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特集│OPINION 2 中村文子氏
対面以上にID が重要
オンライン研修の定着で
より“ブレンディッド”な学びへと進化

コロナ禍で、日本でもオンライン研修が定着しつつある。
今後コロナが収束し、オンラインも対面も可能な状況になったときに、効果的な研修を実施するには、どのような点に注意して設計すべきだろうか。
10年以上前から研修のオンライン化が進んでいるアメリカの事情に詳しい、ダイナミックヒューマンキャピタルの中村文子氏に聞いた。

中村文子(なかむら あやこ)氏
ダイナミックヒューマンキャピタル 代表取締役

ダイナミックヒューマンキャピタル代表取締役、The Bob Pike Group マスタートレーナー。
P&G、ヒルトンホテルで人材育成・組織開発に携わり、2005年より現職。
ボブ・パイク氏のメソッドを用いたトレーナー養成、研修内製化支援、プレゼンテーションスキル、ファシリテーションスキルを専門としている。
ボブ・パイク氏との共著に『研修ファシリテーションハンドブック』『研修アクティビティハンドブック』(ともにJMAM)他多数。

[取材・文]=増田忠英 [写真]=中村文子氏提供

集合することに意味のある「参加者主体」の研修

コロナ禍で研修のオンライン化に試行錯誤する日本企業に、アメリカで蓄積された豊富なノウハウを紹介してきた中村文子氏は、今後の研修の動向について次のように話す。

「現在のような非常時では100%オンライン研修に切り替わっていますが、新型コロナが収束すれば対面での研修は復活するでしょう。しかし、コロナ以前とまったく同じ世界に戻ることはないと思います。コロナ禍は企業にとって、対面で集合研修を行うことの意味を問い直す契機になりました。『この内容なら、わざわざ対面で実施しなくてもオンラインでできる』ということが判明した研修は多いのではないでしょうか。結果として、以前のように対面で研修ができる時期が戻っても、集合することに意味がなければ、集合研修は行われなくなるだろうと思います」(中村氏、以下同)

集合する意味のある研修として、中村氏は「参加者主体」の研修を挙げる。

「参加者主体の研修とは、参加者が主体的に学び、実践することに主軸を置いた研修のことです。研修の本来の目的は、参加者が研修で学んだことを職場で実践し、ビジネス上の成果を生み出すことですが、参加者が研修に受け身の姿勢で臨んでいる限り、職場での実践にはなかなか結びつきません。したがって、研修は参加者が主体的に参加できるようにデザインすることが重要です」

図1のAとBは、研修における講師と参加者との関係を示している。Aは、講師が問いかけて、個々の参加者が答えるやり方である。しかし、講師と参加者の対話だけでは、主体的にかかわれるのは1人だけで、他の参加者は話を聞くだけになってしまう。それに対してBは、講師と参加者の間だけでなく、参加者同士の間にも対話が生まれている状態を表している。“参加者主体の研修”では、このBのような状態を目指す。

「何らかのワークを行い、個人で考えたことについて隣の人と話しあったり、グループでシェアするなど、参加者全員が主体的にかかわれるようにすることが参加者主体の研修であり、これこそが集合する意味のある研修の姿だと思います」

参加者主体の研修は、対面だけでなくオンラインでも実現可能だ。

「たとえば、オンライン研修でよく利用されるZoomには、チャットやスタンプ、投票など、参加者が主体的にかかわるための様々な機能があります。こうした機能をフルに活用することで、参加者主体の研修をオンラインでも行うことができます」

Aのように講師が問いかけて1人に答えさせるだけであれば、わざわざ参加者を同じ時間に集めて実施する必要はないという。

「eラーニングのなかには、講義の合間に問題が出題され、回答しないと先に進めないようなインタラクティブ(双方向)なものもあります。こうしたツールを活用すれば集合する必要はありませんし、むしろ自分のペースで進められるオンデマンド学習の方が、知識習得型の内容には適しています」

研修設計に欠かせない「ゴール」と「目的」の設定

では、参加者主体の研修は、どのようにデザインすればよいだろうか。中村氏は、「あらゆる業務がそうであるように、研修設計も、まずゴールを決めることから始まる」と説く。

研修の効果測定の考え方として有名な、カークパトリックの4段階評価法がある(レベル1:反応、レベル2:習得、レベル3:行動、レベル4:成果)。研修を評価する際はレベル1から行うが、設計する際は、逆にレベル4の「成果」から順に考えていくべきだという。

「研修を企画する際は『何を教えるか』から考えがちですが、まず『ビジネスでどのような成果を出したいか』を考えるべきです。次に、その成果を出すために、従業員の行動をどう変えなければいけないのか、仮説を立てます。そして、その行動ができるように、どのような研修を行うべきか。このようなステップで研修に落とし込んでいきます」

次に、研修の目的を設定する際は、「認知」「感情」「行動」「対人関係」の4つの領域ごとに設定すべきだという。研修で学ぶことの多い知識は認知領域、スキルや姿勢・態度は行動領域に該当する。

「そして感情領域は、研修の参加者にどのような感情を抱いてほしいか、ということです。たとえば部下育成の研修を行う場合、参加者が『部下育成なんて面倒くさい、自分でやった方が早い』という気持ちなら、コーチングなどのスキルをいくら学んでも行動しないでしょう。行動できるようにするためには、参加者に『部下育成は楽しい』という感情を抱かせる必要があります。また、商品知識を身につけさせる場合も、『この商品を顧客に売りたい』という感情がともなわなければ、積極的に販売しようという行動にはつながりません。人は感情の生き物ですから、感情領域に働きかけることも重要な要素の1つです」

対人関係領域は、身につけたスキルなどを、相手や状況に合わせて発揮できるようにすることである。

これら4つの領域でそれぞれ目的を設定し、その設定で成果に結びつくかどうかを検証しながら、研修を組み立てていく。

研修の実施方法は「同期/非同期」で検討する

研修の目的を上記4つの領域で考える際、研修を「同期で行うか、非同期で行うか」とあわせて考えてほしい、と中村氏は話す。「同期」とは参加者のタイミングを合わせて行うことで、対面やオンラインで行う集合研修が該当する。それに対して「非同期」はタイミングを合わせないことを意味し、オンデマンドなどの個別学習が該当する。

「集合研修の目的として、知識の習得を設定するケースが多く見られますが、はたして知識を習得するために集合する必要があるでしょうか。知識習得の速さは人によって差がありますから、それぞれのペースで学習する方法が適しています。したがって、知識の習得はできるだけ非同期の個別学習で行い、同期で行う集合研修では、習得した知識の活用方法についてブレストしたり、その知識を使って課題解決に取り組むなど、人とのかかわりのなかで学ぶ活動をすべきです」(図2

また、スキルの習得も、1人で練習する必要がある場合は非同期が適しているという。

「スキルが覚束ない段階で人に見られるのは誰しもプレッシャーを感じるものです。非同期で何度も練習して、ある程度できるようになってから、同期で講師や参加者に披露してフィードバックを得る、といったやり方のほうが、自信がつくのではないでしょうか」

たとえば、オンラインラーニングプラットフォーム「UMU(ユーム)」には、習得したスキルを動画に撮ってAIによるチェックとフィードバックを受ける機能がある。このような機能を使えば、非同期で繰り返し練習しながらスキルを高めることが可能だ。

世の中には、すでにこうした教育・学習用の様々なツールが存在している。それらを上手に活用し、参加者の学ぶ意欲が高まるような環境を提供する工夫が求められる。

研修は「イベント」ではなく「プロセス」で企画する

中村氏は、研修は知識やスキルが定着し、行動変容を起こすことが目的であることから、集合研修を「イベント」として企画するだけでなく、その前後も含めた「プロセス」として企画することの重要性を以前から説いてきた。コロナ禍でオンライン研修が普及したことで、このプロセスとしての研修が、より設計しやすくなったという。

「対面での集合研修は複数回に分けると非効率なので、どうしても1回のイベントに集約せざるを得ませんが、オンラインであれば、短時間の集合研修を複数回に分散して実施することが可能になります。このやり方は脳科学的にもメリットがあり、一度に詰め込むよりも、時間の間隔を空けて繰り返し学習する方が記憶に定着しやすいといわれています。

そもそも、オンライン研修は対面での研修ほど集中力は続きません。アメリカでは、オンラインで集中できるのは1日3時間程度と認識されています。対面で行ってきた終日の研修プログラムをそのままオンラインで行うのは無理があるのです」

オンライン研修では、対面での研修以上にインストラクショナルデザイン(以下、ID)が重要だと指摘する。

「対面での集合研修では、講師のもっている知識や経験、人としての魅力や話術、さらには参加者の様子を見ながら臨機応変に対応できる能力などが重視される傾向がありました。

しかしオンラインでは、それらの多くは通用しません。講師のパーソナリティは画面越しではなかなか伝わりませんし、画面に並んだ何十人もの参加者の反応を一つひとつ確認しながら話すのは不可能です。したがってオンラインでは、カメラをとおして参加者の反応を確認するのではなく、投票機能やスタンプなど、ツールのもつ様々な機能を利用して参加者の反応を見る工夫が必要です」

前述のとおりZoomには、共有の画面上に参加者がテキストを入力したり絵を描いたり、スタンプを押したりする機能や、画面にアンケートを表示して参加者に答えてもらう投票機能などが備わっており、これらを駆使して参加者の反応を引き出すことができる。たとえば、「間違い探し」の問題のスライドを画面に映し、参加者に、間違っていると思われる部分に印をつけてもらう、といった使い方も可能だ(図3)。

「こうしたスライドは、事前に準備しておかなければできません。したがって、オンラインで集合研修を行う場合は、臨機応変に行うのではなく、あらかじめ緻密なデザインが求められます。これが、対面での研修との大きな違いといえます」

オンライン研修で注意すべき「時間配分」と「カメラ」

研修の時間配分も、対面とオンラインでは異なる。中村氏は、対面集合研修の時間配分として、「90/20/8」の法則を提唱してきた。各数字には次のような意味がある。
● 90:理解力を保てる限度は90分。90分に一度は休憩時間を入れる。
● 20:脳の短期記憶に保持できる限界は20分。20分に一度、振り返り(リビジット)の時間を設ける。
● 8:一方的に話を聞いて退屈し始めるのは約8分後。8分ごとに参加者全員を研修に参画させる。

この法則が、オンラインでの集合研修の場合は「90/20/4」。つまり、オンラインでは対面の半分の4分ごとに参画させる仕掛けが必要になる。

「講師が目の前にいない分、退屈する時間が早まります。人が話している動画を8分間じっと見続けるのはつらいものです。そのため、4分に一度、問いかけて考えてもらったり、オンライン上のツールを使って全員を巻き込むような工夫が必要です」

90分の研修のなかで4分ごとに参画させるには、相当な準備が必要になる。しかも飽きさせないように、バリエーションを増やさなければならない。その意味でも、対面での研修以上に緻密なデザインが求められる。

なお、カメラの使い方もオンライン研修における課題の1つだという。参加者の反応を見るために、あるいはまじめに参加しているかどうかを監視するために、カメラをオンにして行う研修が多い。しかし中村氏は、「個人が集中できる環境をつくるためには、カメラはオフの方がよい」と話す。

「人の目は、明るい物や動く物に反応して視線を向ける習性があるため、たくさんの人の顔が映っていると、どうしてもそこに目が向いてしまいます。そのうえ、自分のカメラ映りや、他の参加者の服装が気になるなど、集中を妨げる要因がたくさんあります。

逆に、グループごとに分かれて話しあうときなどは、カメラをオンにした方が話しやすいでしょう。実は講師も、画面上に常に映っている必要はありません。カメラで参加者の反応を確認するのではなく、こまめに参画の時間を設けることで反応を確かめたり、ワークの時間を設けて集中させることが大切です」

多くの企業がコロナ禍でオンライン研修を体験したことで、今後は研修目的に合わせて対面/オンライン、同期/非同期の手法を組み合わせる「ブレンディッドラーニング」が定着するだろうと中村氏は展望する。

「オンラインでは、講師の話をただ配信するのではなく、参加者主体の、よりインタラクティブな研修が増えるでしょう。一方、対面集合研修はコストと時間をかけて実施するだけの価値があるものに絞られ、参加者が事前に身につけた知識やスキルを参加者同士で活用・応用したり、何かを創造する場になると思います」

Afterコロナの世界では、多様な教育・学習ツールの特性を踏まえ、効果的な研修をデザインするIDの重要性が、ますます高まりそうだ。

Learning Design 2021年03月刊

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