第27回 IDEOに学ぶイノベーションの秘訣
今月はじめ、GBL(Global Business Leaders)コースのアメリカセッションで、世界有数のデザインカンパニーIDEOを訪問する機会を得た。場所はシリコンバレー、パロアルト、スタンフォード大学の側、ちょうど以前私がいたパロアルトの会社から100メートルも離れていないところに本社がある。
インテル、ネスレ、ルフトハンザ、BBCと世界の優良企業がデザインだけにとどまらず、イノベーティヴ・ソリューション、つまり革新的な問題解決をIDEOに求めにきている。90年代、サムソンの商品イメージを向上させたことはよく知られており、あのトム・ピーターズも絶賛している。今やスタンフォードやハーバードのマスターやPh.Dを持つ人々が入りたがる企業の一つになっている。
IDEOのアプローチは通常のコンサルファームとは異なって、認知心理学、文化人類学、社会学の専門家チームが、まず観察をすることからスタートする。クライアント企業の依頼案件に応じて、商品の使われ方やユーザーの行動を様々な角度から徹底的に観察する。その意味ではプロセスコンサルティングに近いアプローチであり、実際、かれらも最近では企業変革や革新をもたらすプロセスコンサルティングチームもはじめている。
彼らのイノベーティヴな発想を、自社の社員に身につけさせようとしている会社は後をたたない。例えばP&GのCEOは彼にリポートするエグゼクティヴ全員をIDEO に送り、まる一日IDEOメンバーとショッピングの現場を歩き回りながらIDEOの視点を学ばせた。我々も短い時間ではあったがIDEOメソッドを体験することができた。彼らが収録した観察ビデオを見ながら、難関をくぐりぬけてインターンとしてIDEOにきている学生とともにブレーンストーミングを行った。
会議室にはIDEOのブレストのガイドラインが書かれている。「良い・悪いを決めつけない」「ButではなくAndの発想」など、ブレストの基本がかかれている。特筆すべきは、IDEO社のブレストでは60分で100のアイデアを産み出すことを基本としている。そのコツは思考モードの絞込みと拡散、リラックスする雰囲気の中で適度な緊張感とゆるぎないアウトプット志向の維持、というバランスを上手くとっていることだ。
イノベーションと聞くと、特定の天才的な人物が創造的な解決策を考え出すことを思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし、IDEO社の手法を見ると、そうではないことが再確認できた。人間は他の人に誘発されると、いろいろな発想を生み出しやすい。その特性を最大に活かしてアウトプットを出している。人のポテンシャルを引き出して、チームのクリエィティヴィティを実現しているのだ。
日本企業はチームワークにおいては様々な成功体験を持っている。今、問われているのは多様なチームを活かして、イノベーションを実現することだ。その意味でIDEO社から学ぶことは多い。