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11月18日更新

編集部より

日照時間の減少や寒暖差、そして新型コロナウイルス第3波と、いっそう健康に留意したい季節がやってきました。体調管理も感染症予防も、重要なのは「一過性で終わらせない」こと。
今回紹介するのは、持続的な取り組みで健康経営を進めるジャパネットホールディングスの事例。社員の健康を増進するために組織として何ができるのか、学んでみましょう。

特集│CASE 3
ジャパネットホールディングス
全員を巻き込み、
活動をしぼませないために
“楽しみながら取り組める工夫”と
“徹底したフォロー”が
社員の健康の鍵

健康に対する意識の低い社員をどう巻き込むか」「一過性のイベントで終わらせず、いかに継続するか」。
健康経営に取り組む多くの企業が直面するこれらの課題を乗り越え、積極的な活動を展開するジャパネットホールディングス。
その背景には、決めたことを徹底的に追いかけるストイックさと、一体感をもって楽しみながら取り組む風土があった。

田中久美氏
ジャパネットホールディングス 人事本部 人事戦略部 シニアリーダー

株式会社ジャパネットホールディングス
1986年、長崎・佐世保でカメラ店として株式会社たかたが設立。
以後、ラジオショッピングにより通販事業を開始、94年よりテレビショッピング事業をスタートさせ、現在まで成長を続ける。企業理念は“「今を生きる楽しさ」を!”。
19年からは通信販売事業に並ぶ2つめの柱としてスポーツ・地域創生事業を掲げるなど社会貢献活動にも力を入れる。
資本金:1,000万円
連結売上高:2,034億円(2018年)
連結従業員数:約2,500名

[取材・文]=崎原 誠

「元気を発信する企業」でありたい

ジャパネットグループは2019年、「健康経営優良法人2019(ホワイト500)」に認定された。今回が初申請・初認定だが、従業員の健康を重視するようになったのは最近のことではない。

「認定を取得するために何かをしたわけではなく、当社がこれまでやってきたことがどう評価いただけるのか一度確認してみようと申請したところ、ありがたいことに認定をいただくことができました。創業者の髙田明は、ウォーキングシューズを販売しながら歩くことの大切さを熱く語り、お客様だけでなく、従業員にも健康の重要性を繰り返し説いてきました。2015年に社長に就任した髙田旭人も、正社員だけでなくコールセンターの契約社員やパート社員にも睡眠の大切さを学ぶ研修を行うなど、『ワクワクを発信する企業』として、従業員自身も健康であるべきだ、ととらえています」

人事本部人事戦略部シニアリーダーの田中久美氏は、自社の考え方についてこう説明する。

ただ、「健康が大切」という意識は根付いていたものの、従業員の健康増進を後押しする体制や制度・環境が整ってきたのは近年になってからだ。

「10~15年前は、たとえばカタログをつくる部署であれば入稿前は深夜まで作業することも当たり前でした。しかし、髙田旭人は、会社が大きくなっていくなか、皆が気持ちだけでついていくチームではなく、組織としての基盤を整えなければならないと考え、健康経営や働き方改革を進めてきました」(田中氏、以下同)

2018年には「ジャパネットグループは、全社員の心とからだの健康の実現と、世の中の健康増進に貢献するため、会社と社員が一体となって健康経営を推し進めることを宣言します」という「健康経営宣言」を公表。人事本部内に産業医や保健師を中心とした「健康開発室」を設置し、人事・総務と連携して、従業員の健康管理・健康増進に取り組んでいる。

担当部署が中心となり決めたことを徹底

同社の取り組み方の最大の特徴は、「決めたことを当たり前に、とことん追いかけていくやり方」だ。

残業時間の管理であれば、パソコン上で退勤の打刻をした時刻と職場を退出した時刻のログをチェックし、15分以上ズレがある場合は、その理由を人事が一つひとつ確認する。

健康診断で何らかの所見が見られた場合は、拠点の保健師が個別に声をかけ、二次検診の受診を強く勧める。同社は、全社の統括産業医に加え、各拠点に法定以上の産業医と保健師を配置し、しっかりとサポートできる体制を整えている。保健師も正社員であり、病気になった人への対応だけでなく、人事と一緒になって、制度や環境の改善にもかかわってもらう。

「普段から産業医や保健師の顔が見えるようにしているのも特徴で、社内イントラネットで親しみやすいコラムを発信し、健診後には、彼らが社員食堂にデスクを構えて相談に応じるなど、気軽に相談しやすい雰囲気づくりを心掛けています」

定期健康診断の受診率は100%。ストレスチェックについても、「必ず受けてください」「大事ですよ」と訴えることで、95%が受検している。

さらに、インフルエンザの予防接種を受けなかった人には、社内のアンケートフォームを活用して、なぜ受けなかったのかを確認する。そして、「一度もかかったことがないから自分は大丈夫」「子どもと一緒に別のところで受けている」といった理由を明らかにし、次回以降の改善に活かしている。

一人ひとり確認していくのは簡単なことではないが、同社では、健康増進の取り組みに限らず、決めたことを徹底することが大切だと考えられている。

「当社では、あらゆることについて報告が重視されています。社員食堂で提供を始めたタニタ食堂メニューがどれくらい出ているか、配布した歩数計の利用率がどれくらいかといったことも、トップに報告します。利用率が下火になると、『あまり使われていないならやめようか』と言われますので、担当部署としては気が抜けません」

楽しみながら取り組める工夫で健康意識・参加意欲をアップ

具体的な施策は、「楽しみながら健康を意識できる環境を整える」「未然に防ぐ」「いざという時に守る」の3つの軸で展開している(図1)。なかでも重視しているのが、「楽しみながら健康を意識できる環境を整える」だ。強制的にやらせるのではなく、楽しみながら参加できるように工夫し、参加者の主体性を引き出しながら活動を盛り上げている。多彩な施策があるが、特にユニークな2つを紹介しよう。

●「選択式研修」

契約社員を含む全社員が、週1回、勤務時間中に約2時間の研修を受講できるというもの。多彩なプログラムが用意されており、何を学ぶかは本人の自由だ。Excelの使い方のような業務に直結したものだけでなく、「子育てパパ・ママのフロー(心のもちよう)研修」「断捨離研修」など、各分野の専門家を招き、考え方をスイッチしたり、生活習慣を見直すヒントになるものも多い。

その一環として、「睡眠研修」や「食生活改善研修」「禁煙研修」など健康意識を高めるプログラムを多数設けている(次ページ図2)。健診後には、産業医による「健康診断の読み解き研修」も実施する。業務の都合などで受けられなかった人のために、翌週にビデオ放映も行う。

同社では、経営トップが社内報などで健康の重要性についてメッセージを発することも多い。創業者が歩くことの大切さについて語った出演番組を全社に配信することもある。また、管理職研修のなかで、勤怠管理とともに健康の大切さを教えたり、専門家にストレスについて解説してもらったりもする。こうした全社、あるいは対象者全員に対する教育も必要だが、選択式研修は、本人が自ら選んで受講するので、学ぶ意欲が高い。また、就業時間中に睡眠や食事の取り方について学べること自体が、会社が健康を重視しているという従業員へのメッセージになる。

●タニタ健康プログラム

一人ひとりが自身の健康状態を把握し、楽しみながら継続的に健康増進に取り組めるように、「タニタ健康プログラム」を導入した。社員約750人に、1日の歩数や総消費カロリーを計測できる活動量計(歩数計)を配布するとともに、各拠点に体脂肪率や筋肉量などが測れるプロフェッショナル仕様の体組成計と血圧計を設置。測定結果は個人別の専用WEBサイトに送られ、体の状態や活動量の推移が「見える化」されるしくみだ。

いかにも同社らしいのが、ただ歩数計を配って終わりにするのではなく、皆が進んで利用したくなるように様々な取り組みを行っていることだ。たとえば、各拠点では、毎月、役職者が従業員にお菓子をふるまう「お菓子会」というイベントを行っているが、活動量計のリーダーを同じスペースに置き、リーダーにかざしたらお菓子をもらえるようにして、利用率アップを図った。

また、毎月、部署対抗戦を行っており、部署ごとの平均歩数のランキングを発表するとともに、上位および特定の順位に健康にちなんだ商品を贈呈している。

「ゲーム性をもたせて、楽しみながら参加・継続できるように工夫しています。以前は個人戦でしたが、それでは活動量計をリーダーにかざす率が下がってきてしまったのです。そんなとき、ある講演で『キーマンは役職者だ』と聞き、部署対抗戦を始めました。役職者の会議でランキングを発表するので、競い合う意識が生まれ、利用率が10%も向上しました。また、活動量計自体にも愛着をもってもらえるように、グループのサッカーチームのマスコットキャラクターを描いたオリジナルシールを制作し配布しました」

健康の大切さを実感していない若手社員などは参加したがらないのでは?という疑問も沸くが、「当社はありがたいことに素直で温かい社員が多く、『頑張れ』と言えば頑張るし、『皆で歩こう』と言って歩数計を配れば、皆歩いてくれます。毎年行っている社員研修旅行やスポーツ大会もそうですが、皆で参加する企業風土があるんです」と田中氏。管理職も、「そんなことをする暇があったら仕事をしろ」などと言う人はおらず、むしろ、部下たちが活動量計を身に付けているかを確認してしっかり取り組ませようとするそうだ。

働き方改革との相乗効果で会社が変わってきた

ここまで見てきたように、同社の施策にはそれなりの投資が必要なものもあるが、「金額が高いから」という理由で導入が見送られたことはない。

「金額の多寡ではなく、本当に必要かどうかで判断されます。小さなものを買うのにも確認が入りますし、高額であっても必要性が伝われば認められます。『健康診断のオプション検診を全額会社負担にしたい』とか、『体全体をスキャンできる体組成計を各拠点に入れたい』といった提案も、『社員の健康に絶対につながるからやりたい』という熱量が伝わり、承認されました。一方、本当にそれが良いことかは厳しく審査されます。たとえばインフルエンザの予防接種の費用については、『自分ごととしてもらうには、少し本人負担があった方が意識づけになる』という理由で、本人負担分を設けました」

田中氏は、これまでの活動による会社の変化を実感しているという。

「働き方改革と健康経営の掛け合わせで、会社が変わってきたと感じます。以前は働く時間も長かったし、研修や食生活のサポートもありませんでした。それが、この10~15年で大きく変わりました。同期とも、『今考えると、10年前はよく22時過ぎまで平気で働いていたよね』と言い合ったりします。今はその分、より時間を効率的に使うために頭の汗をかく必要があります」

こうした変化は、長時間労働をよしとする一部の社員には受け入れられにくいものだが、担当部署が中心となって決めたことを徹底するストイックさと、皆が一体感をもって楽しみながら取り組む社風がうまく作用し、新しい働き方や健康増進に取り組む習慣が浸透してきた。

「初めは本当に衝撃でした。特に時間の制限なく自由に会社にいられたのに、22時でオフィスが閉まりますという話になり、『カタログの入稿が間に合うわけがない』と不満の声も出ました。しかし、電気を消して回るなど徹底して取り組んだ結果、『実はできるんだ』と体感することができ、その後、退館時刻が21時になり、20時半になった際も、やる前から文句を言うことはなくなりました」

年2回実施しているES 調査に、2019年から、会社の健康に対する取り組みへの満足度を尋ねる設問を新設した。うれしいコメントが多いというが、今後は、ここで挙がった個別の要望や満足度の点数の推移を確認しながら、取り組みの改善を図っていく。質問や要望への回答はイントラネットで公開する予定でおり、人事、健康開発室、総務が連携して、制度や職場環境の整備を進める。

「まずは、今やっていることをしっかり形にすることを目指します。最近は若年でもがんが見つかることがありますので、二次検診が必要な人をしっかりと追いかけ、100%受診してもらうことを今期の目標に掲げています。その先は、がんならがんで、もっと手厚く社会復帰までフォローします。禁煙も、オフィス内禁煙だけでなく、健康を考えて本当に吸わない状態にもっていきます。

世の中に楽しさや元気を伝えていく企業グループとして、定年退職する年代になっても元気に過ごしてほしいと考えています。まさに髙田明のようなイメージですね(笑)。社外の方にも、『ジャパネットの社員は皆、健康で生き生きしているよね』と言っていただけるよう、当社らしい取り組みを進めていきます」

決めたことを徹底する、従業員が楽しみながら参加できるように工夫する――。当たり前のようで難しいこれらのことを、地道に、あきらめずにやり続ける姿勢が、同社の一番の強みといえるだろう。

Learning Design 2020年03月刊