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OPINION2 日本経済団体連合会
長谷川 知子氏|
多様な人材が能力を
発揮できる環境をつくる 
「Society 5.0 for SDGs」推進のために人事がすべきこと

革新技術を最大限活用することにより経済発展と社会的課題の解決を両立させる「Society 5.0 for SDGs」を提唱し、企業のSDGsへの取り組みを後押しする経団連。Society 5.0時代に求められる企業の在り方と求められる人材、そして人事・人材開発部門の役割について、常務理事の長谷川知子氏に聞いた。

長谷川 知子(はせがわ ともこ)氏

一般社団法人日本経済団体連合会常務理事。
上智大学大学院外国語学研究科国際関係論修了(修士)。米国コロンビア大学大学院国際公共政策大学院(SIPA)修了(修士)。1988年、経団連(当時)事務局入局。
国際経済部、広報部、国際経済本部北米・オセアニアグループ長、社会広報本部主幹(企業行動・CSR担当)・副本部長、教育・スポーツ推進本部副本部長(教育・人材育成担当)、教育・CSR本部長、SDGs本部長を経て2021年4月より現職。

「Society 5.0 for SDGs」とは

経団連では、「Society 5.0」の実現を通じてSDGs達成を目指す「Society 5.0 for SDGs」を活動方針の柱に据えて活動している。

「Society 5.0」とは、人類がこれまでたどってきた狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続き、2030年に向けて実現を目指す第5の社会を意味し、政府の成長戦略にも位置づけられているコンセプトだ。経団連常務理事の長谷川知子氏は、Society 5.0について次のように語る。

「Society 5.0は、IoT、AI、ビッグデータなどの革新的なデジタル技術を活用する人間中心の創造社会であると経団連では考えています。多様な人々によるイマジネーション(想像力)とクリエイティビティ(創造力)を掛けあわせることにより、グローバル社会が直面している課題に対して、革新技術を最大限活用しながら課題を解決し、新たな価値を提供していくことが、Society 5.0の目指す社会です。そして、人間中心の社会であることと、地球社会が直面している課題の解決を目指すという意味では、まさにSDGsが目指す方向性と同じです。Society 5.0の実現を通じてSDGsを達成することによって、企業も成長でき、多様な人々のウェルビーイングも実現することができると考えています」(長谷川氏、以下同)

こうした考えのもと、経団連では、SDGsが掲げる17の目標それぞれに対して、デジタル技術を用いてどのようなソリューションを生み出せるか、会員企業の優良事例を集めている。さらにSDGsの掲げる169のターゲットにも紐づけて、経団連の特設ウェブサイト(https://www.keidanrensdgs.com/home-jp)を通じて情報提供を行うことで、様々な企業・組織間のコラボレーションやオープンイノベーションの促進を図っている。

さらに、コロナ禍により、以前から進行していた経済的格差や地球環境問題、さらには日本におけるデジタル革新の遅れといった諸課題が浮き彫りになった。この状況を踏まえて、経団連は昨年11月、それまでの株主至上主義の形に終止符を打ち、新たに「サステイナブルな資本主義」を掲げた「。(ピリオド)新成長戦略」を公表した。

「資本主義が真にサステイナブルになるには、企業がステークホルダーの多様なニーズや価値観を取り入れ、対話を通じて新たな価値を協創していくことが重要だと考えています。その鍵となるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。デジタル技術を最大限駆使して課題を見いだす一方で、課題解決を図る際の価値のバランスをステークホルダー間で調整するのは人間です。DXを使いこなしながら、人間中心で課題解決、価値創造を図っていくことが必要だと考えています」

「。新成長戦略」では、2030年の未来の姿について、5つのステークホルダー─生活者、働き手、地域社会、国際社会、地球環境─ごとに目指す価値や、どのような価値の協創を目指すかを整理し、2030年までにサステイナブルな資本主義の確立を目指すことを掲げている(図1)。



企業はSDGsへの取り組みを効果測定し、情報開示を

Society 5.0 for SDGsへの取り組みは、会員企業にどのように促されているのだろうか。経団連は、会員企業に求める行動原則を示した「企業行動憲章」を定めており、入会する企業のトップに順守のための署名を求めている。2017年11月には、この企業行動憲章をSociety 5.0 for SDGsに基づき全面的に改定した。前文には、企業が持続可能な社会の実現をリードする役割を担っていることが定義されている。

憲章は全10条からなり、第1条では「イノベーションを通じて社会に有用で安全な商品・サービスを開発、提供し、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図る」、第4条では「すべての人々の人権を尊重する経営を行う」、さらに第10条では、経営トップの役割として、SDGsを経営に組み込み、国内外のグローバルサプライチェーンも含めて、その実現を目指すことが示されている。

この企業行動憲章について企業の実践状況を把握するため、経団連では会員企業にアンケート調査を行っている。2020年10月に行われた第2回アンケート調査の結果によれば、SDGsを活用とした取り組みとして、「事業活動をSDGsの各目標にマッピング」「優先課題の決定」を挙げた企業はいずれも6割を超えた。前回2018年度調査と比較してもっとも伸び率が高かったのが「経営への統合(ビジネス戦略にSDGsを組み込む)」で、4.2倍の42%に上った。会員企業の間にSDGsが着実に浸透してきていることがうかがえる。

また、SDGsの17目標への取り組み状況については、組織運営に関しては目標8(働き方改革)と目標5(ジェンダー平等)、事業戦略に関しては目標13(気候変動)、目標7(エネルギー)、目標9(イノベーション)への取り組みを挙げる企業が多く見られた。

「SDGsが2015年に国連で提示されて以来、2020年までは広報・普及の段階でした。次の2030年までの10年間を、国連は“Decade of Action(行動の10年)”と位置づけています。したがって企業には、これまでのように17目標と自社の事業をマッピングしてSDGsへの取り組みをただ伝えるだけではなく、SDGsへの取り組みの効果を測定して情報開示することが求められます。そして、そこで明らかになった課題を改善するPDCAサイクルを回すことによって、貢献度合いをさらに高めていくことが必要だと考えています」

価値協創のために必要な人事面での改革

Society 5.0 for SDGsを推進するために、企業は人事面ではどのようなことに取り組むべきだろうか。

「Society 5.0は価値協創に重点を置く社会ですから、時間や空間にとらわれない、もっとも生産性が上がる働き方をすべきです。コロナ禍でテレワークがなかば強制的に進みましたが、コロナが収束した後も、テレワークとオフィスワークをハイブリッドさせた柔軟な働き方を定着させることが求められます。社員のエンゲージメント向上につながるような社内環境・制度を整備していく必要もあるでしょう。

また、イノベーションの源泉はダイバーシティです。企業に勤める人々の構成も多様化させなければなりません。女性はもちろん、外国人、高齢者、障害者など、多様な人が活躍できる職場環境も重要です」

さらに長谷川氏は、柔軟な働き方と同時並行で進める必要があるものとして、複線的なキャリア形成を挙げている。従来の新卒一括採用、終身雇用、年功序列を特徴とするメンバーシップ型の雇用システムでは、人材が固定化し、組織のダイバーシティが高まりにくいためだ。

「新卒一括採用は若手に安定的な雇用を提供する意味では良かったですが、一方で就職氷河期世代を生み出すことにもつながりましたし、ジョブ型雇用が日本で定着しなかった一因にもなっています。また、エンゲージメントの面でも、終身雇用や年功序列賃金の下では、能力や意欲の高い従業員のエンゲージメントが低下する傾向がありますし、優秀な外国人社員を採用するうえでも障害になります。専門能力を重視するジョブ型の雇用処遇形態を増やしたり、労働市場の流動性を高めることも、Society 5.0が目指す価値協創型社会に移行していくうえで必要なことです」

ただし、すべての業種や企業にジョブ型雇用が適しているわけではない。各社が自社の事業特性と経営戦略に照らして、従来のメンバーシップ型雇用・処遇とジョブ型雇用・処遇の最適な組み合わせを追求する「自社型雇用」を確立することが望ましいと長谷川氏は指摘した。

また人材育成の面では、自律型キャリア形成への支援を求めている。

「日本企業における従来の人材育成は会社主導型で、会社がジョブローテーションを行いながら社員のキャリア形成を考えていくやり方でした。しかし今後は、メンバーシップ型雇用であろうがジョブ型雇用であろうが、社員が自分の進みたいキャリアを考えて、その実現のために必要な能力を身につけながらキャリアを形成していく方向にシフトすることが望ましいでしょう。企業はリカレント教育(学び直し)の機会などを積極的に導入して、社員の自律型キャリア形成を支援するようなしくみを取り入れる必要があります」

企業にとって、社員の自律型キャリア形成を認めることは、一方で一部の社員の転職を促すことにつながる可能性もある。しかし、それは自然な成り行きだと長谷川氏は話す。

「メンバーシップ型とジョブ型雇用を最適な形で組み合わせる『自社型』雇用システムを各企業が実践していくなかで、ジョブ型雇用が日本企業に浸透していけば、中長期的には、各企業において自社の経営戦略に適した人材の確保・定着が容易となり、社会全体では、成長産業への労働移動の円滑化や、外部労働市場の進展が期待されます」

SDGs達成のために求められる人材、そして人事とは

Society 5.0時代に求められる能力については、経団連と大学のトップで構成する「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」で次のように整理している。忍耐力やリーダーシップ、チームワーク、学び続ける力などの素質をベースとし、その上にリテラシーとして数理的推論・データ分析力、論理的文章表現能力、外国語コミュニケーション力などがあり、さらにその上に論理的思考力と規範的判断力、課題発見・解決力、未来社会の構想・設計力があり、その上で高度専門職に必要な知識と能力を身につけるというものだ(図2)。



「これだけの能力を大学での4年間だけで身につけることは不可能です。初等中等教育の段階から大学院に至るまでの教育が必要であり、社会人になっても学び続けることが求められます。

このことを踏まえると、企業には、社員が働きながら学び続けられる環境や制度がいっそう求められます。社内で提供する研修に加えて、大学院などでより専門的な知識を学ぶことを奨励することも必要でしょう。特に、文理をまたぐ多様な学部を有する大学には、オープンイノベーションにつながる学びの場を提供できるという特性があります。そういう点で、Society 5.0に求められる協創型の人材を育成するプログラムには、大学でしか提供できないものもあります。そういうプログラムを企業と大学が共同開発する機会も、今後は増えていくのではないでしょうか」

長谷川氏は、こうしたリカレント教育における企業側の課題として、社員が大学院のプログラムを受けても、そのことが社内での処遇や評価に反映されていないことを指摘する。

「社員がリカレント教育を受けた成果を、社内の人事評価制度に反映させることが必要です。一方で大学側には、社会人向けのリカレントプログラムに関して、企業が社員の受講成果を評価に反映させやすいように、そのプログラムを履修することで身につく能力、スキルを可視化することが求められます」

DXを駆使して人事制度の変革を

Society 5.0 for SDGsを推進するうえでは、人事・人材開発部門にも取り組むべき課題があるという。

「Society 5.0のベースとなるのはDXですので、人事・人材開発担当の方々には、人事・育成制度においてもDXを推進していただきたいと思います。いま、多くの日本企業がジョブ型雇用を取り入れた人事制度の設計を試行錯誤されていますが、その際にも、デジタル技術を活用しながら新たな制度をつくり上げていっていただきたいと思います」

Society 5.0 for SDGsの実現を目指すためには、企業に大きな変革が求められる。しかし、それを目指さなければ、SDGs志向の強い若い優秀な人材の採用は難しくなる一方であり、国際競争に勝ち抜くことは不可能だ。

「SDGs の理念は“Leave No One Behind(誰一人取り残さない)”です。多様な価値観をもったすべての人が活躍でき、個々のウェルビーイングを追求できるサステイナブルな社会がSociety 5.0 for SDGsの目指す姿です。それを社内において追求するのが、これからの企業における人事・人材開発部門の役割と言えるのではないでしょうか」

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