第68回 企業研修に携わる全ての人は猛省せよ!

 「グローバル人材育成の失われた20年にしないように」そう書いたのは10年前。あまりにも多くの企業が私が危惧したとおりになってしまった。よって、今年も新年そうそう、厳しいことを言わざるを得ない。

まず、事実を紹介したい。最近、私がワークショップでとりいれている手法で、ポストイットを使って、「参加者の状況テスト」をその場で行うことがある。ポストイットは小さい方がいい。なぜなら、となりの人が書いたものが見られないからだ。

もともとは簡単な思考力を問う問題、例えば「ビルの受変電装置とエレベーターとでは、どちらがブランドが購買要因として重要になるか?」、「もし、水ビジネスをやる場合は小瓶と大瓶、どちらを売りたいか?」などなど、参加者の状況を見ながら出している。

もう一つは、参加者の知的アンテナ、あるいは「勉強しているはずのことのチェックテスト」だ。前者は例えば、「次のことばを説明せよ、1、ネギシカップリング 2、もしドラ 3、TPP」などのようにその時期に話題になったことに関する感度を問うもの。後者は「次のことばを説明せよ。略語はスペルを間違えてもいいから、あるいはカタカナでもいいからポストイットに書け、 1 EQ 2 MOT 3 CSR  4 SWOT 5 ERP」とこの場合はポストイットを5枚ならべて各自書いてもらう。

さて、ここで読者の皆さんへのクイズだ。この5問、ある日本大手メーカーでのセッション。10か月に渡っておこなわれる「MBA型の選抜セッション」、参加者は24名、30代から40代。既に初日がおわり私の番は2日目からだ。答えはこの記事の最後にある。それを見る前に、もう一つ。この参加者に「MBA、Mがなにで、Bがなにで、Aがなにか、書いてください」と出した。何と正解を書けたのは、たった一人だった。MBAで呼びかけて集められた参加者にもかかわらずだ。

この会社だけではない。参加者20名のうち、10名が理系の院卒社員のグループでも、ノーベル賞受賞の「ネギシカップリング」の話が書けたのは20分の8程度だった。中には「根岸さんと根岸さんの合コン?」と書いた方もいたほどだ。あるいは、不動産業の某社、部長24名に、「NPV,現在正味価値」をポストイットに説明してくださいと、出したら解答できたのは2名だけ、しかも一人は経理部長という状況だ。ちなみに、この24名中、6名は「古典をたっぷり読む」というある有名な「リーダー育成セッション」に出た人達だ。

誤解しないでほしい。私は研修主催団体の批判をしたいのではない。言いたいことは我々、つまり、人材育成に携わる者が考えるほどは、一般社員は勉強しようとしないし、教えたものは覚えていないし、身についていない、アンテナもはっていない、という現実を直視せよ!ということだ。

私は年間100回、160日程度、2000人以上を9時から5時、最近は9時から夜9時という方が多いぐらいだ。自分が言っていることが参加者にどの程度理解されているかは、プロのファシリテーターとして掌握している。よって、ごく自然な説明で、例えば「MBA」と単語を出した時に、参加者の表情から「もしかして、大多数は理解していない?!」ということを感じたので、確認するわけだ。昨年はいろいろな企業でこれをやってみて、厳しい現実をつきつけられた。つまり、提供する側は猛省し、工夫が必要なのだ。

(次回につづく)

<答え> 全て参加者24名中、

1 EQ=3名 2 MOT=6名 3 CSR=6名  4 SWOT=8名 5 ERP=6名