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特集│CASE 2
オイシックス・ラ・大地
顧客との接点を大切に
ロジカル思考×リアル体験が
アウトプットの「量」と
「質」を高める

働く女性の心をつかんだ「Kit Oisix(キット オイシックス)」、コロナ禍で影響を受けた酪農家を支援する「牛乳支援コーナー」など、オイシックス・ラ・大地のアウトプットからは「社会課題を解決する」という強い目的意識を感じる。
このような優れたアウトプットを生むために、普段から何を意識し、どのような組織づくりが行われているのだろうか。人材企画室・三浦孝文氏に話を聞いた。

三浦孝文氏 オイシックス・ラ・大地 HR本部 人材企画室 室長

オイシックス・ラ・大地株式会社
2000年6月設立。「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の3ブランドで安心・安全に配慮した食品の宅配サービスを展開。
「これからの食卓、これからの畑」を理念に掲げ、食に関する社会課題をビジネスの手法で解決する事業を推進している。
資本金:16億9,132万円
連結売上高:710億4,000万円(2020年3月現在)
連結従業員数:1,688名(2020年3月31日時点)

[取材・文]=村上 敬 [写真]=オイシックス・ラ・大地提供

マッキンゼー出身の髙島宏平氏が「Oisix」を創業して、世界初の生鮮食品ECサイト「Oisix.com」を立ち上げたのは2000年だった。当時は手に入りづらかった有機野菜を手軽に楽しめることから、感度の高い消費者を中心に利用が拡大した。2017年には「大地を守る会」、2018年には「らでぃっしゅぼーや」と経営統合。パワーアップした「オイシックス・ラ・大地」は、現在毎月30万人を超える消費者が定期利用する食品宅配サービスへと成長している。

食品宅配サービスは、様々な業務で成り立っている。日本全国の生産者から安心安全な食品を調達する業務や、ECサイトの企画・構築・運用、商品を届けるロジスティクス、既存客との接点を担うカスタマーサポート、そしてそれらの事業部門を支えるコーポレート。これらの業務に携わる従業員は、果たしてどのようにアウトプットを生み出しているのか。人材企画室室長の三浦孝文氏に、アウトプット力を高める取り組みについて話を伺った。

アウトプット=顧客にとっての提供価値

オイシックス・ラ・大地では、アウトプットをどのように定義しているのか。

「私たちはお客様をとても大切にしている会社です。その意味でお客様が献立を考え、手元に商品が届いて食卓に料理が並び、家族や友人と食事をしたときの体験など、顧客にとっての最終的な提供価値がアウトプットだと考えています」(三浦氏、以下同)

提供価値という言葉だけだと抽象的な印象を受けるが、同社では価値を定量化・可視化している。

「私のいる人材企画室にとっての顧客の1つが採用活動で向き合う求職者≒未来の仲間です。誰かを新たに採用するときは、その人を雇うことによって得られるであろう効果―たとえば『年度末に売り上げ・利益・会員数をこれくらいにする』『この時期までに新しいサービスを開発してお客様に提供する』―を明確にしたうえで採用活動を行います。

当然、部門や職責によってミッションは異なります。たとえばE コマースのチームなら受注率や新規会員数、カスタマーサポートなら顧客からの問い合わせに対する応答率や課題解決までの対応日数、ロジスティクスなら欠品率の削減などが、顧客への価値に直結するでしょう」

さらに、そこに至るまでのプロセスにおいても同様だという。

「プロ野球では、『100本塁打達成』というように、最終的な目標にたどりつくまでの節目を見える化して評価しますよね。それと同じように、私たちの業務も『会員1万人獲得』『売上月10億円達成』と、部門におけるプロセスも定量化し、しっかり追っていきます」

定量的に可視化されたアウトプットは評価とも結びついている。三浦氏は人事の例で解説してくれた。

「採用ならばアクイジションコスト(人材獲得コスト)の額、オンボーディングでは半年以内の離職率が評価にかかわってきます。また現在、我が社の障がい者雇用は法定雇用率をしっかり満たしていますが、さらに高い水準に推移させることも考え、実行しています」

7つの行動規範でアウトプットの質を担保

アウトプットに定量的目標を掲げ、そこに評価が絡むとなると、気になるのは「数字だけを追いかけてしまう社員」が出ることだ。顧客にとっての価値を重視していたはずなのに、定量的なアウトプットの追求によってズレが生じる心配はないのだろうか。

オイシックス・ラ・大地は、「これからの食卓、これからの畑」という理念を掲げているが、その理念に紐づけて、「ORDism(オーディズム)」とよばれる7つの行動規範を定めている。

具体的には、「ベストを尽くすな、Missionを成し遂げろ」「早いもの勝ち、速いもの価値」「お客さまを裏切れ」「サッカーチームのように」「当事者意識、当事者行動」「強さの源泉は成長力」「前例はない。だからやる」の7つ。ここでは一つひとつ解説しないが、創業から20年たってもベンチャーらしさを失わない同社の考え方がよくわかる行動規範だ。

「ORDismには、どのような行動をすればミッションの達成に近づけるのか、あるいは何を体現すれば世の中に価値を提供できるのかといった指針が定性的に示されています。7つすべてが大切ですが、一度にすべてを意識するのは大変なので、半期ごとに1~2個を選んで重点的に体現していくことを目指しています。定量的なアウトプットを追求しても、ORDismに沿った行動をしていれば、最終的な実現したいミッションの達成に近づくでしょう」

もちろん行動規範を決めて掲げるだけでは社員に浸透しない。社員一人ひとりにORDismを普段から意識してもらえるように、同社では表彰制度を活用している。

「重点的に強化するORDismについて、行動で体現している社内事例を毎週2組前後、表彰しています。さらに、それらのなかでもっとも優れた体現を半期に一度表彰します。

ミッションやビジョンが社内に浸透しないという話をよく聞きますが、それは日常の中に落とし込めていないからです。表彰という行動規範や達成の見える化を多くすることで、常日頃から身近に感じてもらえるように心がけています」

単に回数が多いだけではない。同社の表彰制度は、人事側から各部門にヒアリングを行い、事例を積極的に掘り起こしている。

「毎週、各事業ごとの売り上げや部門KPI の達成度や活動内容などを見て、気になる数字や活動を上げているところがあれば、どのような活動が成果に結びついたのかを事業責任者やマネジャーに聞きに行きます。その活動がORDism に結びついたものなら、上長に働きかけて推薦していきます。

これも日常に落とし込む工夫の1つです。人事から問いかけ、対話を続けることで、ORDismが意識されるようになります」

部門問わず消費者や生産者のリアルな声を聞く

アウトプットの質を高めるために同社が大事にしていることは他にもある。消費者や生産者の元に足を運び、直接その声を聞くことだ。

「コロナ以前は社員がお客様の自宅にお伺いし、献立を考えたり調理をするときの困りごとについて、直接インタビューをしたりしていました。

また、生産者さんのところに行き農作業を手伝う『これからの畑 体感研修』を入社した社員は必ず受けることになっています。(※2020年10月現在はオンラインで開催)

現場でお客様や生産者さんのリアルな声を聞くことは、自分たちがなぜこの事業をやっているのかという原点に立ち返る絶好の機会です。お客様や生産者さんの困りごとに直接触れることで、自分たちがやるべきことも明確になるでしょう。

当然、話を聞くかどうかは、アウトプットの質にも影響します。同じ仕事でも、会社から指示されたからやるのと、自分で直接お客様の声を聞いて、その必要性を感じながらやるのでは、仕事に取り組む姿勢やスピードも変わります。アウトプットの質を高めるには当事者意識が必要です。その意識をもつためには現場で声を聞くことが欠かせないと考えています」

実は三浦氏のようなコーポレート部門も含め、全社員がお客様の声を聞く機会がある。頻度は「3カ月に1回」というが、消費者と直接接点のない部門にまでその機会を設けているのはユニークだ。

コーポレート部門はそれとは別に、入社後研修や人事・評価制度などの対象でもある社員にもヒアリングを行っている。

「採用した社員はもちろん、内定を出したものの辞退された方、退職が決まった社員にもインタビューをして、定性的な情報を入手するようにしています。それを抜きに数字だけを見てもただのファクトにしかならない。人事に限らず、どのような仕事も起こった事実とヒアリングなどによる一次情報と合わせてアクションを考えることが大切だと思っています」

社内に眠るメソッドを形式知に

オイシックス・ラ・大地では、アウトプットを定量評価するだけではなく、ORDismの浸透や顧客の声を聞く機会をとおして、本来のミッションを見失わない工夫もなされている。

ただ、目標や方向性が明示されていても、社員にアウトプットを生み出せる能力やスキルがなければ絵空事になってしまう。

社員のアウトプット力を高める取り組みとして三浦氏が紹介してくれたのは「社内にあるメソッドの言語化・可視化」だ。

「昔からいる人の知見やノウハウを資料などに落とし込んで、新しく入ってきた人がそれをインプットして仕事ができる体制を整えています。可視化したメソッドは社内のポータルサイトに載せていて、社員は誰でも閲覧できます。アクセスの権限は上長が設定でき、上長の判断で派遣やパートの方に公開しているものもあります」

社内に蓄積した知見やノウハウは、ディスカッションをとおして能動的にも共有が行われている。

「当社は会議やワークショップで社員同士が話をする機会がとても多い会社です。たとえば経営企画が主導してORDism の体現についてのワークショップを行ったり、事業責任者がメンバーに業績の速報を説明する会議では、それを受けて各チームで今後の取り組みを話しあったりします。そうした機会をとおして、それぞれが自分のもっている知見を話してお互いにラーニングして、次のアクションにつなげていきます」

フレームワークが社内の共通言語

社員のアウトプット力を高めるという意味では、同社のロジカルシンキング研修も忘れてはいけないだろう。

新しく入社した社員は全員、全10回から成る「問題解決講座」の受講を義務づけられている。この講座は1回あたり90分のスクール形式で、社長の髙島宏平氏や執行役員の高橋大就氏がマッキンゼー時代に身につけたロジカルシンキングを伝授する。受講者は複数名のクラスに分けられ、各クラスには先輩社員が講師役としてつく。後輩に教える立場になれば、先輩社員はさらにロジカルシンキングの習熟度を高めなければいけない。教わる側、教える側がともに成長するしくみだ。講座では毎回宿題が出されて、最終課題で合格をもらわないと卒業できない。

なぜロジカルシンキングに力を入れるのか。

「この講座で学ぶフレームワークは社内の共通言語になっていて、それを知ることでディスカッションにスムーズに参加できるためです。

たとえば、よく使うフレーズの1つに『空・雨・傘』があります。空が曇っているという事実から、雨が降るかもしれない意味合いを抽出し、傘を持っていく、つまり、正しい現状認識のもとで将来を予測して手段を講じるという論理の流れを示すフレームワークですが、社内では『この提案、空が抜けてるよ』というように使われています。こうした共通言語があるからこそ、社内で情報共有がスムーズにいくのです」

ロジカルシンキングの習得は、それ自体、個人の思考力や問題解決力を高める効果がある。さらに全員で同じ問題解決フレームワークを共有することで、チームとしてもアウトプットの向上が期待できるというわけだ。

雑談という「余白」がアウトプット力を高める

人材企画室室長を務める三浦氏自身、採用と制度企画の2つのチームを束ねる立場にある。全社の施策とは別に、チームのアウトプットを高める取り組みを聞いたところ、返ってきたのは「雑談」という意外な答えだった。

「毎朝5~10分、持ち回りでメンバーが何か話す機会をつくっています。内容はHR(人事・人材開発)のネタでもいいし、プライベートの話でもいい。その他、金曜日の夕方には、定時の10分前から20分間、誰でも参加できるオンライン上の雑談部屋を用意して、みんなで話しています」

業務に直接関係のない雑談は作業効率を落とし、かえってアウトプットを阻害するようにも思える。しかし、三浦氏は「雑談は自分の頭で考えるための余白をつくる」とメリットを語る。

「会社や上司から指示されたとおりに動くだけではアウトプットの質は高まりません。各メンバーが自分の頭で考えることも重要です。

また、いろんな知識や知見をもっているほうがいい思考や決断ができます。情報の量が多いことは決して悪いことではなく、情報を咀嚼し、整理できないことが問題なのです」

外部との交流で幅を広げる

実は三浦氏個人もインプットする情報の量や幅を強く意識している。三浦氏は、約1,700人がフォローするコミュニティー「人事ごった煮会」の発起人の1人。様々な業界の人事担当者や経営者が集うコミュニティーを運営している。

「ほぼ毎月30〜40人くらいを集めたイベントを行っていますが、そのたびに『他社ではこんなことをやっているのか』と新しい発見があります。そのまま自社に応用できなくても、入手する情報の振り幅が広くなったことで、打ち手の幅は確実に広がっています」

アウトプットを定量化し、目標管理すれば量は増えるだろう。しかし、「質」の向上にはメンバー一人ひとりの考える力を高める、行動規範の浸透を促すなど、人事部が主導した点も多かった。

効率を高めればアウトプットも高まると考えている人は、先入観を捨てたほうがいいのかもしれない。

Learning Design 2020年11月刊