ケース2 日立製作所 「技術者にこそリーダーシップ、技術経営能力」 から生まれたACE 研修
日立製作所では、2000年5月から7月にかけて今後の技術者像を議論、技術者にヒト、モノ、カネ、情報を融合できるインテグレーターとしての資質を求めることにした。こうした資質を養うために企画されたのが事業開発インテグレータ研修( 通称ACE研修) 。“創造性豊かな技術者のための先進コース”と“エースの育成”という意味を持ち、新事業の構想立案と、その開発リーダーとして事業を牽引できる人材を育成するという狙いの下、2001 年10月より開始された。
“How to Make” から “What to Make” への転換
2000 年12 月、日立製作所は約半年の議論の末、人材の役割区分を明確にした。人材を技術(知識)専門群(スペシャリスト)、事業専門群(ビジネスインチクレーター)、経営専門群(経営者)の3つに分けたのである。
これに応じて、その位置づけを定義した。技術(知識)専門群は研究職・高度専門エンジニア・高度専門スタッフ、事業専門群は設計・SE ・ 営業・管理部門などの高度ビジネスプレーヤーやプロジェクトマネジャー、そして経営専門群は取締役・CEO ・ 業務役員・事業部長、というものである。
従来の事業専門群に該当する技術者は、技術さえあれば良かった。ニーズは、“How
to make ”で解決することができたからである。しかし、日立は何でも作って何でも売るという総合電機メーカーから、知識とIT (情報技術) を駆使してソリューションを提供する会社へと脱皮しようとしている。情報と電力、交通などの社会インフラの2つを大きな核とし、これを相互に連携・融合したie (インフォメーションとエレクトロニクス)で新時代を支える社会システムを開拓していこうというのだ。そのために積極的に新事業を創造していかなければならない。何をつくるのか、“What to make ” が問われているのである。
「例えば3年でこれまでの4倍の性能にするといった、従来の延長でモノを開発する時代は終わったのです。いまの研究者、技術者のミッションは、新しい産業を創造することにあるはず。事業専門群にいる人たちこそが、変革者にならなければいけない」というのは総合教育センタ・技術研修所長の長島重夫氏である。
事業専門群に向けた教育が必要ではないか、と長島氏は考えた。日立の技術者には、新入社員研修の後、30 歳前後までには手厚い研修が用意されていたが、その上の課長クラス、35 歳から40 歳前後の技術者に対しては、この目的に合うような研修がなかったからである。実際、事業開発インチクレーターの早期大量育成が必要だった。日立の年間売り上げ8兆円のうち、年10 %の売り上げ減を新事業で補うとしたら年間8,000億円である。
1人の事業開発インテグレーターが年20 億円の新事業を立ち上げたとしても、400 人もの事業開発インテグレーターが毎年生まれる必要がある。
しかし、日立が小手先の技術と事業に走ってベンチャー企業と競合できるだろうか?
いや、そもそも“How to Make ”から“Whatt £ )Make ”へと、変革のリーダーが求められている時代に必要な技術者像とはどういったものなのか?
そこで長島氏は、2000 年5月~7月にかけて全社の主要事業分野の技師長で検討委員会を開催し、今後の技術者論を議論した。
当時は技術者として活躍していた技術研修所のシニアプランニングマネージャ・渡辺裕氏も、この技師長による検討委員会に出席した。