第15回 ロジカルリスニング実践のコツ・その4 「受容・共感」モードと「探索・検証」モードの切り替え
ロジカルリスニングの難易度は、トピックそのものの難易度だけではなく、相手との協力関係で決まる。自分の専門分野ではない話を、説明の上手くない人から聞くことは難しい。しかし、同じ話を親しい友人が明確に話してくれれば格段に理解度は向上する。質問を自由にしながら確認することもできるからだ。
ところが、ビジネス現場では、様々な人とコミュニケーションを取りながら、協業をしなければならない。中には口数の少ない人も、話の筋道が不明瞭な人もいる。それどころか、なかなか協力してくれない人もいる。
それでも、あきらめずに相手の話を引き出すのもロジカルリスニングの技術である。今回紹介したいのは、「受容・共感」モードと「探索・検証」モードの二つを使いこなすことだ。
最近ようやくコーチやカウンセラーの方を中心に、「聞く技術」が広く紹介されてきている。相手とラポールをいかにつくり、相手からどのように話を引き出すか、そのためには言語だけではなく、非言語の部分でも相手のペースに応じて相槌をうち、相手を受容することが述べられている。これらのことは「聞く技術」としては重要であることは論をまたない。
但し、もう一つの機能、相手の発言の検証や確認も同時に行わなければならない。相手の発言の妥当性も考えなければビジネスはできないからだ。
例えば、インタビューをお願いすると「何でも聞いてください。喜んで協力します!」と言う人も時にはいる。前回に紹介した事例とは正反対のタイプの人だ。ところが、話を聞いているうちに、本人の主観的な、しかもかなり偏った見方ではないかと思わざるを得ないような話や辻褄の合わない話を展開する人がいる。もちろん、インタビューでは個人の主観で各自が答えているのは承知の上でお願いしているわけだが、それにしても思い込みだけで話をしているのでは……と考えざるを得ないタイプの人だ。
この場合、多くのカウンセラーの言うように、そのまま聞きつづけるわけにはいかない。「受容・共感モード」から「探索・検証モード」に切り替えが必要な場面だ。もちろん、「あなたの言われていることは本当ですか?」とは聞けないし、聞くべきではない。「探索・検証モード」は「尋問モード」ではないのだ。
例えば、相手が「いやっー、合併してから、みんな文句言っていますよ。とにかく新しい経営陣は要求が多くて。我々なんかに仕事を押しつけてくるんですよ。」
と言ったとしよう。これに対しては
「具体的には、どのような仕事を?」
と内容をさらに確認しなければならないし、もう一つは「みんな」とは誰なのか、本当に全員とまではいかなくても、大半の社員が言っているのかを探索・検証しなければならない。
但し、「『みんな』といわれましたが、誰ですか?」
と聞くことはすすめられない。なぜならば、この聞き方では、ストレートすぎて尋問モードになってしまうのだ。この場合、例えばこの発言者が年配の人なら
「若手の方はどのように受け止めていますか?」
また、発言者が本社のスタッフなら「現場の人たちはどうなんでしょうね?」
というように相手の視点を変えて聞けばいいわけだ。このように、「受容・共感モード」と「探索・検証モード」の両方を状況に応じて使いこなせればいいのである。