第12回 ロジカルリスニング実践のコツ・その1 発言の前提を聞く

前回、思考力と対人力の統合スキルである、ロジカルリスニングについて紹介した。ロジカルシンキングが普及してきたのはいいが、それだけは不十分。なぜなら、読み、書き、聞き、話すというコミュニケーションの4大機能の中で、職場での使用頻度が最も高いのは「聞く」作業だからだ。

ところが「聞く」に対する教育の優先順位は最後になっていた。つまり、リスニングは放置されていたわけだ。スピーチやプレゼンテーション能力に比べると、傾聴スキルの必要性が認められるには、かなりの時間を要している。

話し手は常に論理的にわかりやすく話してくれるとは限らない。むしろ、論理の飛躍、隠れた前提があるのは当たり前というのが実態だ。そのような状況にあっても、相手の話を聞きながら、しっかりと相手の論旨を汲み取ることが求められる。

以上の趣旨から「ロジカルリスニング」というネーミングをした。さて、今回は実践のコツとして、まず「相手の発言の隠れた前提を聞く」ことをすすめたい。

世の中、前提を示すことなく発言する人は多い。次のような発言だ。

あるコンサルタント「へえー、あの候補者は前の会社に10年もいたの。じゃ、無理だな。」

 ある企業研修の参加者「この研修って、ボッーとしていられないんですね。」

どちらも、隠れた前提を考えると、首を傾げたくなってしまうだろう。最初のコンサルタントは「日本企業に5年以上いると、思考力が止まり、コンサルタントとして使えない」という持論を展開していたのだった。後者の発言に対しては「他の研修はボッーとしていられるんですか?」とついつい突っ込みたくなってしまう。発言を聞いて、違和感を覚えた時は、相手の前提を考えてみると、このようなおかしな前提が浮かび上がってくる。

発言者が隠れた前提からさらに論旨を展開すると、聞き手は混乱することがある。次の発言を考えてみよう。

「先週の新聞によると、首都圏の医者は地方の医者よりも収入が高いらしい。いくら地代の高い場所に病院やクリニックを構えているからと言って、これは極めて不公平だ。もちろん、医者になるためにはお金がかかるのは理解できる。しかし、首都圏の医大が地方の医大よりも学費が高いというデータはない。首都圏だろうが、地方だろうが、患者が払う医療費は同じであるはずだ。」

この見解に対する最も妥当な反論を一つ選ぶと?

A 収入がもっとほしい医者は首都圏に出てくればいいじゃないですか?

B 地方は生活費が安いからいいじゃないですか?

C 医者一人が年間に見る患者数は同じなのでしょうか?

D 首都圏の病院には高価な医療機器が多いのではないですか?

E 入院日数が首都圏の病院の方が長いのではないでしょうか?

クリティカルシンキングのクイズの中で、ロジカルリスニングを要するものを選んだ。発言者が持っている前提は「首都圏の医者が地方の医者よりも高い医療費を患者に請求している」というのが理解できよう。この問題、正答率は78.4%で決して難しくはない問題であるが、時々Aを選ぶ人がいる。これでは、相手の隠れた前提を聞かずに喧嘩を売ってしまうことになる。

つまりロジカルリスニングは不毛な議論を避けて、かみ合う議論を展開することができるのだ。今回、紹介したのは、誤った前提とわかる事例だ。では、前提が何か、簡単には読み取れない場合はどうしたらよいか?これは次回、紹介しよう。

第12回 ロジカルリスニング実践のコツ・その1 発言の前提を聞く