人間力を磨くことにより 学びに必要な気づきを得る

昨今、注目されている人財開発のキーワードに「人間力」がある。東芝で人財育成ソリューションをはじめとするICT事業を担うインダストリアルICTソリューション社(当時はeソリューション社)では、人間力の必要性にいち早く着目し、2002年から人間力を磨くための取り組みを行ってきた。なぜ、人間力に着目したのか。また、人間力を磨くためにどのような取り組みを行ってきたのか。この取り組みに当初から携わってきた真野広氏に聞いた。


真野 広氏
インダストリアルICT ソリューション社
商品統括部
HRM ソリューション技術部

●お問い合わせ先
株式会社東芝
インダストリアルICT ソリューション社
〒212-8585
神奈川県川崎市幸区堀川72 番地34
TEL:044-331-1191
E-mail:INS-Generalist@ml.toshiba.co.jp
URL:http://www.toshiba.co.jp/cl/sol/gene

人間力とは何か

東芝に技術職として入社し、約20年にわたり通信機器の設計開発に従事してきた真野氏は2002年4月、急遽、東芝の社内カンパニーであるeソリューション社(2003年10月に東芝ソリューションとして分社化)の人材開発部の立ち上げに携わることになった。

「当時はカンパニーごとに独自の人材開発施策を打てるようになった時期でした。東芝といえばモノづくりのイメージがありますが、eソリューション社はその名の通りICTソリューションを扱う部門。決まった製品があるわけではなく人が勝負だということで、当時の社長が掲げたのが人間力の向上でした」

当時はまだ人間力という言葉が珍しかったこともあり、真野氏はまず社長へのヒアリングなどを通して人間力という言葉の意味を整理することから始めた。

「人間力とは、知育・徳育・体育の中の徳育を意味しており、徳育があって初めて知育(知識・スキル)を生かすことができます。人間力を具体的に言えば、胆力、粘り強さ、気配り、倫理観、柔軟性といった要素が挙げられます。ソリューションビジネスは、お客様志向でなければ務まりませんから、相手を思う誠実さと人格が光っていることが求められます。そのためには、常日頃から自分自身を磨くことが大切です。いくら優れた技術力があっても、人間力がなければ生かすことはできません。そこで、技術力と人間力の双方を磨くことを教育方針の柱に据えたのです」

人間力をどう育てるか

では、人間力をどう育てていくか。顧客に信頼される企業人、さらにはビジネスリーダーとしての人間性や徳、素養を身につけるために次のような講座を企画した。

トップ講座:東芝ソリューションの経営理念とリーダーシップを学ぶ

人間力講座:IT分野に限らず、各界の指導者や専門家の人柄や志に触れ、人としての徳やリーダーとはいかなるものかを知る

ベストプラクティス講座:ハイパフォーマの「成功する行動特性」を学び、ベストプラクティスや失敗例の共有と同志性を高める

カルチャー研究講座:日本と外国の文化、歴史、宗教、倫理規範などを学び、異なる文化、異なる価値観を理解する

これらの講座を、座学をはじめICTを活用して同時中継するなど、離れた職場からでも希望者が受講できる環境を重視した。同時に、職場でのOJTによる実践を行うと共に、関連する書籍情報などをエンタープライズナレッジポータルの仕組みで提供できるようにした。

「人間力というテーマは強制して身につけさせるものではないと考えているので、自発的に学ぶ仕組みを重視しました」

現在も続く「人間力講座」

人間力を磨くための講座の中でも継続して開催しているのが「人間力講座」だ。同社では、人間力を磨くためには、本人が気づき、実践に結びつけることを重視している。人間力講座を受講し各界の指導者の人柄に触れることで、人としての徳や、リーダーとはいかなるものか、ということに気づくこと。それが出発点となり、決意、行動、継続、成果につながると考えているのである。そのため、講座への参加は自発性が重視され誰でも参加できるようにした。

人間力講座は、2003年1月から年数回のペースで定期的に開催している。平日、仕事を終えた17時以降に自己啓発の講座として開催している。当初は100人前後の参加だったが、リピーターが新たな参加者を連れてくることによって、人数は徐々に増えていった。現在はメイン会場と他の事業所や支社を中継で結ぶことにより、多い時には600人前後が参加している。

テーマは「今、なぜ人間力が必要なのか」「先人や哲人に学ぶ志」「プロフェッショナルとしての人間性や徳」「光る経営者に学ぶ志」「環境や多様性」などから講師を選定している。参考までに、これまで行われた講座のごく一部を紹介しよう。

・「今なぜ、人間力なのか」

トップ自ら、経験談を通して人間力の必要性を語る

・「できるやんか! 人間って欠けているから伸びるんや」

経営者となるまでの実体験を通して、「教育」から「共育」することの大切さを語る

・「お客様志向の会社へ変革するためのマネジメントの役割」

お客様満足度向上に尽力した実体験を通して、人と経営のあるべき姿を語る

・「人間力を磨け! 心を磨け!」

顧客満足度ナンバーワンを獲得した秘訣とディーラーとしての取り組みを語る

・「志が人を動かす」

松下幸之助の経営哲学を通して、リーダーシップの本質を語る

多彩な講師陣による人間力講座は、現在も好評のうちに継続され、同社の人間力向上に寄与している。

ライブ中継をICTで支援

人間力講座をはじめとした学びの場の提供をサポートするのがICTだ。社員が自発的に学べる環境を整備するため、2002年に企業内大学「Toshiba e-University」を創設した。自社の人財育成ソリューションである「Generalist/LM/CM」の前身となる。

進化した「Generalist/LM/CM」では、社員一人ひとりに「マイポータル(勉強部屋)」が用意され、お勧めの講座や学習可能なeラーニング、受講可能なライブ講座、ネットライブラリなどが一覧で表示される。社員はマイポータルにアクセスすれば、必要な学習ができるようになっている。

例えば、ライブ中継をあらかじめ申し込んでおくとメッセージが表示され、自分のパソコンからリアルタイムで見ることができる。当日に参加できなかった場合は、ライブ中継の内容をeラーニング講座として見ることも可能だ。Generalistには、ライブ配信した動画をそのままeラーニングコンテンツに変換できる機能が備わっている。ライブ中継では視聴時間が長くなるため、eラーニングコンテンツとして制作する場合には、内容を編集し章立てを加えることで効率よく受講できる。また、動画をネットライブラリに登録しておけば、いつでも自由に閲覧することができる。

ライブ中継の講演会場では音声認識の技術を利用し、講師の声を自動で字幕に表示することにより受講効果の向上につなげることもできる。

人間力向上につながる教材

同社ではこれまでの人間力向上の取り組みを活かし、eラーニングコンテンツ「社会人基礎力アップ・プログラム」を開発した。これは、経済産業省が提唱する12の能力要素に基づいている。

内定者から若手社員を対象に自分の保有している能力と会社で必要とする能力の差異に気づき、弱みを磨き、強みを伸ばすためのプログラムだ。事前に自分自身の現状を自己診断し、強みや弱みを認識してから受講できるようになっている。若手社員だけでなく中堅社員でも、初心に戻って素直な気持ちで全てできているかを振り返ることができる。

「このプログラムの能力要素は、働きかけ力や傾聴力、柔軟性など、まさに人間力に結びついています。人間力とは、当たり前のことを実践できているかどうかが問われるものであり、人間力向上に直結したプログラムだと考えています」

このコンテンツのもう1つの特長として、画面を補足するためのナレーションが入っており、文字と音声による受講効果の向上が期待できる。また、このコンテンツはスマートフォンでも受講できるため、小さい画面でも音声があることで学びやすくなっている。

人間力が学びのトリガーに

同社がめざすのは、一人ひとりが自ら学び、自らを育成する学びの場を用意することである。その実現を支えるソリューションを、同社では第1世代のWBT(WebBased Training)、第2世代のLMS(Learning Management System)に続く第3世代「LPMS(LearningPortal Management System)」と呼んでいる。その考えに基づいて開発されたのが、同社の人財育成ソリューションであるGeneralistであり、同ソリューションを用いて具現化されたのがToshiba e-Universityである。

「自ら学び、自らを育成するには、やはり『学ばなければいけない』という素直な気持ちを持ち続けることが大切です。各界の指導者やプロフェッショナルの人柄や志に触れることをきっかけに、自ら学ぼうという行動へとつながっていく。人間力を磨くことが、学びの場であるToshiba e-Universityを自立・自律して活用することにもつながると考えています」

人間力を磨くことは、同社の社員たちにとって、学びのトリガーとなっているのである。

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