第17回 ロジカルリスニング実践のコツ・その6 強弁に屈しない

エンジニア「営業にはそんなこと言われたくないよ!」

営業マン「そんなことを言うなら、実際に売ってみろよ。物を売ったことのない人間に言われるすじあいはない!」

かみ合わない議論の典型ともいえる強弁の応酬だ。コミュニケーションはキャッチボールと言われるが、強弁合戦はドッジボールみたいなものだ。テレビの討論番組、というよりはバラエティ番組化した討論では、ドスの聞いた声で強弁を振りまく政治家もいる。

「あんたみないな、若造になにがわかる!」

「もっと勉強してから出直して来い!」という具合だ。

テレビのキャラとしては「強弁使い」は必要なのかもしれない。政治家だけではなく、大学の先生もこの強弁を使うことがある。質問をした相手に「私の本を百回読んでから聞きなさい」といった返答がそれだ。

「詭弁論理学」と書かれた野崎昭弘氏によると、「詭弁」が詐欺や窃盗にあたるとすれば、「強弁」は強盗になるとのことだ。詭弁はある程度の論理を使いながら、相手を煙にまいてしまう言い方である。これに対して、強弁は「押しの一手」で返す言葉もなくしてしまうような言い方だ。

ビジネスの現場でも詭弁や強弁に出会うことはよくある。ロジカルリスニングの最後のテーマとして、その対処法を紹介したい。まず、最初にリスニングの大事なスタンスは同じ点であることだ。つまり、相手の発言をしっかり聞いて、その意図をくみとることが基本であり、けんかをしかけるわけではないことだ。

強弁の他の例として「所詮、●●ごときに何がわかる」というのもある。●●には部署、専攻などいろいろな属性がはまり、もちろん、「所詮、コンサルタントごときに」「大学教授ごときに」「学生ごときに」と世の中で広く使われているものだ。

冒頭の例に戻って考えてみよう。もし最初のエンジニアが「言われたくない」「わかってたまるか」といった強弁を相手(営業マン)言ってしまったのなら、率直に謝るところから始めなければならない。そうではなくて、エンジニアが他の部門の社員にトラウマ体験を持っているのなら、まずそれを受け止めた上で誤解があれば解決しなければならない。

もちろん、受け止めているだけでは対話にはならない。相手の強弁を乗り越えて話を進めなければならない。大事なのは受け止めて、次に逃げずに留まることだ。

たとえば、「技術のわからない連中にいわれたくないよ」などと言われたら、

「確かに門外漢が差出がましいかもしれませんが、ただどうしてもこの問題を解決するためには教えてほしいのです。」というように、一旦相手の反発を受け止めた発言を述べた後で、こちらの目的を話して協力依頼をすればいい。

あるいは、

「実は我々も以前、人事から同じことを言われたことがあって当初は余計なことを言ってくるなと思ったんですよ」と、同じ立場のことを共有しながら共感作りをすることも効果的だ。

前の章で述べたように、相手が会話の協力関係を築いていなければ、まずそこから構築する必要があるからだ。ドッジボールで相手がボールを投げても、こちらはキャッチボールのスタンスで誠心誠意投げ返すこと。「逃げずに留まる」表現を使ったが、そのためには精神的強さ、メンタルタフネスが必要である。くだけた言い方をすれば、「ビビらない」ことが大切なのだ。

意外と出くわすことの多い「強弁」。「ビビらない」を基本に、次回はさらに詳しく説明する。