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特集│HR TREND KEYWORD 2021│人事│カルチャーモデル
カルチャーを意図的につくり、
強い組織へと導く設計図

コロナ禍は「変化への対応力」を企業に問う結果となった。
変化に強い組織の特徴は何か―。
取材を重ねるなかで見えてきたのが「カルチャー」の存在である。
カルチャーとはどのように生まれ、どう影響するのか。
組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む唐澤俊輔氏に聞いた。

唐澤俊輔(からさわ しゅんすけ)氏
Almoha LLC, Co-Founder COO

慶應義塾大学法学部卒業後、日本マクドナルドに入社、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。会社のV字回復に貢献する。
その後、メルカリで人事・組織の責任者、SHOWROOM にてCOOを務めたのちAlmoha LLCを起業。
組織開発やカルチャー醸成のコンサルティングおよび、組織開発のためのサービスやシステムの開発に取り組む。グロービス経営大学院客員准教授。
著書は『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

[取材・文]=村上 敬 [写真]=唐澤俊輔氏提供

リモートワークの広がりとともにコミュニケーションがとりにくくなり、組織としてどのようにベクトルを合わせていくのかが課題になっている。そうした流れのなかで注目を集めているのが、組織を貫く「カルチャー」の存在だ。『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』の著者であり、複数の企業で組織文化づくりに携わってきた唐澤俊輔氏は次のようにカルチャーを定義する。

「どの企業も、根底には自分たちが大切にしているものがあり、それと連動する形で採用や福利厚生といった人事制度の運用を行っています。単に根底にある理念だけを指すのではなく、組織のあらゆる活動をとおして積み上がったものが“カルチャー”なのです」(唐澤氏、以下同)

カルチャーは意図してつくるもの

カルチャーは企業活動の積み上げで醸成されるものだと聞くと、コントロールできないものだと考える人もいるだろう。しかし、それは勘違いであり、その勘違いが企業に不幸をもたらすケースもある。

「カルチャーは自然にできあがるものととらえて意図的につくる取り組みをしないと、思いもつかない悪い組織風土が根づく恐れがあります。たとえば上の人にものを言いにくいカルチャーができてしまえば、事故が起きてもすぐに報告しなかったり、業績の数字を改ざんして上にあげたりという事態を招きかねない。東芝の不適切会計はまさにこうしたカルチャーが温床になっていました」

カルチャーの設計を放棄してダメージを受けるのは企業だけではない。組織で働く人も疲弊して離職につながる場合がある。

「フラットなカルチャーだと聞いて入社したのに、実際はヒエラルキーの強い組織だったとしたら、その人にとってはストレスのある職場環境でしょう。企業があえてウソをついたなら論外ですが、企業自身はフラットと思っていても、現場は違っていたというケースが少なくありません。後者のようなギャップができるのは、カルチャーを可視化して全社で共有できていないからです」

ジョブ型雇用にも欠かせない

企業が先手を打ってカルチャーづくりをする必要性は、ニューノーマルの時代においてますます高まっている。コロナ禍をきっかけに広がったリモートワークだが、多様な働き方にも対応できる一方で、弊害もある。唐澤氏は次のように指摘する。

「1カ所に集まって仕事をしているときは、お互いに雑談をしたり、向こうで話している人の会話が漏れ聞こえたりして、その会社の空気感をなんとなく把握することができました。

しかし、リモートではその空気感を感じることができません。その結果、それまで暗黙の了解で進んでいたものについてもきちんと説明することが求められるようになります。この説明に要する手間や時間が、組織全体の生産性を落としてしまう。何か意思決定する際にも、前提の議論に時間を取られて先に進まないという事態が多発するでしょう」

そこで重要になるのがカルチャーの存在だ。

「たとえば『お客様第一』というカルチャーが可視化されて浸透していたら、意思決定の際に『それは、コストがかかる』、『いや、従業員満足度が……』と論点がズレていくこともないでしょう。リモートワークで空気感をつかみづらくても、同じ目的に向かった議論ができるはずです」

ニューノーマルでジョブ型雇用導入の動きが出てきたが、カルチャーはジョブ型雇用にも欠かせない。

「リモートになると1カ所に集めてマネジメントできません。今後、働き方はある程度の裁量を与えられた自律分散型が主流になっていくでしょう。ただ、自由に任せると、本来進むべき方向ではないところに物事が進んでしまう場合があります。それを防ぐには、カルチャーを可視化して『ここからここまで』とガイドしてあげる必要があります。

また、自律分散型に適した雇用制度としてジョブ型が注目されていますが、ジョブディスクリプションさえ決めればうまく機能するわけではありません。ジョブ型に移行すると、多様な背景・考え方をもつ人材が入社してくるため、カルチャーを共有し根底の価値観を揃えておく必要があります」

自社のカルチャーモデルを可視化するには?

問題は、カルチャーをどのように設計するかだろう。組織のあらゆる活動に影響するのがカルチャーだ。そこで参考にしてもらいたいのが、唐澤氏が提唱する「カルチャーモデル」である。

「事業においてビジネスモデルがあるように、組織についてもその会社に適した『カルチャーモデル』があります。事業(ビジネス)と組織(カルチャー)は企業の両輪なのに、これまで企業はカルチャーモデルを可視化してこなかった。カルチャーを重視するなら、自社のカルチャーモデルを意識すべきです」

唐澤氏はこれまで日本マクドナルド、メルカリ、SHOWROOMの3社に在籍したが、それぞれにカルチャーの中身は異なっていたという。

「日本マクドナルドは、生産性を高めるために現場のマニュアルが細かく決まっていて、経営はトップダウン。それに対してメルカリは、現場に権限を委譲する自律分散型のカルチャーでした。さらにスタートアップのSHOWROOMは、細かな決まりはないものの、カリスマ起業家である前田裕二さんが組織を引っ張っていました」

これらの企業のように、自社のカルチャーモデルを明らかにして、それにふさわしい組織構造や人事制度にすることで、組織のカルチャーは強化されていく。では、自社のカルチャーモデルをどのように把握すればいいのか。カルチャーモデルは企業によって異なるものの、実は構成する要素は変わらない。それに気がついた唐澤氏が要素を整理してフレームワーク化したのが、カルチャーモデルの「7S」(図1)だ。

「マッキンゼーが提唱する組織運営に関するフレームワーク『7S』にヒントを得てつくりました。カルチャーモデルの7つのS とは、スタンス(組織としての在り方)、シェアドバリュー(行動指針)、ストラクチャー(組織の構造・形態)、システム(制度)、スタッフ(人の採用や育成)、スキル(組織としてのスキル・強み)スタイル(組織風土)のこと。まずはこれに当てはめて整理すれば自社のカルチャーモデルが可視化できます。またカルチャーを見直したり新たなカルチャーをつくったりする際には、設計図としても利用できます」

カルチャーを新たにつくり直す際を例に、全体の構造を説明しよう。真っ先に考えるべきは、カルチャーづくりの戦略を左右する「スタンス」だ。

「戦略とは戦いを略す、つまり“やらないことを決めること”です。組織づくりの際みんなにいい顔をしようと総花的に何でも取り入れるケースがありますが、それではカルチャーの方向性が定まりません。まずは自社の経営スタンスを明確にする必要があります」

経営スタンス=リーダーシップスタイル

経営スタンスは、経営のリーダーシップのスタイルによって「中央集権型か、分散型か」、「安定志向か、変化志向か」の2軸による4象限で分類できる(図2)。中央集権・変化はスタートアップによく見られる「カリスマリーダー経営」。組織が大きくなって権限委譲の必要性が生じると、分散・変化の「全員リーダー経営」や、中央集権・安定の「チームリーダー経営」(合議制で意思決定)、分散・安定の「複数リーダー経営」(事業別、地域別、子会社別にリーダーを置く)などに分かれていく。

自社のスタンスが明確になったら、次はそれにふさわしいシェアドバリュー(行動指針)を決める。たとえば自社がチームリーダー経営で、問題があればみんなで知恵を出し合ってすりあわせしながら解決していくスタイルなのに、「自分で考えて行動」のように全員リーダー経営に適した行動指針を打ち出せば、その時点で整合性が取れなくなる。

シェアドバリューが決まったら、スタンスとシェアドバリューに基づき、残りの要素を定義していく。

「7S の中心にあるのがシェアドバリューです。組織構造や人事制度など他の要素をすべて、シェアドバリューに基づき決めていくことで、内容の整合性をきちんと取ることができます。

たとえばヒエラルキーが強い組織構造なのに、Google をマネて社員同士の自由なコミュニケーションを生む食堂を導入する、といったチグハグな施策を行うことも防げるでしょう」

社員をいかに巻き込むか

カルチャーモデルは、カルチャーの設計図だ。それが絵に描いた餅にならないように、各要素を目に見える施策に落とし込みながらカルチャーの浸透を図っていく必要がある。

「カルチャーは、経営者が『明日からこう変えます』と言って定着するものではありません。カルチャーは組織の一人ひとりがつくるもの。いかに社員を巻き込みながら組織変革を行うのかがポイントです」

どうすれば社員にカルチャーについて当事者意識をもってもらえるのか。唐澤氏は「できあがってから『はいどうぞ』ではなく、カルチャーを設計する段階から巻き込むことが大切」と指摘する。

巻き込み方には順番がある。唐澤氏は日本マクドナルドの社長室長時代、社長交代にともなう、トップダウン型からボトムアップ型への組織変革を目的とした新しいカルチャーづくりのプロジェクトを立ち上げた。そのときの経験を次のように明かす。

「最初は4人の若手で議論を重ねました。ただ、この4人で展開しようとしても、『若手が何か勝手にやっている』という目で見られかねません。

そこでまずCEO のサラ・カサノバ氏に承認をもらいました。トップのコミットがあると、周りの人は『それならやる意味がある』と受け止めてくれます。トップのお墨つきをもらったら、次はプロジェクトメンバーを公募で募りました。このときも『4人が勝手にやっている』と思われないように組織横断的なメンバーにして、4人は事務局として裏方に回りました。

また、社内への影響力の大きいキーパーソンには事前に相談に行き、『力を貸してください』と個別に巻き込んでいきました」

裏方に回った4人だが、プロジェクトの全社説明などは当然行う必要がある。誰が最初の旗振り役となるか、その人選も重要だ。

「旗振り役は、カルチャーづくりについて熱量のある社員にやってもらったほうがいい。茶目っ気があって現場で愛されていれば、さらに理想的です。

日本マクドナルドの全社員集会でバリューを発表したときは、言い出しっぺの若手社員が涙ながらに語ったことで、みんなで支えようという空気ができました」

人事部門が組織変革を阻害しているケースも

その他にカルチャーづくりで気をつけるべき点は何か。唐澤氏は、成長企業と成熟企業、それぞれについて注意点を挙げてくれた。

「成長企業は、人が増えるにつれて最初につくったカルチャーが緩む傾向があります。注意点としては、とにかく早く手を打つこと。後手に回るほど、カルチャーを理解していない人の割合が高まり、カルチャーを再び浸透させる難易度が上がります。社員が100人になることが見えているなら、『100人になったら』ではなく50人の段階でスタートしたほうがいいでしょう」

一方、歴史のある成熟企業の場合はどうか。

「実は成熟企業では人事部門がカルチャーづくりの足かせとなるケースがあります。特に大企業はジョブローテーションで一時的に人事担当になることが多いため、リスクをともなう大きな変革を嫌う傾向がある。そうした組織でカルチャーづくりをするためには、トップが強くコミットするか、外部から新しい血を入れるなどの工夫が必要でしょう」

カルチャーを設計して組織に定着させる道のりは、決して平坦ではない。最後に唐澤氏は人事部門にエールを送った。

「人事部門がすべてを抱え込む必要はありません。本来、組織の中にカルチャーを浸透させるのは部門長や現場マネジャーの仕事です。人事主導でやると、むしろやらされ感が生じて定着しにくい。人事は、現場のマネジャーが組織づくりに集中できるように支援してあげるのがよいと思います」

Learning Design 2021年01月刊

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