第56回 危機をチャンスに!~「新卒一括採用」に思うこと
今年は私にとって節目の年だ。東芝に入り社会人の第一歩をスタートしてから、ちょうど30年になる。1980年4月1日、川崎の工場敷地内にある体育館に750名の新卒社員が集められて入社式を迎えた。
海外でワークショップの際に自己紹介を兼ねてこの話をすると、外国人に随分と不思議がられた。なぜ、同じ日に、しかも全国津々浦々、数十万人の新入社員が働きだすのだろうか?しかも、博士、修士も学部卒と同じように集まるのだろうか?このプラクティス自体が日本人の集団志向が表れているのではないだろうか、あるいはこの制度によって、さらに集団志向が醸成されるのではないだろうか、欧米だけではなくアジアでもこのような質問がよく聞かれた。
さて、この世界でもユニークな新卒一括採用、集団入社式という制度が揺らいでいる。この原稿を書いている現在で大卒の内定率は73.1%と厳しい数字がでている。厳しいと書いたが、今後数年内に、この内定率はさらに下がることも予測される。20年前、会社説明会に行くだけで交通費を支給し、複数の会社を回って「就活成金」が出たバブル世代の話はもはや遠い昔話だ。
冷静に考えてみれば、新卒一括採用を継続するためには右肩上がりの成長と、組織もそれに伴って拡大していくという前提が必要なのだ。従って、見方を変えれば、「最後の終身雇用前提の新卒組」とか就職氷河期と言われた95年以降から表出してきた問題に、どうやら真剣に取り組まなければならない時期が到来した見ることができる。
就職時の景気動向だけで就職浪人になってしまうという不公平感は理解できるが、マスコミをはじめこの議論の根底には、まだパラダイム転換に向き合う覚悟が感じられない。何度も指摘してきたように日本がBRICsであった時代はとっくに終わっているのだ。
従って、採用する側もされる側も全球化が進む中での「多異変な時代」での採用・就職活動を考えなければならない。企業側は既に一部はじめているように、通年採用枠を今後拡大していくであろう。また、インターン制度によって企業と学生のお互いにの見極めはこれからさらに厳しくなるだろう。加えて、一部の企業で見られる新卒枠に中国、マレーシアあたりから日本に留学してきた学生をとることも珍しくなくなるだろう。
危機はチャンスでもある。採用条件が厳しくなれば、それに臨む学生も必死になるし、そして大学側も変わらなければならない。そうなれば、日本の教育制度も変化を余儀なくされるだろう。なにしろ、グローバル人材はどこの企業でもまだまだ不足しているし、その需要は今後もさらに拡大していく。「グローバル人材輩出国」になるというぐらいのビジョンを掲げて、教育制度の改革に国をあげて取り組んでもらいたい。