第49回 再び「ハゲタカ」をすすめる!

NHKのドラマが映画になるのは異例中の異例。メルマガ読者ならば覚えて頂けるだろう。「多異変な時代」のTVドラマ「ハゲタカ」と「ハケンの品格」を推奨したのは07年4月、第22回。 新旧パラダイムの激突、肺ガンをおして出演した柴田恭平をはじめ各役者達の名演技、そして、研ぎ澄まされたセリフと気合いの入った演出に私はひかれたからだ。この後、何度もNHKで再放送され、シリーズもののTVドラマに与えられるイタリア賞を獲得した。

アンテナ感度の高い人、勉強している人達の間では視聴率が高い。先週、大前研一さんとの対談本「グローバルリーダーの条件」の出版記念講演を東京と大阪で行ったが、ここに集まって頂いた合計300名の中では半分以上が見ていた。日本の大手企業に勤める、40代後半の方は「今まで見たドラマや映画で最高だった。」と言った人もいた。「泣けてくる」という人も少なくない。企業の中で働く人々の苦悩も誇りも代弁している箇所も含まれているからだ。

さて、その映画版「ハゲタカ」を見てきた。見終わった後、立ち上がれなかったほど良かった。「ネタばれ」にならないように主演大森南朋扮する、鷲津のセリフを紹介しながら思ったところを述べる。

 「金のない悲劇、金のある悲劇」

 TVシリーズでは有名なセリフは今回も登場。中国の国家ファンドからオイルマネーまで、今回はまさに全球的スケールでお金に翻弄される企業や個人が描かれている。

 「Greed is good、強欲は善の時代は終わった」

 Greed is goodは、オリバーストーンの名作、「ウォール街」でマイケル・ダグラスの名演技、Mr. ゲッコーのセリフだ。「乗っ取り屋」ではないか!と株主総会でMr. ゲッコーは、Greedが成長やイノベーションの原動力になる、という演説を始める。このセリフはBusiness Week、Fortuneなどの雑誌で何度もとりあげられ、そして今回の金融危機で「強欲資本主義」の終焉をみるわけだ。

 「お前は誰なんだ」

 TVシリーズでいろいろな登場人物が繰り返していうセリフがある。「お前には何も見えていない」「あの子には何も見えていない」「見ようとしない」という具合だ。今回の映画版では「お前は誰だ」、つまりアイデンティティーの問題だ。「多異変な時代」の中で生きていくための大きなテーマがもりこまれていた。

派遣社員の問題、金融危機、などあまりにもテンコ盛りではないか、ストーリー展開に一部無理があるという批評もある。以前、NHKで番組づくりに関与した立場から見れば、限られた映画の時間の中ではよくまとめたと思う。

 大きなパラダイム転換の中で、働くことの意味、生きることの意味を模索し続ける製作者の姿勢に拍手を送りたい。ちょうど、マイケルダグラスとオリバーストーンは「ウォール街2」を今この時点だからこそ、「ウォール街2」の制作に合意した。「ハゲタカ2」にも期待したい。