第65回 英語ヒステリーはもうやめにしよう!:NHKで私が本当に言いたかったこと(その2)
暗澹たる思いというのはこういうことだろうか。前回から紹介した、9月3日、NHK総合TV、特報首都圏「社内公用語 英語になってもこわくない?」の番組感想をいろいろな人に聞いてみた。その数60名は超える。もちろん、外国人も含めてだ。
「前半の英語をビジネスの現場で使っている場面、特にエンジニアリング会社の様子はよかったですね」
「船川さんが前から言っていることだけど、あれだけ短い時間にコンパクトに言ってましたね」
というポジティブなコメントはあった。
しかし、
「一体、後半はなんですか?せっかく、前半でビジネスの前線でリアリティのある話なのに、また英語の授業にもどってしまったようで・・すごく中途半端ですね」
「視聴者は誰を想定しているんですか?ビジネスパーソンじゃなかったんですか?セサミストリートの曲がかかって、また子供扱いですか?」
「とにかく話そうっていうのは出演した大学教授も一緒だけど、"I can do it before breakfast"がアメリカで良く知られている、なんていうのは聞いたことがないですよ!」
「なんで、ネイティブスピーカーなら Please speak more loudlyなんて決めつけるんですか? 第一、そういうなら、Speak out!か Speak up!でも、あるいは、たった一言"louder!"でもいいんだし。やっぱり、あのへんがNHKらしいですね」
という辛口派が多数を占める。
そして、日本で14年間、英語を教えてきたあるアメリカ人は「日本は何も変わっていない」とつぶやいた。彼女はグローバルイングリッシュを話そうという趣旨は理解し、大いに結構であると述べた。が、番組の中でキャスターが「でも、英語はなかなか大変ですよねー」という雰囲気を終始醸し出して、そして最後は再び、「日本人には言えない表現」、「言える表現」と型にはめた伝え方に辟易していた。NHK側からすると、「国民の多くを代弁して、英語は大変」というメッセージもつたえたかったのだろうが、むしろ、逆効果だということだった。彼女は「タイ、ベトナム、あるいは中国人でも日本人みたいに『英語は大変』だと言わない。まさに日本人のマインドセットが英語フォビア(英語嫌い)をつくるのではないか、という趣旨だった。
番組の趣旨は前回述べたので、補足のコメントをすると後半、青山学院の名誉教授の本名氏がコメンテーターとして登場してきた。「日本人が気おくれすることなく話せばいい」という点については私と同じだ。但し、「日本人の英語」を広めることによって、世界で使われている英語の世界に貢献があるとまで言ってしまうと賛同できない。なぜなら、日本人が日本人英語でいいや、と居直ってしまう危険があるからだ。ましてや、先のコメントに出た、日本人の学生がいきづまって、咄嗟に「朝飯前」を直訳した文章、"I can do it before breakfast"が「アメリカで非常に良く知られている」と言っては勇み足というしかない。
実際、早くもネットで、英語マニアから酷評されている。
確かに、本名氏が述べたように、I thinkが アイ シンク と言っても、キャスターが示したように、I sinkと思われる可能性は極めて低い。言葉は前後の脈絡で判断されるし、実際、そんな発音でビジネスをやっている人達は山ほどいる。また、何も言わないより、"before breakfast"というのは悪くはない。
ただ、しっかりつけ加えてほしかったのは、"I can do it before breakfast"と言って、相手が怪訝そうな顔をしたら、すかさず "Ah…. Easy!"とでも言えば相手は理解してくれるというコミュニケーションの本質のことだ。
これこそ日本の英語教育にもっとも欠けている視点、つまり英語はダイナミックなコミュニケーションツールであって、絶えずたった一つの「正しい表現」を探すようなスタティックな学問ではないことだ。
英語マニアはすぐに、「それでは正しい文法じゃない、発音じゃない!」と言ってくるし、そんな連中を見ていたら余計、英語フォビアはますます増えるだろう。
早く、そんな英語ヒステリーはやめにして、英語と自然体でつきあっていこう。そうすれば、英語はちゃんと身についてくるだろう。(次回につづく)