第28回 知の民主化と志の大衆化
今月は年始から考えていた本が2冊出る。1冊は「ビジネスはどうつくるか」などの著書で有名な今北純一さんとの対談本「世界で戦う知的腕力を身につける」(ファーストプレス)。もう1冊はムック「思考力が高まるプロの口グセ」(PHP)だ。
今北さんとは、このコラムで何度か紹介しているGBL(Global Business Leader)コースで、パリでお会いして以来、毎年フランスでのセッションのゲスト講師をお願いしている。昨年は総合情報誌「グローバルマネジャー」での対談をお願いし、その時、お互いに話があまりにも盛り上がったために、今回二人の対談本をつくるという運びになった。
「知的腕力」という言葉は、3年前に今北さんから最初に話を聞いた時に、私が「これだっ!今、日本人に必要なのは!」飛びついたものだ。「やわな秀才」や「ふやけた頭」では世界では相手にされない。今北さんはその華麗なる略歴とは反対に、泥臭く、人間臭く、「知的腕力」を磨いてきた人だ。だから、話す言葉に説得力がある。対談本をつくるために合計8時間も話し合う機会を得た。刺激にあふれた、なおかつ楽しい時間であった。是非、私が今北さんから学んだ多くのことを読者にもつかんでもらいたい。
もう一冊は「思考力が高まるプロの口グセ」だ。これは、私が以前から考えていた「口グセ」を通して思考力や対人力を磨くという趣旨のものだ。人間の頭は究極のコンピューターなので、口グセはそのコンピューターを動かすアルゴリズムのパターンが出やすい。よって、口グセを意識的に使うと思考力アップに効果的なのだ。例えば、「そもそも」で文章をはじめると、頭は原理原則を探しはじめているので、よほど思い込みが強くないかぎり、馬鹿な話しはできない。一方、「ちょっと言ってみただけなんですが」と言えば頭の規制にとらわれることなく、アイデアを出しやすい。このように、かなり実践的につくっているので、こちらも是非お勧めしたい。
実は、今北さんも私も対談本と平行してそれぞれの本を執筆していた。おもしろいのは、そのタイトルだ。私が「口グセ」に対して今北さんは「とどめのひと言―予期せぬ攻撃をかわす対話法」であった。書いていたことは対談本が終わるまでは伝えていなかった。「もう一冊」があることで、スケジュールなどに関して「言い訳」を言えない状況に追い込んでおきたかった、その理由までが二人とも一緒であった。共時性がここでも起きていた!と二人で驚いた。
私はこの2冊によって、2つの方向性を打ち出したいと考えている。一つは「知の民主化」である。年金問題、自治体の使い込み、政治とカネの癒着など、日本で起きている様々な問題の根底には「知の官主化」つまり、官が主導で、民はお上に思考依存をするという構造が考えられる。思考の民主化、知の民主化が今こそ必要なのだ。
もう一つは「志の大衆化」だ。格差が問題になってきているが、以前も書いたように、「アンテナ格差」は「スキル格差」、ひいては「所得格差」にもつながる。よくよく考えてみれば、思考力も志も身につけるためにお金は不要だ。必要なのは、一歩を踏み出す決意だ。それが、2冊を通じて私の最も伝えたいメッセージだ。