個を知り、個を活かす ~アセスメントを活用したキャリア開発~ コーセル事例

電気・電子機器で使われる直流安定化電源の専業メーカー、コーセル。昨年度、同社は社員のキャリア開発支援の新たな取り組みを開始した。新入社員から50 代の社員までのキャリア研修を体系的に整備し、各年代に合わせたアセスメントの導入とその活用を始めたのである。アセスメント~キャリア研修~フォロー面談をセットにして、個人の成長を支援している。今回、同社総務部人財開発課の日下善雄氏、大坪晴樹氏に、キャリア開発の考え方とアセスメント・ツールの活用法についてお話を伺った。

総務部 人財開発課
課長
大坪 晴樹 氏
総務部 人財開発課
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株式会社日本能率協会マネジメントセンター
アセスメント事業本部
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Tel. 03-6362-4347
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個の成長を重視した教育体系
“電子機器の心臓部”である直流安定化電源装置に特化し、会社の強みを徹底的に尖らせてきたコーセル。国内標準電源の30%超のシェアを誇る国内トップ企業の1つであり、海外市場の重要度も年々増大する中、世界市場の動きを見据えたグローバルな事業展開も加速させている。
これからますます「個」の強みを活かした“尖った人財”の育成が必要になってくる中で、人財開発課は強い危機意識を持っていたという。各部門の社員にヒアリングすると、“指示待ちによるやらされ感”“疲弊感が増え自己効力感がない”“個人、組織共にモチベーション低下”“成長を感じにくい”という声が挙がってきたのだ。
同社総務部人財開発課の日下善雄氏は、次のように述べる。
「当社にとって、“人”こそが最大の財産です。一人ひとりが成長を実感できる状態でなければ、組織の発展はありません。しかし、当社はいつの間にか社員が成長を感じにくい組織になってしまっていたのです」
こうした、“今の状態が続けばコーセルは転落する”という強い危機意識と、「個」のよさを伸ばし、それを組織の力にしていきたいという人財育成の基本的な姿勢から、教育体系の見直しに着手。「部門別教育」「キャリア教育」「階層別教育」という3つの柱を整備した。
その中の1つである「キャリア教育」で、キャリアの節目にアセスメント、集合研修、フォロー面談という流れをつくり、社員一人ひとりの自律的なキャリアを支援する体制を整えた。
5回のキャリア教育を実施

コーセルのキャリア開発において、キャリア研修を実施するタイミングは5回(図1)。昨年度は新入社員、4年目社員、30歳社員、50代社員の研修を実施し、今年度からは40代社員の研修も実施する予定だ。
「技術を吸収する段階である入社時から4年目までは、同期が集まり、自身のキャリアを振り返ったうえで将来を描いています。30歳は、入社年次に関係なく“ひとり立ち”のタイミングと位置づけており、自らが果たすべき役割について考え、その先のキャリアについて考えていきます。研修はやりっぱなしにならないように、事前課題、キャリア研修、CDS(Career Discovery Sheet)作成、フォロー面談というステップで進めています。また、各年代でそれぞれアセスメントを導入しています。入社時、4年目といったそれぞれの“節目”と、各節目でどんな気づきを得てほしいのかという“目的”によって、いくつかのツールを使い分けています」(日下氏)
アセスメントの活用

新入社員、4年目社員、50代社員のそれぞれの研修で、日本能率協会マネジメントセンター(以下、JMAM)のアセスメント・ツールを導入している。本人の自己理解を深め、研修効果を高めるために、対象者や研修のテーマに沿ったアセスメント・ツールを選んでいるところがポイントだ。一つひとつ見ていこう(次ページ図2)。
<新入社員『TAS診断』>
まず、入社時に導入しているアセスメント・ツールが『TAS 診断』だ。TA(交流分析)理論を応用して開発されたアセスメントで、対象者の行動・対人関係面でのコミュニケーションの特徴を明らかにする。新入社員~若手は技術を吸収する時期で、先輩・同僚との対話の中で学ぶことも多いため、対人関係面、コミュニケーション面での自分の特徴に気づくことは重要だ。
また、TAS診断の集計から全体傾向も把握できるため、「当社の新入社員は、協調性はあるが自己主張は弱いタイプの新人が多いことがわかりました」と日下氏。人財開発課では、こうした結果から把握した新入社員の傾向について、今後の採用や社内教育の内容を検討する材料としても役立てたいとしている。
<4年目『EI Gate』と『NAVI360』>
4年目社員に対しては、自身の技能・技術という現実的な面に着眼してもらいつつも、“1人ではなくみんなでやっていく”ということを意識してもらうために、2つのアセスメント・ツール『EI Gate』と『NAVI360』を活用している。
EI Gateは、チームの一員として周囲と関わる際の自分の特徴を、エモーショナル・インテリジェンスの考え方をもとに診断するツール。チームメンバーとの効果的な関わりやメンバーシップへの意識を高めたいときによく活用されるツールだ。
NAVI360は、中堅社員向けの360度フィードバック。本人と上司、同僚、後輩などの職場関係者が、日頃の職場行動について実践度と期待度の観点からアンケートに回答。本人の行動が周囲にどのように受け止められているかを客観的に把握することができる。
4年目の社員はこれらをキャリア研修前に受検しておき、研修当日の結果フィードバック・セッションで自分の特徴を把握する。自己認知と他者認知のギャップ、日常行動の強みと弱みなどを、仕事を覚えてきた4年目というタイミングで改めて見直し、振り返りを促す。
<50代『TAS診断』>
コーセルでは、入社時だけではなく50代社員のキャリア研修にもTAS診断を導入している。50代のキャリア研修といえば、通常は定年後の人生を視野に入れたものが多く、コーセルでも「50代マネー研修」を併せて行っているが、受講者から好評だったのは、TAS診断を含むキャリア研修のほうだった。
「50代になると、人から行動特性について指摘を受けるようなことはほとんどありません。キャリア研修とTAS診断を受けて、改めて自分を見直し、棚卸しができてよかったと、非常に好評でした」(大坪氏)
アセスメントを受けた受講者からは、「当たっているなあと感じた」「自分を客観的に見ることができ、自己分析することができた」「自分でも知らなかった自分の特性に気づくことができた」といった声があがったという。
「当社は技術系の社員が多いので“数値で記載されていてわかりやすい”という声もありました。他社平均との違いがわかるのも、人財開発課としては参考になります」(日下氏)
研修後のフォロー面談
コーセルで特に大事にしているのが、研修後に実施するフォロー面談だ。フォロー面談は、上司との面談、そして人財開発課との面談と、2回行われる。
「人財開発課の面談は、“キャリア研修は、どうでしたか?
内容を教えてください”といった感じで軽く始めますが、社員と人事が直接対話できる貴重な機会として非常に重視しています。面談中にはアセスメント結果を改めて見てもらい、もう一度その場で考えてもらうようにしています。1回見て終わりではなく、何度も見ることが大切なのです。面談の場だけではなく、1年に1回は見るように伝えています。そうすることで、必ず新たな気づきがあるはずだと考えています」(日下氏)
また、一部のキャリア面談ではさらにJMAMの『V-CAT』というアセスメント・ツールも取り入れた。V-CATとは、人それぞれに備わった固有の「持ち味」と、持ち味の行動への現れ方を左右し、環境への適応・不適応を決める「メンタルヘルス」の両面を見る適性検査。同社はこれまで、業績や行動といった“目に見える”顕在的な要素を主として評価を行ってきたが、人には「特性」や「基礎能力」などの“目に見えない”保有要素がある。V-CATを用いて、そうした要素にも光を当てていきたいと考えているという。
自身もV-CATのトライアルを受けたという総務部 人財開発課の大坪晴樹氏は、次のように述べる。
「私だけではなく、受けた人は皆、心の状態や自分の持ち味が非常によく当たっていると言います。ある意味ではこたえるところもあるのですが、それをどう受け止めて、どう活かすかが重要です。そのためには自分の特性を周囲と理解し合うことが大切だと思います」
アセスメントを人財育成に活かす
昨年度からスタートしたキャリア研修をきっかけに、アセスメント活用方法をさまざまに検討している同社だが、アセスメントを過信しないというスタンスも持っている。
「やはり、面談などを通して直接一人ひとりと対話したうえでの主観を大事にしています。ただ、人財をしっかりと評価するためには主観の裏づけも必要です」と日下氏。キャリア面談を通して、その人を知る。アセスメントは、そのための重要なツールとして位置づけているのだ。「個」を活かすことを重視する同社らしいスタンスと言えるだろう。
現在はまだ、「個」を理解する材料としてアセスメントを使っているレベルとのことだが、今後は、継続的に活用してアセスメント結果のデータを蓄積し、他のさまざまな情報とも照らし合わせて、人を見る軸を増やしていきたいという。
「どのような育成で、どう成長するのか、そのパターンや傾向が見えてくるのではないかと期待しています。どういう見方をするのがよいかを考え、人の成長につなげていきたい」と述べる日下氏。
コーセルは、今後も各種アセスメント・ツールを人財育成やキャリア開発の支援に積極的に活用していく構えだ。その取り組みに、引き続き注目していきたい。
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