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Limited Archive 無料限定公開記事

CASE1 リコー|
「社員の主体性」を引き出す
トップのコミットメント 
経営戦略と教育・啓発の両輪で
SDGs時代をリードする

環境保全と事業活動とは別のものではないーー。20年以上前、トップの強い意志によって始まったリコーの環境経営は、重要社会課題「マテリアリティ」を掲げ、全員参加でESG目標の達成を目指す現在の取り組みへと受け継がれた。経営戦略としての同社のSDGs、ESGの取り組みを聞いた。

阿部哲嗣氏 
リコー ESG戦略部 兼 プロフェッショナルサービス部 ESG推進室 室長

株式会社リコー1936年設立。
創業者の故・市村清氏による創業の精神を企業活動の原点に据え、「世の中の役に立つ新しい価値を生み出し、生活の質の向上と持続可能な社会づくりに責任を果たす」ことを使命とする。デジタルサービスの会社として働く人の課題解決、働く人をつなげるエッジデバイスの提供などを手掛ける。
資本金: 1,353億円(2021年3月31日現在)
連結売上高:1兆6,820億円(2021年3月期)
連結従業員数:8万1,184名(2021年3月31日現在)

経営方針にESGを組み込む

リコーのサステナビリティへの取り組みはグローバルにおいて高い評価を受けてきた。2015年、「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」では国連、フランス政府から公式スポンサーの打診を受け、会場で使用する再生複合機、プリンターを提供。2017年には事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す国際的イニシアティブ「RE100」に、日本企業として初めて参加している。

ESG戦略部の阿部哲嗣氏は「2020年日経SDGs経営⼤賞において⼤賞を受賞していますが、特に社員の積極的な参加、経営陣のリーダーシップが高く評価されたと聞いています」と話す。

リコーのサステナビリティ活動の歴史は古く、経営戦略としての取り組みはなんと20年以上昔にさかのぼる。

「1998年、当時の桜井(正光社長)が『環境保全と利益の創出を同時に実現する』という経営方針を打ち出し、他社に先駆けて『環境経営』という言葉を使い始めました。いまの社長、山下(良則氏)は当時、イギリスの生産拠点にいたのですが、『環境経営とはどういうことですか』と桜井に直接質問したことがあるそうです。すると、『生産性を高めるということは資源やエネルギーを効率良く使うことでもある。環境保全と事業活動とは別のものじゃないんだ』と話してくれたと。山下は強く影響を受け、それ以降、環境経営推進に尽力したそうです。そのことが2017年4月の社長就任時、経営方針においてSDGs、ESGを重視する姿勢の発表につながっていると思います」(阿部氏、以下同)

山下氏ら経営陣は第19次中期経営計画の発表にあたり、経営理念や経営戦略、ステークホルダーの要請に基づき、特に重点的に取り組む社会課題「マテリアリティ」を定め、2017年に発表した。経営企画部門とサステナビリティ部門で素案をつくり、経営層が議論を重ねたという。

ことにベンチマークしたのがダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・ワールド・インデックス(DJSI World)や国際環境非営利団体(CDP)だ。企業のESG活動を測定するためのグローバルスタンダードとして広く認知された評価制度である。また、投資家や欧州などの大手企業の要望も分析した。

その結果、決定したのが「事業を通じて社会課題解決を図る5つのマテリアリティ」(現在は、「“はたらく”の変革」「生活の質の向上」「脱炭素社会の実現」「循環型社会の実現」の4つに改定)だ。2020年にはこれらを支える「経営基盤の強化」に「ステークホルダーエンゲージメント」「共創イノベーション」「ダイバーシティ&インクルージョン」の3つのマテリアリティを新たに追加している。そして、それぞれのマテリアリティに紐づく14の「ESG目標」を設定した。

2018年は山下社長自らが委員長を務めるESG委員会を設置。ESG委員会は年4回開催し、投資家など外部の意見を参考にマテリアリティやESG目標などを柔軟に見直す体制としており、ESG目標も現在は17項目に増えた。「“はたらく”の変革」に「デジタル人材育成」を、「共創イノベーション」には「特許のETR(他社が引⽤した特許の多さを示すスコア)スコア増加率」を入れるなど、時流に合わせ変更を加えている(図1)。

ESG目標はそれぞれ中長期の目標を掲げている。たとえば使⽤電⼒の再生可能エネルギー⽐率は2022年度までに30%、25年度までに35%以上。グループをあげて向上に取り組む女性管理職⽐率は、22年度までに16.5%。今後も中期経営計画に応じて目標値を見直していく予定だ。目標は「絵に描いた餅」で終わらないように、達成度が執行役員以上の役員報酬に連動するしくみになっている。

「目標は各役員が管轄する組織の重点施策として展開され、さらに部門ごとに分解されて割り振られます。社員たちはそれぞれ自分の部署に降りてきた目標の達成に向けて仕事をすることになります」

したがって目標達成度は個人評価にも反映される。たとえば所属する生産部門がCO2削減の数値目標を掲げていれば、そのために生産工程を減らすなど改善策を講じることになる。施策の担当者たちは個人目標を設定し、達成度について評価を受ける。

「一般に経営目標といえば、売り上げや利益といった財務指標ですが、リコーでは財務目標と並びESG目標も経営目標に位置づけ、各組織の活動に落とし込まれています。ESG目標は将来的な財務につながる目標と位置づけ、『将来財務』とよんでいます」

オンライン内製講座で啓発

教育のしくみも充実している。

「経営層、課長以上の層に向けたオンライン勉強会を2020年5月に開きました。内容は社会の動向や経営戦略、社員にどう取り組んでほしいか、など。4日間にわたって開催し、約2,000名が聴講しました。事後の理解度を問うアンケートでは各重要ポイントについて96~98%が理解できたと答えています。

一般社員向けには、昨年から在宅勤務の隙間時間にオンラインで受講できる『SDGsスキマ講座』を開始しました(図2)。SDGs、ESGの基礎を網羅する内容で、12講座あります。所要時間は1コンテンツ約10分間。1年間の視聴回数は約13万6,000回、アンケートの回答数は約1万8,000件にのぼりました」

コンテンツは内製しており、ESG部門内で分野ごとに担当を割り振って制作したという。

教育効果を測定する調査も行った。


「SDGsと社員の業務のつながりについて問うもので、我々は『つながり調査』とよんでいます。自分の業務とSDGsの関係を社員一人ひとりに理解してもらい、自分の言葉で話せるようになってほしい、という山下の思いから始まった調査です。国内外約4万5,000人の社員を対象に2021年3月に実施しましたが、SDGsと自身の業務はつながっていると思うか、という質問に対し、『思う』と答えた人は97.7%に達しました」

社会貢献活動が一体感の醸成にも

事業以外の社会貢献活動も多彩である(図3)。本社主導の重点領域は「はたらく人のインクルージョン」「生活の質の向上(教育、ヘルスケア、まちづくり)」「気候危機への対応と生物多様性保全」の3つだ。


たとえば教育に関連する活動に「リコー・サイエンスキャラバン」がある。リコーグループの技術を子どもたちにわかりやすく伝えるプログラムで、学校などに出向き、科学実験などを通じて複写機や印刷の原理を楽しみながら学んでもらう。2007年から続けている取り組みだ。

社会貢献クラブ「FreeWill」は、希望する社員の給与・賞与から10円単位、100円単位で端数を天引きし、NPO、NGOなどに寄付するプログラム。集まった総額と同じ額を会社が出し、合わせて基金とする。社員のなかから募集して選ばれた運営委員が社員に推薦された寄付先について話しあい、決めるしくみだ。

こうした社会貢献活動の他にも社員一人ひとりが盛り上げるイベント開催も社員の一体感醸成に役立っているようだ。

「個人や組織でSDGsに貢献する活動を思い思いに実践する『SDGsアクション月間』を毎年6月に開催しています。今年も様々なプログラムを実施しました。たとえば『SDGsワールドツアー』では、世界のリコーグループ各社の社会貢献活動や事業を通じたSDGsの現場を、週ごとにオンラインで紹介します」

社員参加イベント「“できること”から始めるSDGsアクション」は、リコーグループの各社、各ビジネスユニットがそれぞれSDGsにつながるアクションと活動単位を決めて登録し、全員で登録内容を実践するプログラムだ。登録内容は自由に選べ、事業に関係のないものでもよい。実施期間が終了すれば結果を提出し、活動内容を共有する。

SDGsに関するよい行動を行ったメンバーを褒めあう「Smile for SDGs Action」もこの期間に行う。社員それぞれに付与されているサンクスポイントを、周囲の人にあげることで、感謝や賞賛の気持ちを伝えあいモチベーションを上げていく。

「社員主導の姿勢は外部の評価にもつながっているのではないでしょうか。高い評価に社員も達成感を得られ、モチベーションが高まっていると思います」

トップの言葉が意識を高める

トップのメッセージも、モチベーションを上げている、と阿部氏。日ごろからSDGs、ESGの施策については山下社長がビデオメッセージを頻繁に発信しているという。また毎年、開催される創業記念イベントでは山下社長が直接社員と語りあう場を設ける。

「SDGsで弊社が大きな賞をいただいたときも、山下が授賞式の様子をスマホで撮影。『皆さんの努力の賜物です』と社員を称えました」

トップと社員一体となった一連の取り組みは脚光を浴び、思わぬ副次効果が生まれているようだ。

「リコーの取り組みを教えてほしいというお客様からのご要望が、近年、年間約50~60件にのぼっています。社内セミナーに招かれ活動を紹介したり、マテリアリティの決め方、役員報酬との連動の方法を説明する機会も増えてきました。他社よりワンテンポ早い段階で悩み、取り組んできましたので、その間の経験が役立っているのではと思います」

顧客の関心は大きく2つ、「社員にどう浸透させるか」「いかに経営戦略と紐づけるか」に集約されるようだと阿部氏は説明する。

その顧客ニーズを反映した施策を展開するのがグループ内の販売会社、リコージャパンだ。同社のキーパーソン制度ではSDGsの伝道師ともいえるキーパーソンが、所属する組織でSDGsの浸透を図るとともに、顧客や自治体向けにも価値提供を行う。SDGsのセミナーを開催したり、推進に役立つベストプラクティスを紹介するなどだ。2021年6月末時点で全国411名のキーパーソンが活躍しているという。

まさにSDGsのトップランナーといえるリコー。だが、「本当の意味でみんながSDGsを自分ごととしてとらえているかといえば、まだまだだと思う」と阿部氏は打ち明ける。

「普段、お客様と接点のある社員は完全に腹落ちしています。SDGsやESGについて学ばないとお客様と話ができませんから。一方、現場から遠いコーポレート部門の人はまだピンとこないところがあるかもしれません。やはり、社会のためにいいことをしよう、といった啓発だけでは浸透しづらいのだと思います」

自分の仕事の先にはSDGsへの貢献があるーー。リコーの事例からは、表面的な啓発活動に留めてはいけないという意志を感じる。社員一人ひとりの仕事とSDGsが結びつき「主体的な取り組み」とすることが、SDGsの活動を真に推進する鍵となるようだ。

Learning Design 2021年09月刊

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