第22回 研修講師に言い訳をさせない方法
今回は研修事務局をされる方に共有したい体験談を紹介したい。
「フィードバックは成長のもと、学びの基本はフィードバックを受け入れることにある」とこれまでさまざまなところで述べてきた。自分の行った行為に対して、自分以外の人から評価をもらうことはスキルアップのために欠かせない。
ところが、本来フィードバックを受けなければならない立場にいるにもかかわらず、フィードバックを聞き入れなかったり、拒絶してしまう人たちがいる。周りの人間も本人にフィードバックを与えることをためらってしまうことにも起因している。
こうなると、本人は「裸の王様」になって、周りはますます事実を伝えにくくなるという悪循環を生じてしまうのだ。経営トップしかり、そして自戒をこめて言うのだが、大学教授、コンサルタント、研修講師という人種もしかりだ。
低いプログラム評価を受けた研修講師が「今回は参加者のレベルが低かった」と参加者のせいにするのを耳にしたことがある。また事務局もそのような講師に「どうも、うちの社員は先生の内容についていけないようで」等と講師の言い訳を助長するようなコメントをしてしまうこともある。これでは、フィードバックを与えたり、受けたりする土壌はできずに、いつまでたっても有意義な研修はできないであろう。
実は、今年行ったあるセッションで危うくこの悪循環に陥りそうになったことがある。ある企業の入社3年目社員を対象に行った思考力強化研修のことだ。
この企業では2グループに分け、最初のグループの1週間後、別のグループに研修を実施した。最初のグループは積極的な参加者も多く、大いに盛り上がった。これに対して2番目のグループはおとなしい参加者が多かった。最初挨拶をして頂いた人事部長も同様の感想をもらしていた。
「同じ企業の同じ年次の参加者なのにこの違いはなぜだろう?」といぶかりながらセッションを進めるうちに、ファシリテーターとしてはやっていけないことを始めてしまった。
「先週皆さんの同期の人はもっと反応が良かったですよ!」。はっぱをかけるつもりで言ったのだが、こう言われると参加者はおもしろくない。そのような参加者を見ながら、こちらもじれてくる。悪循環の始まりだ。
「なぜでしょうね?」「なんか違いませんか?」事務局の人事マネジャーに同意を求めた。「確かに違いますよね」。いったん、私の見方に同意しながらも「しかし、これから船川さんの匠の技を見せてもらいますよ」と言ってきた。
その後、彼は「匠の技に期待する」というせりふを呪文のごとく繰り返した。そうなると、こちらももう言い訳はできない。言い訳の理由探しモードから、「どうすれば良いのか?」と問題解決モードにシフトし始めた。この人事マネジャーのことばをフィードバックとして噛み締めながら、翌日の進め方を変えてみた。
最初のグループから受けたイメージを捨てて、参加者の1人ひとりの状況を観察し直した。また、意図的に参加者との関係づくりにも注力した。
結論だけ述べると、初回のグループと勝るとも劣らないセッションとなった。年間、100回を超えるセッションの中で最も有意義なものの一つとなるだろう。
言い訳という自己正当化の悪循環から抜け出させてくれた、人事マネジャーのフィードバックが大きな学びとなったからだ。