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12月16日更新

編集部より

来年の手帳を少しずつ埋めて、今年の手帳から切り替えていく時期がやってきました。来し方を振り返り、先を思い描くときに感じるのは、時間の流れの速さと有限への実感ではないでしょうか。
今回紹介するのは、「24時間をデザインする」をスローガンに、多くのJ リーガーを輩出する熊本・大津高校サッカー部で指導を行う平岡和徳氏へのインタビュー。新年をデザインするヒントとしてぜひお役立てください。

特集│INTERVIEW1│
「 24時間をデザインする」
をスローガンに
指導者自身の本気と成長が
子どもの夢中と
自ら考え行動する習慣を育てる

公立高校でありながら50名近いJリーガーを輩出する熊本・大津高校サッカー部で25年以上監督を務めるのが、高校サッカー界屈指の名将・平岡和徳氏だ。
現在は熊本県宇城市教育長という重職を担いつつサッカー部の指導にあたる同氏に、「年中夢求」や「考動力」を追求する指導法、そして育成に対する思いを聞いた。

平岡和徳(ひらおか かずのり)氏
宇城市教育委員会 教育長

1965年、熊本県下益城郡松橋町(現・宇城市)出身。サッカー選手とて将来を嘱望され、帝京高校2年時にインターハイ優勝、3年時には主将として全国高校サッカー選手権で全国制覇。筑波大学では4年時に主将を務め、4年ぶり6度目の関東大学リーグ制覇に貢献する。大学卒業時、J リーグの前身にあたる日本サッカーリーグのクラブからオファーを受けるがこれを固辞し指導者の道を歩む。1988年熊本県立熊本商業高等学校に赴任、サッカー部監督を務め、1993年に熊本県立大津高等学校に異動し、同高のサッカー部監督に就任。これまで巻誠一郎、植田直通など日本代表として活躍する選手を含め、多くのJリーガーを輩出。日本高校選抜の監督を務めるなど多方面で人材育成に尽力する。2017年より宇城市教育長を務める。

「年中夢求」であきらめない才能を磨く

―「私の仕事は人づくりであり、サッカーやスポーツはそのツール」と断言されています。そのお考えについて、お聞かせください。

平岡和徳氏(以下、敬称略)

社会に出て一番大切なのは、苦しいときに何ができるか、ということだと思っています。そこで求められるのが何度でも前向きにチャレンジする「あきらめない才能」です。その才能を磨くことができるのが、スポーツ最大の財産だと確信しているので、サッカーを通じて、生徒たちにあきらめない才能を磨いてほしい。

そのために大切なのは、「夢中になる」ということです。夢中で頑張れば将来できるようになるのに、「今できない」だけで、すぐあきらめてしまう子どもが少なくありません。だから、生徒には繰り返しこう言うんです。「“もうダメだ”の先にいる“すごい自分”を意識しよう」と。

―平岡さんが大切にされている「年中夢求」という言葉にも、その思いがこめられていますね。

平岡

「年中夢求」とは、年がら年中、夢を求める、時間を忘れて無我夢中で取り組むといった意味です。スポーツ選手に限らず、人は成長するとき、最初は「やらされる」段階から始まって、次に興味をもって「自分からやる」段階に移り、そしてもっと良くなろうと「努力する」段階へ入っていく。通常はそこで終わりですが、実は努力の先に「夢中になる」という段階があります。

私が大津高校サッカー部で生徒にかかわる時間は約1,000日間。子どもたちには、その1,000日を努力するだけで終わらせず、「夢中になる」時間にしてほしい。夢中になって、はじめてたどりつける成長があるし、夢中になることで、社会で求められるあきらめない才能も養われるからです。

―大津高校サッカー部は150人以上の部員を誇り、インターハイや高校選手権の常連です。しかし、公立高校だけに一般入試を課しており、スカウトで有望選手を集めることは一切されないそうですね。

平岡

自分で選んで決めると本人に責任が生まれ、あきらめない才能も育ちやすいんですよ。だから「来る者は拒まず」。私は、生徒を選ぶのではなく、生徒から選ばれる環境づくりに徹してきました。

とはいえ、最初からやる気のある生徒ばかりだったわけではありません。私が27歳で赴任したころのサッカー部には、体育コースの生徒が多く、なかには「俺はサッカーをしに来たんだから授業には出ない」と、寮で寝ているやつもいましてね。とにかく、生活習慣がまるでなってない。「これじゃ勝利の女神も微笑むわけがないだろう」と言って、挨拶や身なりを徹底し、汚れた寮の床を生徒と一緒に雑巾で拭き上げるところから始めました。まさにドラマ「スクールウォーズ」のノリでしたね(笑)。

安心・安全・安定の環境が挑戦を促す

―生活習慣まで立ち戻り、生徒と一緒に汗をかき、少しずつ改善されていったのですね。ドラマさながらの熱血教師だったのでしょうか。

平岡

それはどうでしょう(笑)。しかし、1つ言えるのは、私たちが思う以上に、子どもは大人を見ているということ。選手は指導者を見ているということです。だから、大人が本気かどうかすぐにわかるし、大人が本気でなければ子どもも本気になるはずがありません。私自身が“年中夢求”でいることが、何より大切なんです。

教員になりたてのころ、同じく教師だった父から言われました。「教室に入るとき、右足から入るか、左足から入るか。そこで教師の本気が試されるんだ」と。生徒をしっかりと見ようとする先生なら、当然右足から入りますよね。生徒を見ずに、黒板を見て左足から入る教師は“給料泥棒”だと、父は断じていました。

―先生がしっかり生徒を見ていること。そしてそれを生徒が実感できるということは、とても大切ですね。

平岡

私は、子どもたちが年中夢求で物事に取り組み、失敗しても前向きにチャレンジを続けるためには、安心・安全・安定の3A が欠かせないと考えています。それをもたらす生命線が、「大人が本気のオーラを出して、自分を見てくれている」という感覚なのです。もし、学校や部活動が、安心・安全・安定した場所でなければ、子どもたちは不安で押し潰されてしまいます。

どの生徒も「ここで努力を続ければ自分は成長できるんだ」と心強く感じられるよう、私は彼らの担任の先生方とも綿密に連携して、サッカー以外での様子も努めて把握してきました。勉強を頑張っていると聞けば、朝練習の際にそれをほめたりもします。役所へ出勤する前、毎朝6時前にはグラウンドに行くのですが、朝練では試合に出る機会の少ない子を中心に、目配り、気配り、言葉配りまでするのが私の日課です。私とつながっているということが、彼らにどれだけ安心感を与えられるか。そこにも私の本気が問われています。

「考動力」を伸ばす100分間限定練習

―平岡さんは学生時代、名門・帝京高で主将として全国制覇をけん引し、筑波大でも主将を務め関東大学リーグ制覇を達成されました。当然、日本代表としての将来も嘱望されましたが、なぜ教員の道を選んだのでしょう。

平岡

熊本に戻って教員になるのは父親との約束でしたが、教育実習でその父親譲りのDNA が目覚めたんですよ(笑)。やっぱり、俺は教師だなと。子どものころから、周囲の人が何を考えているかを考えて動くのが得意で、人を引っ張ったり、まとめたりする役割が向いているなという自覚はありました。サッカーでも、そうした資質を買われて、チームやゲームをコントロールする司令塔のポジションを任されていたんです。

―この考えて動く力を、行動力ではなく「考動力」と呼び、サッカー指導の重要なテーマに据えていらっしゃいます。

平岡

大津高校では、放課後の練習時間が100分限定ですが、これにも生徒の考動力を最大化し、習慣化させたいという狙いがあります。人間、終わりがないと途中を頑張りきれません。だから練習は100分限定ですが、一切の無駄を排し、次から次へとメニューが進んでいくので、頭も体もボーッとしている暇はありません。しかも、居残り練習は禁止。照明も消します。「どうして100分の間にもっと集中して練習しないんだ?」となるので、より考えながら動き、動きながら考えるようになる。おのずと考動力が習慣化され、サッカーがうまくなっていくわけです。

また、100分のうち、最初の方はミスにフォーカスして、「どうしてそんなところでボールを奪われるんだ!」と、厳しくいきます。そして、終盤では失敗よりも成功。ボールを奪われた生徒を叱るのではなく、奪った生徒をほめて、ほめて、盛り上げて終わる。すると「もっとやりたい」「もっとうまくなりたい」となって、その良い流れが次の日の練習をより濃密にし、さらには週末の対外試合へとつながっていくのです。

―生徒をほめて練習を終えるのですね。モチベーションが高まると、「次の練習はこうしてみよう」と、より自主的に、考えて動けるようになりそうです。

平岡

そもそもサッカーは、足でボールを扱うがゆえにミスやハプニングを前提とせざるをえない、理不尽なスポーツなんです。ピッチ内で刻々と起こる目まぐるしい変化に、対応していかなければなりません。普段ボーッとしていて、人が何を考えているか、周囲の状況はどうかなんて、考えて動く気もない選手が、ピッチに出ていきなりすごいプレーができるでしょうか。私には、とてもそうは思えません。いい選手は、やっぱり普段から考えているんですよ。だから生徒には、本当の意味でサッカーがうまくなりたいのなら、100分間の練習時間に限らず、日々の生活から考えて動くようにしよう、考動力を習慣化しようと伝えてきました。

―平岡さんが掲げられている「24時間をデザインする」というスローガンにも、その思いが込められていそうですね。

平岡

24時間は有限ですが、その使い方は無限です。「デザインする」というのは、1日24時間の使い方をきちんと考えて、セルフプロデュースしようということです。アスリートの成長には、日々のトレーニングと栄養の摂取、そして睡眠という3つの要素が欠かせません。トレーニングについては私がコントロールできますが、目の届かないところもたくさんあります。

特に食事や睡眠などの生活習慣については、自分の体をこういうふうに強くしたいからこの栄養素を摂ろうとか、十分な休養をとって朝何時に起きるためにはこの時間に寝なければならないというふうに、生徒たちが自ら計画して実践するように習慣づけることが大切です。

毎日の授業や勉強への取り組み方についても同様でしょう。自分の弱点は何か、伸ばせる分野はどこか。自ら課題を発見し、アクションを起こした人間にしか、進化は訪れません。どれも高校生として、アスリートとして当たり前のことですが、その当たり前を漫然とこなすのではなく、とことん考えてやり抜く。大津高校のスローガンである「凡事徹底」こそ、24時間をデザインする極意かもしれません。

子どもの未来に触れている自覚を

―大津高校サッカー部の指揮を執られて27年めになります。各年代を引っ張るキャプテンの存在も大きいと思いますが、リーダーシップについてどのようにお考えですか。

平岡

キャプテンは、1つ上の先輩たちが話しあい、上がってきた候補から最終的に私が選んでいました。結果として決まっていたのは、いい奴、いい男、いい人間ですね。人間味のあるキャラクターというか。人としての魅力がないと、やはり人はついてきませんからね。毎年キャプテンによってリーダーシップも違いますが、それでいいと思っています。

リーダーは育てるというより、自ら育っていくものだと考えます。選手は皆、チャレンジを繰り返すなかで成長していくわけですが、リーダーとしての力量や存在感は、そのチャレンジの量と質で決まってくるのではないでしょうか。「失敗は恥でもなければ愚かでもない。失敗を認めないことが恥であり、失敗から学ばないことが愚かなのだ」と生徒にもよく言うんですよ。失敗しても、それを自分のエネルギーに変えて、チャレンジを重ねていける生徒に、リーダーの器を感じますね。

―元日本代表の巻誠一郎氏をはじめ、幾多のJ リーガーが平岡さんの指導で才能を開花させています。平岡さんもまた帝京時代の恩師、古沼貞雄氏から薫陶を受けていらっしゃいますが、「いい指導者の条件」についてお考えをお聞かせください。

平岡

私が胸に深く刻んでいるのは、古沼先生にいただいた『指導者たるもの、五者であれ』という言葉です。五者の第一は当然、「教育者」ですね。第二に、教育という学問をしっかり身につけた「学者」でなければならない。三番めは、子どもの身体と心の状態を正しく見極められる「医者」です。さらに将来を見通し、子どもの進路を方向づける「易者」。そして最後は、この四者をうまくコントロールして選手に安心・安全・安定を与えられるような「役者」であれ、というわけです。

絶えずこの五者であり続けるためには、指導者自身も学び、成長しなければなりません。肝心なのは、指導者自身が本気になり、「子どもの未来に触れている」という自覚をどれだけもつか。それは、指導を受けている生徒の顔を見れば、明らかではないでしょうか。子どもたちには、大人の本気のオーラがはっきりと見えているのですから。

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