第11回 かみ合う議論のためのロジカルリスニング

「ロジカルライティングの研修を受けて、書くときには意識するようにしているんですが、いざ、会議が始まるともうわけがわからなくて」

「ピラミッドとか、MECEとか考えて書くようにしているのですが、私の周りにはそんなことが通用するような人はいなくて」

「Why?(なぜ?)、So what?(だから何なの?)などと職場でやり始めたら、『お前は理屈っぽい』と上司に怒られました」

これらは最近よく耳にする代表的なコメントだ。私がさまざまな企業で行っている「思考力強化研修」では、受講者同士の自己紹介の際、「論理思考、クリティカルシンキングなどに関連することで、これまで経験したことについて一言紹介してください」と頼むことがある。その時、多くの受講者が上記のような経験を語る。

なぜこのようなことが起こるのだろう?それは、ロジカルシンキング(論理思考)が普及してきたために、逆にロジカルシンキングだけでは不十分であることが顕在化してきたのである。

1995年、私は立ち上げベンチャー3年目のグロービスに参画した。この年、論理思考の古典とも言える、バーバルミントのピラミッド原則『考える技術、書く技術』」が出版された。それから10年以上を経て21世紀となった現在、クリシン、ロジカルシンキングと論理思考の重要性とピラミッドやMECE(モレなく、ダブリなく)などの手法は、スキルアップに取り組む人達の間で急速に広まってきたわけだ。

ところが、それだけでは不十分だったのだ。念のためいっておくが、個人の論理思考を鍛えることは必須である。しかし、これまでの研修や書物の多くは、「一人で考える」ことに焦点をあててきた。よって「書く技術」の通り、ライティングに関するものが多い。しかし職場では「人と共に考える技術」が必須であり、読む、書く、話す、聞くというコミュニケーション機能の中で、使用頻度が最も高いのは「聞く」ことである。ところが「聞く」技術となると、「傾聴セミナー」に代表されるように、どちらかというとヒューマン的な色彩が強調され、「論理」は置き去りにされがちなのだ。

「ロジカルリスニング」……聞き慣れないこの造語をつくったねらいは、傾聴などとは一線を画した「論理的に聞く技術」の必要性を強調したいからである。ロジカルリスニングとは「思考力」と「対人力」の統合スキルであり、しかも使用頻度が高いスキルである。論理的にわかりやすく話すことができる人。それは希少価値だと思ってよい。隠れた前提、ロジックの飛躍はよくあるわけだ。それでも、相手の論旨をしっかり聞きながら、その意図を汲み取ることが、かみ合う議論の第一歩なのだ。

ロジカルリスニングに必要なスキルは、コンテンツを理解する力とコンテクスト(状況、脈絡、雰囲気)を読む力に大別することができる。前者には、論理思考とそれに必要な知識が含まれる。勉強している人はこちらは何とかできる。問題は後者だ。言い換えれば「場を読む力」なのだ。これが出来ない人があまりにも多い。「場を読む」ためには総合力が必要だ。言語と非言語、論理と感情、自分からの発信をモニタリングしながらも相手からの受信を正確に解釈すること……というようにバランスを取りながら、しかも相手がいることなのでスタティックではなく、ダイナミックな運用が求められるわけだ。

上記で明らかなように、ロジカルリスニングを鍛えることは論理力ももちろん鍛えることにつながり、ロジカルスピーキングも磨かれる。次回はその実践のコツを紹介しよう。

第11回 かみ合う議論のためのロジカルリスニング