第16回 ロジカルリスニング実践のコツ・その5 効果的な反論の仕方

前回、受容・共感モードと探索・検証モードの切り替えについてのべた。ビジネスで必要なロジカルリスニングは傾聴するスキルだけではない。探索・検証モードから必要に応じて反論することも含まれる。ただし、反論の仕方が鍵となる。かみ合う議論をするためには、かみ合う反論も時には必要なのだ。

かみ合う反論は次の3つのステップが必要だ。

1 相手の主張だけではなく、論拠を聞くこと。

「論理トレーニング」などの著書がある野矢茂樹氏の言葉を借りれば、主張だけではなく相手の立論(主張プラス論証つまり論拠から導きだした結論)まで聞かなければならない。なぜかと言うと、お互いに主張し合うだけでは、議論は決してかみ合わない。これも靖国問題で考えればわかりやすい。

「靖国に行くべきである。断固として行くべきである」

「靖国に行くべきではない。なんとしても靖国参拝をやめなければならない」

……という具合だ。これではどこまでいっても議論がかみ合うことはない。しかし実社会では、論拠なくして主張だけする人や、論証があまりにも乏しい発言は少なくない。

「中国経済は今後、成長を続けます。多少の不安材料があっても、成長していくからです」

「このプロジェクトは絶対うまく行きます。そのぐらいの気概で臨まなければいけないからです」

あげくの果ては、

「この改革は成功します。どうしてかという少なくとも私はそう信じているからです」

というような発言もよく耳にするわけだ。意気込みやコミットメントなしでは、物事は進められない。しかし、論拠がなければ人は納得できない。

したがって、「とおっしゃいますと?」「ではその理由は?」「そこまで言える根拠を教えて下さい」というように、探索・検証モードで論拠を聞きだすことが必要だ。

2 論証の検証をすること。

これは論拠となる情報や事実の検証と、論理展開の検証の二つがある。両方を確認した上で必要ならば、誤った事実認識、論理の飛躍やすり替えなどについて反論する。

たとえば

「販促費を今年も1%アップしなければならない。なぜなら、昨年も対前年比10%アップしたおかげで、わが社の売上は伸びたのだ」

と主張している人に対しては、昨年の販促費の増加が、どの程度売上向上に結びついたのか検証を求める必要があることを述べなければならない。あるいは、他社も同等の売上向上があり、なおかつ、この企業の販促費が突出していたという事実をつかんでいたら、「販促費のおかげで売上が伸びたとは言えない」と反論できるわけだ。

3 異論を述べること

再び野矢氏の言葉を借りると「異論とは相手の主張と対立するような主張を立論すること」である。注意すべきはこちらも立論、つまり論拠を明確に結論を導かなければならないことだ。

たとえば、前の販促費のアップに対して、異論を唱えると次のようになる。

「販促費を10%上げる必要はないでしょう。なぜなら、他社も昨年はわが社と同等の売上伸率を確保しています。なおかつ、わが社の販促費は業界でも突出しているのですよ。つまり、業界全体が売上が伸びていて、わが社の販促費によって売上が伸びているわけではないのです。よって、今年度も昨年に倣って10%販促費を上げる必要性は見あたりません」

ここまで言えば、発言者は販促費によって売上が伸びたとは言えなくなる。もちろん、相手に唱える異論のスタンスは「10%販促費を上げる必要はない」なので、状況によって、

「まあ、ただ今期は他社との競争が厳しくなることを考慮して販促費については5%のアップでどうでしょう?」

と提案することで、発言者がこちらからの提案を受け入れやすくすることも可能だ。

いずれにしても、相手の主張に対して

「販促費だけを上げることを言っているのはいかがなものか?」

と言えば、相手の主張が論拠を示していない詭弁にしか過ぎないことがよくわかるだろう。

ただし「そんなこと言っているから、利益率が下がるんですよ!」と言えば相手への非難になる。

効果的な批判は非難にあらず、なのだ。鍵となるのは、自分の論拠が相手の論拠といかに異なっているのか、また冷静にどちらが妥当性があるのかを踏まえて主張を述べることだ。