第22回 「ハケン」と「ハゲタカ」:多異変な時代のドラマ

今回はテレビの連ドラを取り上げたい。年中見ているわけではないが、時折おもしろいものがあれば見ることもある。特にこの原稿を書いているたった今もそうだが、各企業の研修所やホテルで夜を過ごす際など、見る時間もあるわけだ。今期、興味を引いたのは「ハケンの品格」と「ハゲタカ」だ。

時給3000円のスーパー派遣社員、大前はる子が超人的な活躍によって正社員の危機を救うというストーリーで、先週ちょうど最終回であった。話の内容は荒唐無稽なところがかなりあったが、それでも「派遣社員」のテーマが連ドラに登場してきたこと自体に興味をもった。たしかに、番組冒頭に繰り返されたナレーションの通り、「もはやハケンなしに会社はまわらない」時代だ。私は10年前から日本企業の最大の課題の一つはダイバーシティに備えることであり、それは日本人、外国人という違いだけではなく、ジェンダー、そして正社員と派遣社員など雇用形態の問題もあると述べてきた。

最終回放映の日の朝、やはりホテルで研修前に朝の情報番組を見ていたら、あるキャスターが「この番組は社会現象を生みました!」と述べていた。野暮を承知でこのコメントにつっこむと、これは逆だ。「社会現象を番組にした」のだから。

さて、もう一つは「ハゲタカ」だ。こちらはバブル崩壊後、日本市場で活動する外資ファンドのマネジングディレクターと彼にからむ様々な人間模様が扱われている。私の言う「多異変な時代」が日本で顕在化してくる98年あたりに遡って、破綻企業の買収と再生、TOB合戦、そして村上ファンド、ホリエモンを彷彿とさせるケースが上手くおりこまれている。「ハゲタカ」役の大森南朋とターンアラウンドマネジャーに転進する元銀行員役の柴田恭平の演技がいい。刑事に見えない柴田恭平は久しぶりに見た。時折、松田優作のまなざしそのものを見せる松田龍平も「なりあがりITカリスマ」のあやしさと危うさをよく演じている。

もちろん、テレビ局のプロデューサーが外資金融やIT企業に対してもっている時代がかったステレオタイプも時折垣間見られるし、日本人役者の演技に比べるとあまりにも外国人役者のレベルがお粗末なところなど注文もつけたくなる。

それでも、NHKのドラマで「プロキシーファイト」、「デュー・ディリジェンス」、「ホワイトナイト」など21世紀必須ビジネス用語が出てくる番組が作られたことを評価したい。

「多異変な時代」とは不確実性、多様性、そしてスピードが鍵となる時代だ。 89年、ベルリンの壁が壊れ、冷戦構造が消滅した時に、既に「多異変な時代」への移行は世界規模でおきていたのだ。しかし、当時はバブルまっさかりの頃であった。私がシリコンバレーから日本に戻った95年の頃、新聞やニュースの決まり文句は「冷え込んだ消費行動」であった。隠れた前提は「また温まってもどってくるだろう」という、つまりサイクリカルな変化に過ぎないというものであった。それから10年以上たった今、ようやく「多異変な時代」のテーマが連ドラとしてもお茶の間に入り込むようになった。「ハゲタカ」の最終回には期待したい。