第53回 変革期には潜在的な問題が顕在化する

「ブラジルに決まったニュースを見て、船川さんの話を思い出しました。やはり東京は無理でしたね。」とある受講者が言ってくれた。

 「オリンピックとワールドカップの開催地を見れば世界の動きがよくわかる。」セミナーでこの話をはじめたのは2004年。能率協会主催のグローバルビジネスリーダープログラムの主任講師を引き受けた時だった。ちょうど、2010年、ワールドカップの開催地が南アフリカに決まった直後だった。

なぜ、日本は64年に夏のオリンピックを開催した8年後、72年にすぐ冬季オリンピックを開催できたのか?理由は、日本が今のBRICsだったと考えるとわかりやすい、というのが私の論点だ。つまり、オリンピックやワールドカップクラスのイベントになると、各国の様々な思惑が働くわけだが、特に近年、開催国の成長を担保しようという意図が働いていることは否めない。

 この話をはじめてから、2014年の冬季オリンピックがソチ市(ロシア)、同じく2014年のワールドカップがリオデジャネイロに決定していった。そして、先日、2016年のオリンピックはやはりBRICsの一角、ブラジルに決まった。世の中のいろいろな出来事を観察しながら、背後にあるうねりを考える、これはこの連載シリーズで強調している。

さて、世の中の出来事と言えば、半世紀続いた自民党支配から民主党へ、と政権がかわってからちょうど1月。この間に最もマスコミの注目を集めているのは、鳩山首相を除くと、恐らく国土交通大臣の前原氏の動きだろう。八つ場ダムの工事中止から、羽田空港ハブ発言と着任から賛否両論出るテーマを扱っている。

念のため、私はどこの政党がいいとか、悪いの議論や、前原氏がどうこうという話をしたいのではない。マスコミのとりあげ方でちょっと気になっていることがある。変革の原理原則に基づいた視点の欠如である。変革の原理原則について、2001年の「変革リーダーの技術」(2006年日経ビジネス文庫「変革力とリーダーシップ」として文庫化)の中で「変革期には潜在的な問題が顕在化しやすい」と述べた。つまり、背景がかわって浮かび上がってくる問題があるのだ。「何で、そもそもこういうことが問題になるのだろう?」、「前は一体どういう状況だったのだろうか?」という質問は、より本質的な問題をさぐるために効果的だ。

そうすると、テレビから流される映像からさらに奥にある、これまでの行政の在り方、道路やダムなどの「箱もの」をつくる際の制度、意思決定の問題、中央から地方への金の流れなどが一層見えてくるだろう。日本が BRICsであった時に上手く機能していた前政権のモデルが時代に適合できなくなった問題だ。