第27回 グローバルリーダーに求められるもの(その3)
9月10日、都内の会場にグローバル・ビジネスリーダー(GBL)コース第1期の参加者10名が集まった。5カ月間、合計26日にわたる長期のアクションラーニングのいよいよ最終ラウンドだった。最終日のプレゼンテーション準備と最後の自己観照(セルフリフレクション)を行った後、最終報告会を迎えたのだ。
バリューチェーン、アライアンス、そして企業のビジョンについてチーム単位で発表を行い、参加者一人ひとりがプログラム全体を通して何を学んだのかを発表した。参加者の表情は、達成感からくる自信とより高い到達地点を見たことによる謙虚さが交錯していた。
その発表のなかで、だれもが自らのアイデンティティーを揺さぶられながらも、自分の軸を見つめ直していることを吐露した。日本人であることを確かめながら、さまざまな人との対話を通じて、意識の地平線を広げることの重要性を語った。知識やスキルだけではなく、知恵のレベル、さらに「智慧」にまで昇華されたステージを目指していきたい、そのような決意の表明がなされていた。
第1回GBLプログラムは大きなインパクトをわれわれに与えた。特にリーダー育成に関して「トップと現場の期待値ギャップ」を乗り越えたことに意義があると思う。経営トップはリーダーの要件に人間力、哲学、広い教養と視野を求める。ところが現場は実践性の高いスキルと知識を必要とする。両者の間に存在する深いギャップが存在する。
よしんば、人間力や哲学を感じさせられる経営トップがこれらの要件を述べても、短期の業績達成に追われている現場のマネジャーにはなかなか通じない。ましてや、自ら体現していないトップに言われたら、「人間力、哲学、広い教養」ということばが、あまりにも空々しく聞こえてしまうのは無理もない。
今回の参加者も、プログラム当初は「なぜ、世界銀行に行ったり、政治家と話をするのだろう?」と疑問視していた。というより、これがビジネスマンとして「健全」な見方であると思う。ところが、プログラムが進むにつれて、ビジネススキル以外の「プラスアルファー」の存在に気がつき出し、そして冒頭の見解を受講者自ら示すまでに至った。
この要因として3つあると考える。まず、ロールモデル(良き模範)の存在である。プログラムアドバイザーの武市澄雄氏(三菱商事顧問)を始め、プログラムを通じて「プラスアルファー」を体現している人と出会えた。「人間力、哲学、広い教養」どれも抽象度の高い概念だ。具体例がなければ、腑に落ちるレベルまで理解できない。国籍を超えて、グローバルで通用する人間力を持った何人かのロールモデルに出会えたことは大きい。
次にダイアローグと自己観照だ。海外に行って単にレクチャーを聞いたのではない。常に双方向のダイアローグ(対話)をしていった。最初はぎこちなく質問をしていた受講者も、次第に自分の知的好奇心や相手の世界に対する興味から質問を始め対話が始まっていった。そして、プログラムの要所要所では各自、何を感じ、何を学び、どう思ったのかを共有しながら自己観照の時間をとった。これにより体験学習をより深く内在化することが可能になった。
3番目に、今回のアプローチが知的インプットだけではなく、フィジカルでかつエモーショナルなものでもあったことだ。ネットの時代になっても遠く足を運んで、その場で汗をかいているさまざまな国の人から学ぶものは大きい。
グローバルとは中国語で「全球」と書く。「全球時代」には「全人教育」が必要なのだ。