発揮しなければならないことは言うまでもない。そのためには、どうしたらいいのか。まずは問題をしっかりと把握しているのか、が課題である。現象ではなく、原因、しかも複数の要因がからみあっている問題を理解しているのか、が問われてくる。アインシュタインの有名なことば、問題を生み出した時の発想では、問題を解決出来ないということばかみしめなければならない。
ところで、これらの本の中で、特に、「日本海軍400時間の証言」は是非おすすめしたい。番組の出来た経緯、しかもどのようにして、軍令部の証言にたどりつけたのか、つまり、「メーキング」が番組制作に関与したスタッフの様々な視点で赤裸々に述べられている。
何よりも私が好感を持てたのは、取材をしていく彼等彼女達が、軍令部の「やましき沈黙」を安全地帯にいる者が責めるようなことは絶対にしたくない、という立場を貫きながら、悩み、もがき、そして番組を制作していったことが書かれていることだ。
他者の批判をする時には覚悟がいる。小林秀雄氏が「相手の立場を考えたら、何も言えなくなってしまう。一度、その立場に立ってから、本当の批評がはじまる」というようなことを述べられていたという話を読んだ。「自分はどうなんだ」と常につきつける必要がある。「内臓脂肪の増加」という事実すら、すぐに受け入れなかった私はそんなことを考えていた。